第30話 買い物デート
「まだかな〜、遅いな〜……」
僕が待ち合わせ場所の公園に行くと、そこには春の陽気に合わせた爽やかなフリフリとした白のミニスカートの上に、これまた白のシャツとその上に黒い上着を羽織った女神様が……じゃなかった。
白い髪と白い服に穏やかな光が反射し、神秘的な雰囲気をすら感じさせるジェニが既にいて、その表情にはささやかな陰りと
それが元気ハツラツないつものジェニの姿とは対照的で、そこに華を持たせる黒い上着とアメジストのように輝く赤紫の瞳が、神秘的な
「ごめんジェニ!待った?」
いつも着ている服とは違ってお出かけの時にしか着ないお気に入りの服に身を包んだ僕は、もの悲し気に
「全然待ってないで!行こか!」
するとジェニはその顔に目一杯の笑顔を咲き誇らせて、さらに眩しく僕の手を取った。
「え、でも今まだかな〜って言ってなかった?」
ジェニに手を引かれて歩きながら疑問を口にする。
「それは……なんでもないで!はよいこに!」
ジェニは何かを言おうとして、でも結局何も言わずに笑みを作るとさらにその手に力を込めたのだった。
「ジェニの今日の服は凄くおしゃれでかわいいね!」
道すがら僕は素直にそう口にした。
「そやろ?せっかくのお出かけやでな!白と黒で統一してみたんや!」
「そうなんだ。髪の毛も白いから、上から白黒白でなんだかオセロみたいだね!」
「ふっふっふ……」
僕が素直に褒めたことでいつものようにドヤ顔になったジェニは、なぜだかニヤリと笑うと上着を裏返してまた羽織りなおした。
「リバーシブル!?」
ジェニの黒から白に変わった上着を見て僕はそう言った。
「これが本当のリバーシ!なんつって!」
「お洒落さと洒落っ気を兼ね備えた次世代のファッションリーダー!?ワンハンドレットポイントの遊び心!」
「ふふふふふ……!」
「いやっ!それだけじゃない!黒をひっくり返して白にすることで白星を挙げている!?計算されつくした一発ギャグ!?」
「ふははははは!ジェニこそが勝利の女神なのだ!!ふーっはっはっはっはっは!!」
「微笑めよ!!めっちゃ笑ってるよ!!」
そんなこんなで僕たちは町の中心である大通り沿いの繁華街にやってきた。
適当に店を眺めながら目当ての店を目指して歩く。
「あ、これええかも……」
ジェニは何かを見つけるとその足を止めた。
「ブレスレット?」
「うん、オトンへのプレゼント!このアイオライトのブレスレットにする!」
「お、お嬢ちゃんお目が高いね!」
ジェニは店員さんと一言二言言葉を交わすとそのまま購入した。
僕からしたらそれなりに高価な買い物だが、思い切りがいいことだ。
ジェニは天にかざして暫く鑑賞したのち、プレゼント用に包んでもらうと大事そうに鞄にしまった。
その後は二人会話を楽しみながら露店を冷やかして歩いて、そうこうしているうちに当初のお目当ての店へとついた。
壁一面にびっしりと立て掛けられた剣、槍、その他武器防具の数々。
スコップ、ロープ、ナイフ、ランプ、袋などの探索道具からその他小物に至るまで、その品揃えの幅は凄まじくここが正にこの町一番の冒険者御用達の店であるという事を雄弁に物語っていた。
「ここがスモーカー商店……僕始めて来たよ!」
さっさと必要なものを見繕うジェニに、道具に興味が尽きずさっきから一つ一つ手にとっては
「アニマ、これとかええんちゃう?」
さっきから真剣に道具を選ぶジェニの邪魔しかしていなかったので、ジェニは僕の言葉は独り言だと思うようにしたようだ。
ジェニが僕に見せてきたのは丈夫そうなリュックサックだった。
「これなら機能性もええし、見た目より入るし、何より丈夫そうやしね!」
僕はそれを背負うと、飛んだり跳ねたり歩き回ったりしながら背負い心地を確かめた。
「うんいいねこれ!しっくりくるし、デザインも出来る冒険者っぽくてカッコいいし!」
背中に背負ったリュックを指さして気に入ったことを伝えると、ジェニもサムズアップでにししと笑う。
僕はもっとこのリュックを色々調べたくて、店の中を歩きまわりながらも背負い続けた。
「おぉ、本物のガスマスクだ!」
目の前には精巧な造りをしたガスマスク達が並んでいる。僕はその造形に惹かれて魅入っていた。
「クリーチャーズマンションの中は空気綺麗やから、ガスマスクは持ってかんくてもええよ」
ジェニは僕が見ているガスマスクを横から覗き込むとそう言った。暫く魅入っていたから隣にジェニが来ていたことに気が付かなかった。
そうか、そういえば【この世界は臭かった】にもそのようなことが書いてあったなぁ。
そうか、必要ないのか……
でもこの何とも言えない絶妙なフォルムが、さっきから僕の
「カッコいい買う」
「あっそう」
ジェニは「好きにすれば?」といった感じで他のものを見に行った。
