第14話 たとえ間違った出会いでも結べる絆があるから
目の死んでる美男美女たちに囲まれる、意識高そうに輝く笑顔の火威社長が写るセミナー風景がブラウザにアップされてる。マリリンはそれを白けた目で見てた。
「なにこれ?あらあら、なんか楽しそうなセミナーみたいね。…胡散臭い」
「これは新卒採用のための会社説明会だ。開催は明日。潜り込もう。社長さんが登壇して自社についてプレゼンして、質問も受け付けてくれるそうだ」
「いいわ。行ってみましょう。場所は?」
「会社があるのは六本木だ。大学生のふりして潜り込む」
「わかったわ。あんたに任せる。それにしてもあんたの部屋ってなんか殺風景ね。物が全然ない…」
マリリンは俺の部屋をフラフラと歩き回り始める。
「男の人の部屋に入ったの初めてなのに、凄く退屈だわ。さっきお母さまから聞いたわ。あなた異能格闘の学生大会で優勝したこともあるんでしょう?だからあんなに強かったのね。でもそのトロフィーとかメダルとかは?」
「物置に入れたよ。置いておくと邪魔だからな」
「男の人って過去の栄光を大事にするものじゃないの?自慢できるのよ?したくないの?」
首を傾げながらも、マリリンは俺の瞳をじっと覗き込んでいる。その視線は俺には強すぎた。
「自慢する男はウザくない?」
俺は冗談めかして、マリリンから目を逸らす。だけどマリリンは俺の方に近づいてきた。
「あんたが自慢話して来たら、笑顔でうざいって言ってあげる。でもね、褒めてあげてもいいのよ。あんたってなんか寂しいのよね。見てて少し悲しくなっちゃった。…大学を追い出されて寂しい?」
マリリンは俺の前でしゃがみ、顔を覗き込んできた。優し気な笑みを浮かべている。
「…そうだね。寂しいんだよね。冤罪かけられた日から人生がちっとも楽しくないんだ。だから昔の楽しかった時代のものを見ると寂しくて仕方がない。…聞いてて楽しくないだろこんな話?」
「そうね。楽しい話じゃないわ。でもね。あんたのことはもっと知りたいの」
俺の手の上にマリリンは手を重ねてきた。お風呂上がりで暖かな彼女の手の熱が、俺の手にも柔らかに伝染していく。
「なんで俺のことを知りたいの?」
「あんたと出会ったことに何か意味がある気がするの」
「ただの偶然だよ」
マリリンは俺を殺せなかったことに何か意味を見出したがってる。それは果たしていいことなのだろうか?人生で起こる出来事は偶然の連続でしかないはずなのに。もしマリリンにとって俺との出会いに意味があるならば、俺にとってもマリリンとの出会いには意味があることになる。でもどんな意味があるんだ?一体この子と俺とは何を成すために出会ったというんだ?
「いいえ、きっと意味がある。ううん。そう思いたいの。思わせてよ。イツキ。あんたがあたしの運命なんだって思わせてよ。じゃないとあたしは…他に何をしていいかわからないから…」
少し俯いたマリリンの顔は悲し気に歪んでいた。この子は理不尽によって歪まされてしまった。だけど俺の人生の寂しさに触れようとしている。それに嬉しさを感じる自分がいる。でもそれは良くないと思うんだ。
「したいことはそのうち見つかるよ。大丈夫。やりたいことが見つかるまで、うちに居ればいいさ。父さんも母さんもお前なら喜んでくれるさ」
「…ふふふ。そうね。お父さまとお母さまのこと、あたし好きよ。はじめてよ。こんな暖かな家の中で過ごしたのは。…ずっとこうしてたい…でも…それはきっと許されないことだから…」
マリリンは俺から手を放して、立ち上がった。
「この家は温かすぎるわ。兄弟たちはこの暖かさを知らずに死んでいった。なのにあたしがそれを知るのはきっと新しい罪なのね…だってここにいると嬉しいのに、すごく寂しいから」
微かに浮かべる寂し気な笑顔に、俺は痛々しさを覚えてしまった。まだこんなにも若い女の子が、背負うには重すぎる過去がこの子に寂しさばかりを与えていく。この子の復讐は果たされなかった。故にこれから先もずっと寂しさを抱えて生きていくんだ。…そんなの認めたくない。
「マリリン!明日なんだけどな!六本木って楽しい所がいっぱいある街なんだ!だから仕事が終わったら、そのまま遊びに行こう!別に四六時中真面目にする必要はない!息抜きは必要だから!…どうかな…?」
「…遊びに行く…?あたしと?」
「ああ、君とだ…。さっき話損ねた俺の昔話とか話させてよ。そしたら自慢話うぜぇって言ってくれ。そんでもって君の昔のことも話してくれ。俺はまだ君のことを全部知ってるわけじゃないんだ。だから教えてくれ。君のことを」
「…。そう…。…そう…なの…。うん。わかったわ。ちゃんと楽しい所に連れてってね。約束よ」
「ああ、約束する」
俺はマリリンの右手を取った。そしてその子指と俺の小指を絡める。
「絶対に守るから。約束だ。だから笑おう。もし出会いに意味があるというなら、それはマリリンと俺が笑い合うためのものがいい」
まだその意味には懐疑的だ。そんなものがあるとは思えない。俺たちはたまたま出会っただけ、いずれその道はまた別たれるだけだ。お互いの不幸がクロスして出会ったのに、笑い合うなんてばかばかしい。でもそれでもこの子の悲しい顔は見たくなかった。
「…うん!うん!あたしもそうであってほしいよ。…約束だからね…叶えて…お願い…」
少し瞳を濡らしながら、マリリンは頷いた。いつかは本当に気兼ねなく、笑い合えるようになれたらならいい。そう願った。
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