クリーチャーズマンション

takechan

第0話 悪夢


 ゴポッゴポポポ……


 く、苦しい……


 激しく渦巻く滝壺たきつぼに飲まれ、冷たく青い世界の中で天地が何度もひっくり返る。


 早く息をしないと……


 空気を失い朦朧もうろうとしつつある意識の中、無我夢中むがむちゅうで光の差し込む水面を目指す。


 プハー、ゲホッゲホッ……


 まずい、僕はどこまで流された!?


 ジェニは、ジェニは無事なのか!?


 辺りを見渡すと、どうやらここは辺り一面を高い高い崖に覆われた滝壺たきつぼのようだ。僕たちがいた場所がかなり高いところにある。


 良かった。あまり流されずに岸に流れ着けたみたいだ。崖から落ちたのに怪我一つ無かったのは幸運だった。ジェニも無事ならいいけど……


「ジェニ……ジェニ!!!」


 少し下流にうつ伏せで岩に引っかかっているジェニを見つけた。おぼれてしまったのか全く動く気配がない。


 胸の高さまである水位の中、れた服のせいで重くなった体にバランスを崩しながらも急いでジェニのもとへ駆け寄る。


 微かだが息はある。そう判断した瞬間ジェニを下から背負うと、開けた陸地まで死に物狂いで運んだ。


 背負っていたジェニをゆっくりと降ろし、仰向きに寝かせる。


「っっな!!」


なんとジェニのお腹には左肩から右腰にかけて大きな裂傷れっしょうがあり、そこから今もなお止めどなく血が流れ続けていた。


 そんな!!馬鹿な!!かわし切れてなかったのか!?


「ジェニ!血が!!今助けるから、すぐに傷を塞ぐものをリュックから取ってくるから!だから……」


 ジェニは僕の声を聴いたことで意識が戻ったのか、薄っすらと目を開けるとかすかすれの今にも消え入りそうな声で喋りだした。


「……アニマ、あぁ……大丈夫、アニマ……安心して……なんか、冷たいのに、あったかいの……不思議な感覚……だ、いじょう、ぶ……」


 ドクドク、ドクドク――と血はその間も容赦ようしゃなく流れ続け、とうとうジェニは気を失った。


「あ……ああぁぁああぁっっっぁぁぁぁああああああああああああああああ!!……そんな、嘘だ!嘘だ!嘘だ!!」


 僕のせいだ!!僕があの時あんなことを言わなければ……!!


 血だまりを作っていくジェニの姿に、僕は深い自責じせきの念にかられた。握りしめたジェニの手からは力が抜けて、まざまざと嫌な現実を突き付けてくる。


「……いや、まだ温かい。まだ何とかなる!まだ、まだだ……僕が必ず助けるんだ!」


 傷が開いたままじゃダメだ、何とかして血を止める方法を考えないと……取りえず僕の服を使って傷を抑えよう!


 僕は自分の服を脱ぐと、あせりと寒さで震えが止まらない手を無理矢理黙らせて、ジェニの体を包むようにして巻き付けた。


 ダメだ、急がないとジェニを永遠に失ってしまう!


 あのひまわりのような笑顔が一生見れなくなってしまう!


 そんな思いの強さに比例するように、焦りと恐怖で思考がブレる!


 落ち着け、僕……服を巻き付けたところで、こんなものは気休めだ。早く次の一手を打たないと取り返しが付かなくなるぞ。


 助けるんだ!


 僕が、必ず!!


 ジェニ、君だけは何があっても死なせはしない!!!

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