第129話 怨嗟の復讐者②
ぶるるっ
隻眼のミミーアキャットに睨まれた瞬間、ゾワッと全身の毛が逆立った。
「エルエルを守りながら壁まで後退!!そのままエルエルを中心にして防衛戦に移行する!!」
とにかく、非戦闘員であり医療要員でもあるエルエルは最重要守護対象だ。武器を構えて警戒しながら、囲まれる前に壁際をキープする。
戦闘中に背後まで気にしている暇はない。ならばこその背水の陣だ。退路を断つのは愚行だが、端から退路がない場合に至ってはこうせざるを得ない。もう覚悟を決めて戦うしかない!
「仲間の位置をよく見ながら出過ぎないように!!」
この防衛線を突破されてしまえばエルエルはひとたまりもない。攻めに転じる時もより一層慎重にいかなければならない。
多少無茶をして攻め切るという選択肢が取れない以上、個々が決して戦闘不能に陥らないようにするのが肝心だ。
ぞっ
「来るぞ!!」
隻眼のボスを筆頭にしてミミーキャット達が地を蹴り、怪物が叫んだ。凄まじい悪寒を感じ、地面に投げ捨てられた松明が、剣を握る両の手の僅かな震えすらも照らし出す。
僕を捉えるボスの眼は
くっ
僕は雑念を振り払うように力任せに剣を振るった。
が、隻眼のボスは難なく躱し、足を擦りながら距離を測りつつ剥き出しの敵意をぶつけてくる。
サーベルタイガー、紅熊、キメラモンキー、悪魔……奴らの恐怖を思えばこいつらミミーアキャットなんて雑魚だ!ただの美味しい肉の塊だ!何を日和ってる!?
強引に一歩踏み出し、ブンッと空気を擦る鋭い音を発しながら袈裟斬りを放つ。
だがそれも躱され、カウンターとばかりに爪が飛んでくる。
そうはさせるか!
振り下ろした剣の切っ先をクルッと捻り、伸びた腕に斬り上げを仕掛ける。
サッ
しかし隻眼のボスはいち早く危険を察知し、攻撃をやめて距離を取った。が、明らかな後ろ重心!次で仕留める!
「みみぃ!」
くっ
しかし別のミミーアキャットが特攻してきている。ここで欲をかいて防衛線を崩せば誰かが攻撃を受けてしまう!
僕は一歩引きながら飛んできたミミーアキャットを両断した。
やっと一匹!ジェニ達も迎撃に徹していて、撃破数はあまり振るっていない。これは縛りだ。やはりと言うべきか動きが鈍る。
対ミミーアキャットという括りの中では最高火力となるジェニが本領を発揮できていない。ジェニの圧倒的な情報処理速度が可能とする剣舞のような戦闘スタイルが取れないからだ。
これがミミーアキャットだけならまだよかったんだけど……
バサバサァとカラスモグラ達が狭い落とし穴を通って少しずつ増えてきた。カサカサとベンティスパイダー達もその後に続く。
くそっ!こうなる前にもう少し数を減らしておきたかった!それにしてもなんだこいつは!?
隻眼のボスは間合いを計りながら何度も攻撃を仕掛けてくる。
こいつのせいで攻撃に移りづらい!確かな殺意を漲らせながらもまるで時間を稼ぐことが目的かのように立ち回ってくる!おかげで今やこの空間は
「カァ~!」
その時、闇に紛れた黒い羽毛が重力加速度を味方につけた恐ろしい速さで襲い掛かって来た。とんがった
時を同じくして地からは隻眼のボスとミミーアキャット。
迷っている暇はない!
僕は半円を描くように空中のカラスモグラの首を落とした。
「つっ……!」
「大丈夫か!?」
自分も次々と襲い来る
僕の傷をエルエルが治すより早く皆が傷だらけになってしまうから。
そしてまたカラスモグラが今度は二匹、ミミーアキャットも同時に迫る。
「いぎっ!」
一、二と素早くカラスモグラの首を斬り落とすも、
そこにベンティスパイダーもカサカサと来やがった。この中で最も注意すべき
体長も一メートルは軽くある。個体数が少ないのだけが救いか。
宙のカラスモグラに、地のミミーアキャット。加えてベンティスパイダー。その矛先が今、同時に僕を向いている!
飛来するカラスモグラ、こいつらは何も
それはミミーアキャットも同様だが、こいつらはジャンプしない限り急所には届き得ない。優先順位は低い。それでも何度もくらえるほど
ミミーアキャットが三匹同時に跳びかかって来た!
一番右のミミーアキャットが僅かだが遅れている!目聡く見抜いた僕は、左のミミーアキャットを蹴り飛ばすと同時に真ん中のミミーアキャットを両断。素早く腰を捻りショートソードを右のミミーアキャットへ……振り抜こうとした時にはもううなじへとカラスモグラの爪が迫っていた。
しまった!!
背の低いミミーアキャットに集中したことで後ろの上までは把握しきれなかった!!
更に間の悪いことに正面からベンティスパイダーの糸が飛んできていた。
しかしもう攻撃態勢に入ってしまってる!無理に回避行動を取るくらいなら振り抜くしかない!!
ならばと諦めを含んだ本気でもって振り抜いた所で、下がった頭の僅か上を通り、糸がカラスモグラを絡めとった。
助かったぁ……!
ほっと胸を撫でおろす。
それで気が付いたけど、なにもこいつらは連携して襲ってきている訳じゃない。
「こいつら野性の感に正直に突撃してくるだけだ!!」
なので至る所で足の引っ張り合いや小競り合いをしている。
「これを上手く利用できれば……勝機があるかもしれない!!」
【余談】
第一層が洞窟である以上、生物の死骸が腐敗し生成されたガスが人体に対し害をもたらす可能性がある事は否定できない。
万全を期すなら松明だけでなくガスマスクを着用する方が好ましい。
だが、第一層は僅かだが常に空気が循環している。相当奥まった場所でない限り有毒ガスが危険な濃度で吹き溜まっていることは無い。
故に冒険者の中にはガスマスクをさほど重要視していない者も一定数存在する。
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