「アニマ!これ!これにしよ!」
そこには冒険服を試着したジェニがいて、その手には同じ冒険服の色違いを持っていた。
「アニマも着てみて!」
言われた通りにそれを着る。袖を通すと少し厚めの生地が確かな防御力を感じさせた。色々と動いてみるが非常に体になじむ。
「お揃い!」
好感を示した僕にジェニは嬉しそうにそう言ってクルリと回った。
それから僕たちは武器コーナーを見ていた。
僕やジェニが扱うのは剣だが、剣は剣でもその種類は多岐にわたる。
僕はその中から一般的なロングソードを選ぼうとしたが、試しに持ってみたら重くて上手く振れなかったので細剣かショートソードで迷った挙句、ショートソードを購入した。
ジェニが買ったのも同じようなショートソードだ。
ストックしておいた商品と他にも小物をいくつか購入し、こうして僕たちはスモーカー商店を出た。
さぁ後はハンカチを買いに行くだけだ。
楽しみだなぁ。
「あ、おにいちゃん!おにいちゃーん!!」
朝から歩きっぱなしだった僕たちは昼休憩をはさみ、暫くまったりと休日を満喫した後、ハンカチを探してうろうろとしていたその時、ふと小さな女の子の声でそう呼ばれた。
なんだろうと振り向いてみると、そこにはいつぞやの幼女リリ・カーネルがオレンジのおかっぱ頭を揺らしながら、こっちに向かってぶんぶんと小さな手を振っていた。
その更に後ろには【ババの占い】と看板を掲げて水晶玉を置いて占いをしているいつぞやの老婆の姿もあった。
「リリ!!」
僕は再会が嬉しくて、リリがしっかりと笑っていることが嬉しくて、リリの元へと駆け寄った。
「えっアニマ妹おったん!?」
追いついてきたジェニが驚きを隠せないとばかりにそう言う。
「違う違う。リリとは以前道に迷っているところに遭遇して、一緒に薬を買いに行った仲なんだ」
僕のお腹めがけて飛び込んできたリリと再会を喜び合い、嬉しさからハグをしてそのサラサラの頭をなでなでしながら僕はそう答えた。
久しぶりに会ったリリは以前会った時よりも生き生きしている。
今日はおばあちゃんとも一緒みたいだし、幸せそうでなによりだ。
「おぉーヒヒヒ、見違えたのぅ。大切なものが見つかったようで何よりじゃ!」
ババさんは僕の顔を見るや顔をしわくちゃにしてそう言った。視線は僕とジェニとを交互に見ている。
「はい、この子はジェニ。僕にとっては世界一綺麗で世界一大切な親友です!」
そういってジェニの方をチラッと見ると、嬉恥ずかしそうに「えへへ~」と照れながらも胸を張りドヤ顔をしていた。
「憑き物はすっかり落ちた様じゃが……ヒヒヒヒヒヒ……これは、なんじゃ?お前さんあれから何かとんでもないことでもあったのかのぅ?」
「とんでもないこと?」
なんだろう……あれから確かに僕の身にはいろんなことがあったけど、ババさんがなんのことを言っているのか、そもそも何が見えているのかが分からない。
僕はコアラと化したリリの頭を撫でながら、心当たりをいくつか話した。
「ヒヒヒヒ……何が原因か、今の話では見当つかんのぅ……ヒヒッヒヒヒ……」
「あの、一体何が見えて、」
「
「いや、僕はずっと一人っ子ですけど……?」
「ヒーヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!おかしいのぉ!じゃがわしには分からん!今の話は忘れておくれ……ヒヒヒヒヒ……」
「え?うん……はい」
今の話はなんだったんだろう……?
まぁ本人が忘れてくれというんだ。考えても仕方がないだろう。
「ジェニちゃんじゃったか?ヒヒヒヒヒ……クリーチャーズマンションにはミニスカを履いていきなさい」
「え?なんでミニスカなん?」
唐突に意味の分からないことを言われて、ジェニは顔がハテナマークになっている。
「ヒヒッ普段からミニスカを好んで履いとるじゃろぅ?」
「うん、ミニスカ好きやから」
ああ、やっぱりそうだったんだ。ジェニはよくミニスカを履いているなぁと思ってたよ。やっぱり好きで履いてたんだ。
なお、僕もジェニのミニスカ姿は大好きだ。見えそうで見えない聖域やスラッと伸びた生足がエロいとかそういう低俗なのとはまた違って、ジェニがそれを履いているというその事実がもはや尊いのだ。
ご飯三杯はお替りできる!おかげで今の僕はお腹が膨れているのだが、そこにリリが引っ付いているので少し苦しい。
「ヒヒックリーチャーズマンションで運命の人に出会うかもしれんじゃろぅ?その時だっさいズボンなんか履いとってみぃ。始まる恋も始まらんじゃろて」
「そっそうやな!うん。ミニスカ履いてくわ!」
そう答えたジェニに僕は喜んでいいのか悲しむべきか、複雑な気持ちになった。
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