信頼のその先にあるもの

@N_Y_P_D

第1話

【AD300年、ミグレイナ大陸・蛇骨島】


魔獣の村・コニウム南側付近


魔獣の子どもが一人、茂みの中で探し物をしていた。


魔獣の男の子

「え~っと、多分ここら辺になら……あ、あった!黄色い花に、白い花も……!これだけあれば、きっと良い花飾りが出来るぞ!母ちゃん喜ぶかなあ……!よし、持てるだけ持って帰って

、バレないように作らなきゃな!」


花を両手いっぱいに摘み終えた魔獣の男の子が村へ戻ろうとした時、ふと視界に見慣れない物が入った。


魔獣の男の子

「…あれ?何だろう……。」


少し離れた所で、白く長い髪の毛を携えた魔獣の男が木にもたれかけて座っていた。着ている服はよれよれで、使い古しているのが一目でわかる。

男の子が近付いていく。


魔獣の男の子

「おじさん、どうかしたの?」


痩せた魔獣の男

「………ああ……いや、ここ最近ほとんど何も食べてなくてね。ちょっと疲れたんで 、ここで休憩していたんだ。」


魔獣の男の子

「え!?大変だ!すぐに村の人を呼んで来るよ!」

男の子が慌てて走り出そうとする。


痩せた魔獣の男

「いや!駄目だ待ってくれ!それは駄目だ……誰にも知らせないでくれ!」


魔獣の男の子

「えっ…どうして?」


痩せた魔獣の男

「俺は…………昔から他人とは馴染めなくてね。ずっと前から独りで暮らしているんだ。だから……。」


魔獣の男の子

「おじさん、コニウムに住んでるんじゃないの?」


痩せた魔獣の男

「ああ、俺はガバラギの南の方に小さな拠点を作ってひっそりと暮らしてるんだ。俺みたいな奴がいると知ったら、コニウムの村の人間を混乱させてしまうかも知れない。騒ぎになる様なことはしたくないんだ…。」


魔獣の男の子

「でも、何か食べないないと、このままじゃおじさん死んじゃうよ!ここは村の近くとはいえ、魔物もやって来ないとは言えないし。」


痩せた魔獣の男

「魔物は大丈夫さ。下手に動かなければ、よほど気付かれることはないよ。」


魔獣の男の子

「う~ん……わかった、じゃあ僕がおじさんに、何か食べ物を持ってくるよ!大丈夫!誰にも話したりしないさ!僕を信じて!」


痩せた魔獣の男

「だが……。」


魔獣の男の子

「平気だって!こう見えて俺、魔物と戦ったこともあるんだぜ!一人でじゃないけど…………。とにかく!食べ物持ってきてあげるから、そこで待ってて!」


痩せた魔獣の男

「そうか……じゃあ、すまないな。よろしく頼むよ。そうだ、君の名前を教えてくれないか?」


魔獣の男の子

「僕?僕はテラっていうんだ!でも話は後あと!食べ物持ってくるから!」


そう言いながら魔獣の男の子テラは、コニウムの村へと走って行った。


痩せた魔獣の男

「テラか………君は優しいんだな…。

こんな見ず知らずの俺を助けてくれて…………。

そうだな……君とは………仲良くなれそうだ………………。」


魔獣の男は静かに微笑んだ。




数日後。




【AD300年、ミグレイナ大陸・セレナ海岸】


王国騎士の二人は治安維持のためセレナ海岸を巡回していた。


真面目な王国騎士

「それにしても、最近は魔獣も随分大人しくなったな。」


陽気な王国騎士

「ああ。この頃じゃ魔物にさえ気を付けてれば良いって感じよ。まったく助かるぜ。」


真面目な王国騎士

「そういう気が緩んでる時にこそ、魔獣は目を付けるんだ。奴らは魔物と違い賢いからな。」


陽気な王国騎士

「そうは言ってもよぉ。こっちには聖騎士様の生まれ変わりだの、魔剣の騎士だの、とんでもない奴らがいっぱいいるんだぜ?そんな中で悪さしようなんて思わねーって。」


真面目な王国騎士

「人間にも魔獣にも、過激な思想を持っている奴は必ずいる。とにかく、いついかなる時も気は抜かないことだ。今だって、ここに居るのは俺たち二人だけだからな。こんな時大勢の魔物や魔獣に襲われたら、ひとたまりもないぞ。」


