剣神の加護を授かったから怠惰な幼馴染を守りたい

きゅーびー

第1話 変わった世界の片隅で1


 私の名前は<佐々木千尋>

 元高校の教師で現在は実家の道場を手伝っている。


 ある日世界中で同時に頭の中に直接何者かが声を掛けてきた。

 その声の主は言った。

 世界が変わったと。

 これから地球では今までファンタジーでしかなかった魔法やモンスター、果てにはダンジョンが発生すると。




 ☆ ☆ ☆

 

 

 

 春、出会いと別れの季節。

 今年の春は私にとっては別れの季節となった。


 私がこの高校で働く理由はたった一つ、女子剣道部の顧問を務める事。

 本来なら母校の剣道部で指導者として勤めるのが筋なのかもしれないが、残念ながら我が母校の女子剣道部は私が大学に在学している間に廃部になってしまった。

 仕方ない事だとは思う、女子が選ぶ部活動の中では単純に人気が無い上にそもそもの競技人口が少ない。

 私が高校3年生の頃でさえ部員は5人しかおらず、1年生に至っては一人だけ。

 私が居た当時でさえ廃部ギリギリの状態だったのだから、私達が卒業して居なくなり、一つ下の後輩も卒業して居なくなれば、二つ下の後輩が一人しか残らない。

 私が去った後は部員が一人も増えなかったのだから廃部になるのも仕方のない事だが、後輩が団体戦に出る事が出来なかったのはとても残念だった。


 地方の無名校に好き好んで入学する者は居ない。

 たとえ私のような有名な選手が一人居た所でその事実は変わらない。

 

 そんな女子剣道部だが部員数は少ないものの、幼少期から剣道をしている者と私の実家が開いている道場生しか居なかったので、全国的に見ても強い人が揃っていた。

 私が3年の時には団体戦で全国大会に出場し優勝する事も出来た。

 そのときの事は今でも偶に思い出す、個人戦で優勝するよりも皆で戦って優勝した団体戦の方が喜びも大きかったから。

 

 

 

 私の人生は剣道しかやって来なかった人生だ。

 中学以降、女子剣道の大会では負けた事が無い程には剣道に打ち込んできた。

 私には剣道の才能も環境も揃っていた。

 だが、指導者としての才能は私には無かった。

 大学を卒業してから女子剣道部の顧問として期待され、高校の教師になり、教師として働く日々。

 私が受け持った女子剣道部の皆を強くしてあげたかった。

 私が体験した優勝という感動を与えてあげたかった。

 指導にも人一倍熱が入った。

 中には厳しすぎると退部した子も居た。

 それでも私は自分の信念を貫いて指導をし続けた。

 気付けば私が顧問を務めた女子剣道部は強豪校と言われる程になり、メディアにも注目されるようになった。

 だが、注目された事で私の指導法が時代錯誤なスパルタ指導なのではないかと騒がれ始めてしまった。

 今思えば私が有名だった事も関係しているのだろう。

 記者はある事無い事を記事にしていたが、私は何も気にすることも無く顧問として部を強くする為に注力し続けた。

 生徒たちもそんな私に良く着いてきてくれていた。

 

 そんな充実した日々も理事長に呼び出しを受けてから一転した。

 曰く私の指導法が学校内外で問題視されていると。

 最初は私も聞く耳を持たなかった。

 

 けれど次第に部員では無い生徒やその保護者の方々が指導法の改善要求をしてきたのだ。

 部外者にとやかく言われる筋合いは無いと今でも思っているが、学校側はそうは思わなかった。

 

 私が退職する前年に来年度から副顧問へと実質の降格処分を下された。

 新しく顧問になる予定の彼女には何の恨みも無いが、剣道を中学時代しか経験していない彼女を顧問に就任させた学校側を私は強く恨んだ。

 部活動の指導よりも教師としての仕事を押し付けられ、私は部に顔を出す時間が少なくなっていった。

 理事長に最終的には副顧問すらも辞めさせると言われ、私は退職を決意した。

 

 

 私には剣しか無い。

 剣の道が私の道だった。

 その道が閉ざされるということは、私の人生を閉ざされたも同然だ。

 私には指導者の才能は無かった、だが剣の才能は誰にも負けないという自負がある。

 

 こうして私は、アラサー、剣道一筋、彼氏無し、職業実家手伝いになったのだ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 実家に戻ってからは、引っ越しの荷解きやらなんやらと忙しく過ごしている傍らで、自身の剣の腕は磨き続けていた。

 歳を重ねるにつれ、身体が衰えてきていたので現役時代とは違う動きをしなくてはならず、そのおかげで無駄な動きも減り、技術は現役時代よりも向上していると実感出来ていた。

 

 実家の生活にも慣れ、門下生に稽古をつけるようになっていた頃に、あの事件は起きた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 朝の鍛錬を道場で一人こなしていると突如今まで経験したことの無い強烈な頭痛が襲ってきた。

 

 「ぁがっ!……なんだったんだ今のは……ん?」

 

 痛みから思わず床へと座り込むが幸い痛みは一瞬で治まった。

 痛みが引くと視界に何か文字が浮かび上がっている事に気付く。

 

 「剣神の加護を取得?」

 訳が分からなかった。

 

 

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