第2層 星に願いを、海に想いを

第39話 清き大海


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「海だぁああああああああああああああああああああああ!!」


 目の間に広がるのは広大な海!果てしない青空!


 第2層は真ん中に直径2キロメートル程の島があって、その周りを囲うように海が広がっている。


 そして第1層から続く階段の前には、島へと続く約4キロメートル程の長い浮き橋が架かっていた。


 その壮大で綺麗な景色に、僕たちのテンションもブチ上がる。


「凄いよジェニ!見て!!」


「アニマ!!」


 思い思いに興味のままにあれこれと見て回る僕達。


 目に映るもの全てが新鮮。さっきまで暗い洞窟の中にいたからだろうか。この明るい景色に心が躍る。


 「すごーい、すごーい」と二人言い合いながら浮き橋の上を進んでいく。


 光に照らされ、キラキラと反射する海。その上を優雅に飛び回る鳥たち。それを眺める僕たちを温かな風が優しく揺らす。それがまた心地いい。


 海面によく目を凝らすと、魚の群れが薄っすらと見える。


 うわー凄い!小さな魚から大きな魚まで、この海には沢山の魚がいるんだ!






 暫くそうしてジェニと景色を楽しみながら歩いていると、やっと島に辿り着いた。


 サクッ


 真っ白できめ細やかな白浜に足を踏み下ろすと、柔らかく沈んだ。「おおっ!」と、その感覚にもテンションが上がる。


 ジェニは靴を脱ぎ、裸足で踊るように駆け回っていた。


 白銀の髪と舞い上がった白い砂が、光に照らされてキラキラと輝く。


 ただはしゃぐその姿もジェニがやれば凄く絵になるな。


「あはは!あははは!」


 ジェニは楽器のような耳ざわりのいい笑い声をあげ、時折その髪とミニスカを風が撫でる。


 なんてかわいい生き物なんだ。


 クリーチャーズマンションの中には情報通り空と太陽が存在したけど、僕の前には常に何よりも光り輝く太陽がある。


「ジェニ!島を探索しよう!」


「ラジャー!」


 この島はその七割方が森になっている。と言っても深い森ではない。大型肉食獣はいないと言われている。


「あ、鳥だ!」


「ほんまや!」


「猿もいる!」


「まだ子供やねー!」


「このブドウみたいなの食べれるのかな……」


「それは食えるで!オトンがすっぱいけど美味いってゆっとったもん!」


 と、この階層には危険な魔物クリーチャーはほとんどいない為、僕たちはピクニック気分で森を探索していた。


「島の外周にはいくつか小さな船があったね。誰が作ったんだろう?」


 葉や草をかき分けながらジェニと話す。


「学者とかやない?知らんけど」


「確かに……海を調べるには必要だね。海か……」


「海……」


「海……」


「泳ごアニマ!せっかく来たんやし!海で泳げるなんてクリーチャーズマンションやないと有り得やんで!」


「うん……!浅いとこだったら危ない魔物クリーチャーもいないと思うし、いても見たら逃げればいいもんね!」


「よっしゃ!海まで競争や!いやっふー!!」


「あ、ちょっジェニ!ずるい!待って!」


 一番乗りを目指して駆けていくジェニをやれやれと思いながらも必死に追いかける。


「いぇーい!ジェニの勝ち!」


 結果は言うまでもなく僕の負け。勝ち誇り、ドヤ顔をするジェニは今日も平常運転だ。


「あっでも僕たち水着とか持ってなくない?ジェニは持ってきたの?」


 大事なことに今更気づいた。


「そんなん無くてもええやろ!天気ええしすぐ乾くって!」


 ジェニはそう言うと、リュックと剣を置いて冒険服を脱ぎだした。


「え……?」


 ポカーンとその姿を眺める。


「アニマもボケっとしとらんではよはよ!」


 シャツとパンツだけの姿になったジェニが急かしてくる。


 いつもミニスカを履いているジェニだけど、そのパンツは魔法でも掛けられているのかと疑うほど頑なに姿を見せない。


 あれだけ激しい動きをしているというのにだ。


 だが今、僕の目の前には大きめの白いシャツというか弱い城塞越しにその聖域ガードマンが存在しているはずだ。


 ほんの少し風が吹けば、ほんの少しジェニが動けば、その光り輝く聖騎士が見えてしまいそうだ。


「なんなんアニマさっきからじーっと見て……ジェニのシャツ変やった?」


 そう言って自分のシャツを見つめるジェニ。


 いかんいかん!ジェニに見惚れてボーっとしてしまっていた。


 にしてもすらっと伸びた長い脚。白いシャツに隠れていても分かるプリッとしたお尻。透き通るような肌は光を反射して、白銀の髪は穏やかに揺れる。


 全体的に真っ白な印象の強いジェニだが、その赤紫の色を宿すアメジストのような瞳が、神秘的なまでの美しさを内包した可愛さに拍車をかけている。


 こんなかわいい僕の親友に見惚れるなって言う方が土台無理な話なのだ。


「も~アニマ、着替えやんのやったら置いてくで!?」


「あーごめんごめんすぐ着替えるよ!」


 ジェニにはやはり異性に対する羞恥心しゅうちしんみたいなものは無いのだろう。


 僕はリュックを置いて冒険服を脱いでパンツ一丁になった。


 うぅ、やっぱり少し恥ずかしい……


 恥ずかしがるこの手を取ると、ジェニは海に向かって走り出す。


「あわわ」


 砂に足を取られながらも転ばないよう慌ててついて行く。


「いやっほーう!!」


 ザブーン!


 ジェニは僕の手を思いっきり引きながら全力で海に飛び込んだ。


「あばばばばば」


 うおっ冷たい!なんだこの感覚!水の中で足がつかないってこんな感覚なんだ……!


 ああ、海水が目に染みる!


 上下がどっちか分からない!


 どっちに向かって泳いだらいいんだ?


 あれ?どうやって浮いたらいいの?


 泳ぐってどうすればいいの?


 しまった、空気をほとんど吐いてしまった!


 更に海水を思いっきり飲んでしまった!


 うぅ苦しい!しょっぱい!


 我武者羅に手足を動かそうともどうにもならない!


 あれ?僕って泳ぐことも出来ないんだ……


「アニマ!足足!」


 何が何だか分からなくなって混乱の坩堝るつぼにいた僕を、ジェニが後ろから抱きかかえて海中から引き上げてくれた。


「足着くよアニマ!」


「ゲホッゲホッ……ホントだ!思ったより深くないや」


 塩味がきつい……


 普通に足が着くことに気が付くと、髪の毛から滴る水が邪魔で髪を後ろに撫でつけた。


 人は5センチメートルの水で溺れることがあると聞いて笑っていた僕だったが、あながちそれも誇張ではなさそうだ。


 冷たい海水の中で背中越しに伝わるジェニの体温が妙に温かい。


 それに全身が濡れたことで、より鮮明に双丘の柔らかさを背中に感じる。


「あわわわわ……!」


 冷たい……あったかい……柔らかい……しあわせ……ぽかぽか……いいにおい……すべすべ……柔らかい……あったかい……


 これが……おっぱい……


「アニマ?大丈夫?」


 ジェニはフリーズする僕を心配して耳元で囁いた。


 耳が幸せ……背中も幸せ……僕は幸せ……


 ここが天国ですか……?


 ブシューーー!


 次の瞬間鼻血が勢いよく噴き出してきて視界が暗転した。


「ぎゃー!!アニマー!!」

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