11 稲妻を呼ぶ女 コール・オブ・ビューティー

 サメとタコが融合した怪物は、稲妻の攻撃が苦痛だったのか、触手が踊り狂っていた。

 白いレザーコートをまとう女性は、追撃の手を止めずスマホの照準が合うとタップ。


 廊下に雷光が発生し、稲妻が三方向から交わるように入射してくる。

 真上から見れば三脚の形を成しているに違いない。

 

 何かの装置から稲妻をまとへ向けて発射しているのか、目の前の女性は尚もスマホをタップし続け、稲妻を校舎の廊下へ呼び込み、怪物へ命中させる。

 命中する度に荒れ狂う怪物。


 白いコートの女性が最初に登場した時、女神か天使に思えたが、怪物をひたすら痛めつける様を見て、段々、冷徹な白い悪魔にも思えてきた。

 

 だが、さすがに異形の怪物も学習したのか、床へ伏せる体制をとり窓の下へ隠れる姿勢になった。


 すると、窓から入射する稲妻は怪物の頭上をかすめて、的を外した。

 平たいポニーテールを揺らす彼女が焦りを口走る。


「ヤバい――――死角に逃げられた」


 異形の怪物は赤灯の目を怪しく光らせると、その光りは線香花火のように弾けた。

 

 その光景は身に覚えがある。

 教室へ逃げ込んだ時、同じ現象を目撃して、最悪の事態に見舞われた。

 

 怪物は口を大きく開き大砲のように傾けると、天井へ向けて口から紫色の怪光線を発射。

 蛍光灯に当たるとガラス管は光が増して破裂。

 紫色の怪光線は天井をなぞると、次々に蛍光灯を破壊した。

 まるで光の槍を振り上げ、蛍光灯を打散うちちらしているようだ。


 僕に向かって破片の雨が降り注ぐ寸前、白いコートの女性が覆い被さり、身を挺して破片から守ってくれた。

 彼女の女神のような顔を間近で拝んだ。


 というか、すごい美人!


 今の反撃で形勢逆転。

 それを察してか、謎の美女は僕の手を荒々しく掴んで立ち上がらせると、コートをひるがえし異形の怪物とは真逆の方向へ走り出す。


「わ、わぁ! ちょっと待って――――」


 美女に手を引かれ、さらわれるなんて、健全な男子なら興奮で爆発してもおかしくないが、そんなことを満喫する余裕はない。


 手を引く彼女はスマホを後方へかざしてタップ。

 怪物への目眩ましなのか、稲妻を乱発。

 廊下の窓は全て、青白い一閃に埋め尽くされる。


 怪物も負けじと応戦。

 口から吐く怪光線が彼女の持つスマホへ命中。

 白いコートの女性はスマホを確認すると、攻撃を諦めた素振りでポケットへしまう。


 僕は成されるがまま、謎の美女と共に廊下を駆け抜けた。

 

-・-・ --・-


「はい。現在、対象者マルタイの安全を確保しつつ行動を共にしています。はい。スマホ……機材の故障で武器は使えません」


 白いコートに身を包む謎の美女に連れられ、僕は校舎の四階まで駆け上がり、屋上へ出る踊り場で息を切らし、へたり込んでいた。

 屋上の扉越しに強さを増す雨音へ耳を預けた。


 僕を連れ回した当の本人は、しきりに袖口を口元と耳元に交互に動かし、どこかと通信していた。

 美女のハキハキと答えていた口調が急変。


「あ、いや、それはその緊急だったので、やむなく……で、でも、いつもみたいに処理を……は、はい……」


 彼女は通信が終わると、しょぼくれた表情で向き直り愚痴をこぼす。


「学校の窓ガラスを割ったこと、怒られた……」


 いやぁ、まぁ、そうだよな。

 あの割れたガラス、どうするんだろ?

 白いコートに身を包む女性はあっけらかんと答える。


「あそこまでキツく言わなくていいのに。どうせ、ウチの組織・・がもみ消してくれるのに」


 かなり問題ある発言をしてる。

 なし崩しに一息着けたわけだし、いい加減、白い幽霊とか、白いコートの女性とか、謎の美女なんて呼び方はまどろっこしい。


 聞くなら今しかない。


「あ、貴女は誰ですか? あの怪物は何? なんで僕を追いかけるのですか?」


 僕が鼻息を荒げて質問するものだから、謎の美女は両手で制止する。


「ちょっと、そんなにいっぺんに聞かないでよ。そうねぇ、まずは……」「貴女が出したあのビームはなんですか? 怪物の口から出た変な光線は? さっきから誰と話をしているんですか? これから何を――――」


 彼女の話が始まるのを遮り、質問攻めにしていると、突然、僕の頭上で鈍い音がして周りの景色がブレた。

 痛みで頭を押えてうずくまる。


 脳天に来る猛烈な痛みが、彼女の繰り出したゲンコツなのだと教えてくれた。

 白い悪魔の一面を見せる美女は冷淡な口調で言う。


「説明するから聞いて」


「……はい」

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