第12話 温かいお家にご招待!

 マリリンを連れて家の最寄り駅のスーパーでお泊りに必要なものを買ってから我が家に帰って来た。


「独り身なのに、一軒家に住んでるの?立派ね」


 俺の家の前でマリリンは何処か感心しているかのように呟いた。


「いや。俺の持ち家じゃないぞ。両親の家だからな」


 俺は最近流行りのこどおじだったのだ!!でもちゃんと稼いでるから許してほしい。


「え?あなたって実家暮らしなの…?嘘でしょ…」

 

 マリリンがなんか驚愕の目を俺に向けている。そんなに驚くことかな?


「今どきは普通だと思うよ。別に結婚してないし、仕事先は都心の会社か、在宅でなんとかなるし。家を出る必要がない。無駄金は使わない主義なんだ」


「…ええ…じゃあ、ご両親がいるわけよね…ちょっとハードルが高いのだけど…。あたしたち出会ったばかりよね?いきなりご両親に紹介って、ちょっと…えへへ」


 顔を少し赤くしてまごまごするマリリンだが、そんな反応されても俺の方が困る。


「居心地悪いかも知れんが、取り合えず我慢してくれ。お前は俺の知り合いの知り合いの知り合いの娘さんってことしておくからそのつもりで」


「それはもはや他人では…?取り合えずカバーストーリーを作っておきましょう。そうね…出身はステイツのコネティカット州。父は在沖縄アメリカ海兵隊の将校で、あたしはその娘。観光で東京に出てきて、旅費を浮かせるために、知り合いの知り合いの知り合いの知り合いのあなたの家にご厄介になったってことにしましょう」


 海兵隊に拘りがあるのかな?セーラー服も確かもともとは海兵の制服だっけ?軍務がこの子の誇りだったのは間違いない。


「家出娘を拾ったっていうよりはましっぽい感じだな。そういえば沖縄にいたの?」


「ええ。1年前からあたしだけ任務で沖縄の海兵隊にいたの。だから本土の兄弟たちと違って、あたしはなんとか逃げ出せた…。で、沖縄から九州に上陸して、ここまで歩いてきたわ…。大変な旅だった…。持ち出せたお金はあんまりないから基本野宿。そして山や海で狩りをして、飢えを満たすサバイバル生活…屋根のある生活が恋しい…ああ、やっとまともなところで眠れるのね…」


 なんかしみじみと遠い目で語るマリリンの背中には哀愁が漂っているように見えた。話を逸らそう。悲しすぎるもの。


「あのハゲともそこで会ったのかな?沖縄とか言ってたし」


「あたしはあいつのこと知らないけどね。半年くらい前に沖縄で反異能主義テロリストとドンパチやったからその時ニアミスしたんじゃないかしらね…」


 異能が一般的になったからこそ、それに反発する思想も生まれてしまった。異能力の運用には一種の格差が付き纏うので、経済的な面からも支持者が多く、時に彼らの起こす事件が世間を揺るがしたりすることもある。


「あんなキモいハゲの話はやめましょう。案内してちょうだい」


「わが家へようこそお姫様。歓迎したしますよ」


 そして俺はマリリンを我が家に連れ込んだ。






「パパ活をするなんて思わなかったわ…。すぐに弁護士雇って警察に行きましょう。まだ間に合うよイツキちゃん。確かに男が若い子好きなのはしょうがないかも知れないけど、これは限度があるわ。お母さん、自首するときついていってあげるからね」


「いや違うからね。パパ活なんてやらんから」


「でもこんなかわいい女の子がイツキの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いにいるなんて思えないんだけど…。なあ父さんにちゃんと話してくれ。大丈夫。父さんたちはお前の味方だからね」


「だからやましいことは何もないからね。俺はまっとうな社会人やってるから」


 家に帰ってきて俺とマリリンを見て、両親は速攻疑いかけてきた。てか知り合いの数が増えてる…。仮に知り合いを6回くらい辿れれば、どんな奴だって、いつかは超美少女に辿り着けると思うんだけど…。


「マリリンさん。イツキちゃんに強引に連れてこられてたってことはないよね?この子は悪い子じゃないけど、誤解とかはされやすいから、ちょっと心配なんだけど…」


 俺の母、神実葵かんざねあおいはマリリンのことをすごく心配そうに見つめてる。


「そういうことはないです。合意の上でここに連れ込まれました。でもご両親がいたので、正直驚いてます」


「連れ込まれた?!ちょっとイツキちゃん!!どういうこと?!」


「マリリン!!言い方!!言い方!!」


「あらごめんなさい。本当は月に手取り30万円貰って、いつも傍に居るように依頼されました」


「30万円も?!こんな子にどんな事させる気なんだイツキ!!そんなこと絶対に許さんぞ!!」


 俺の父、神実徹かんざねとおるは机を叩いて怒鳴った。


「言い方!マリリン!言い方!やめて!まるで俺がパパ活してるみたいじゃん!やめて!マジで勘弁して!!」


 俺に向ける両親の目がすごく冷たい。そしてマリリンはニヤニヤと笑っている。こいつわかってて俺の事イジメてるね?


「すみません。御父様、御母様。あたしはちょっと人に言えない事情があって、息子さんのところへ来ました。ですが良くして貰ってます。お二人の息子さんは、困っているあたしに手を差し伸べてくれたいい人です。お二人が心配するようなことはありません。ご安心ください」


 マリリンは俺の両親に向かって、にっこりと笑う。そして綺麗な御辞儀をした。


「大変ご迷惑ですが、しばらくあたしをこの家に置いてください。あなた方の息子さんのご厚意に甘えさせていただきたいのです。お願いいたします…」


 なんともまあ可愛らしいというか健気というか、そんな雰囲気を出しながらマリリンは俺の両親に頼んだのだ。


「あらまあ…よくわからないけど。困ってるのね…。イツキちゃん!ちゃんとマリリンちゃんのこと守ってあげなさいよ!マリリンちゃん。今日は何が食べたい?美味しいものいっぱい作ってあげる!」


「そうだぞ!マリリンさんをちゃんと守ってあげなさい!葵!寿司の出前を頼もう!!最近流行りの配達アプリを試してみようじゃないか!」


「手作り!」「出前!」「手作り!!」「出前!!」「手作り!!!」「出前!!!」「手作り!!!!」「出前!!!!」


 なんか仲良く喧嘩しはじめる両親をしりめにマリリンがクスクスと笑ってる。


「楽しいご両親ね。それにいい人」


「お人好しなだけだと思うぞ」


「だからあなたもお人好しに育った。あの時、あたしの銃がジャムった理由がわかったわ。神様がいい人を生かそうとしてるのよ。きっとそう」


「偶然だと思うけどなぁ」


「そうかしら?もしあの論文を書いたのがあなた以外だったら、あたしはそいつをきっと殺せたはずよ。…そう思えてならないの…」


 偶然に必然を見出すことは科学者ならば、戒めなければいけない。あの時銃がジャムったのはただの偶然に過ぎない。そこに意味を見出すのはただの願望だ。俺は復讐を単純に否定はしない。でももしかしたらこの子は、自分の感情を満たすためだけに人を殺めることを良しとはしなかったのかも知れない。この子は街中では銃を使わなかった。使えるであろう軍用の大量破壊異能も使わなかった。俺の命だけを狙って、他を巻き込もうとはしなかった。きっとこの子は優しいんだろう。…しばらくは傍で見守ろう。そう思った。




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