陽気な王国騎士

「恐えーこと言うなよ。……あーあ、俺たちの巡回にも魔剣の騎士くらい一緒に付けてくれればよー。こっちだって安心して見て回れるのになあ。」


真面目な王国騎士

「仕方ないだろう。今は人手も足りないし、みな忙しいんだ。」


二人は歩き続ける。


陽気な王国騎士

「…なあ、お前見たことあるか?魔剣の騎士…ディアドラって言ったっけ。彼女の悪魔の如き剣さばきをよお。一度だけ大型魔物討伐の時に付いていったが、ありゃ人間業じゃねえよ。」


真面目な王国騎士

「……俺も一度見たことはあるがな。確かに、凄まじい強さだった。」


陽気な王国騎士

「なんでも、噂によるとあの女が持ってる剣は、魔物の魂を吸うんだとか………うう、考えただけで恐ろしいぜ。あの女が味方で本当に良かったよ。」


真面目な王国騎士

「………まあ、味方の内はな。彼女は、なかなかに非情な性格らしいからな。油断ならん。」


陽気な王国騎士

「噂っていえばよ、もう1つ。これは俺も初めて聞いた時は思わず笑っちまったんだがよ、聖騎士アンナの生まれ変わりっていわれるアナベルと、今話したディアドラってのが実は……。」


王国騎士の1人が異変に気付き立ち止まる。


真面目な王国騎士

「待て!…………あれを見ろ。」


正面に人影が見える。


陽気な王国騎士

「あん?ありゃあ…!ま、魔獣じゃねえか!?こんな所で何してやがる…!?」


二人の前には黒髪短髪の背の高い魔獣の男が背中を向け立っていた。


真面目な王国騎士

「立ったまま動く気配がない。慎重に近付くぞ、気を抜くな。」


陽気な王国騎士

「お、おう……。」


二人は魔獣の男に近付いていく。


真面目な王国騎士

「おい!そこの魔獣の男!こんな所で何をしている!」


魔獣の男

「……!!」


振り返った魔獣の男の服には、大量の血が付いていた。


真面目な王国騎士

「なっ……!!おい!そこを動くなよ!少しでも妙な動きを見せたら、即座に攻撃する!」


王国騎士二人は武器を構える。


魔獣の男

「…くそ…………!」


真面目な王国騎士

「この男を見張っていろ!周囲の警戒も怠るな……!」


陽気な王国騎士

「お、おう……!」


真面目な王国騎士が、周囲を調べていく。


真面目な王国騎士

「なっ…………!」


そこには全身を切り裂かれた商人風の男が血塗れで横たわっていた。


商人

「…………ぐっ…………!」


真面目な王国騎士

「人間の男がここに倒れている!年齢は3、40代……息はあるが、出血が酷い…!!

すぐに戻って団長に報告し指示を仰げ!!ここに応援と医療部隊の派遣を要請しろ!!現場の詳細は団長以外には絶対に話すな!!」


陽気な王国騎士

「え!?こ、この男はどう…!?」


真面目な王国騎士

「俺が抑える!さっさと行け!!」


陽気な王国騎士

「わ、わかった……!」


陽気な王国騎士は全速力で王都に戻っていった。


真面目な王国騎士が魔獣の男に武器を突き付ける。


真面目な王国騎士

「貴様……その服に付いてるのは全て返り血か……!!一体何を企んでいたのか知らないが、俺たちに見つかった以上、もう終わりだ……!大人しく捕まる方が身のためだ……!」


魔獣の男

「………違う………………違うんだ…………!!」


魔獣の男は苦悶の表情を浮かべながら、声を絞り出した。









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