第4話 リリとアイドルパフォーマンス

 リリさんと森で出会ったあの日からちょっと経って。


 最初は精々何度か会う程度の仲というか、あちらもすぐに飽きて来なくなるだろうと思っていたのだが……。

 実際のところは寧ろあれから森に行く度にほぼ毎回リリさんが待っている、という状態だった。


 なので、今日も待っているんだろうな。


 そう思いながらいつも通り森の開けた場所に入ると、やはり倒木に腰掛けて足をブラブラさせているリリさんがいた。

 こちらに気が付くと表情を『パァ~っ』と明るくさせながらピョンッと立ち上がる。


「こんにちはレーム君! 今日は早かったね」


 もしかしてリリさんって僕が来ない間もずっとここで待っているんだろうか。

 実は普段よっぽど暇してるのかな?


「こんにちは、リリさん。今日はお昼食べずにきたんですよ。こっちで食べようと思って。一緒に食べます?」

「い、いいの?」

「いいですよ。いつものことだし」


 言った通り、家で出た昼飯を森に持ち込んでリリさんと半分こして食べることが何度もあった。

 一応は僕も貴族なので、出る食事自体は結構イイものが出るのだ。


 折角だしお裾分けということである。


「おいしぃ~。い、いつもすまんねぇ」

「……なんですその口調」

「え? えっと、おばーちゃんとかが言ってたりする感じ? 言ってない?」

「まぁ、言ってそうだけど」


 なんというか、リリさんってちょっと変わった子だよなぁ。

 可愛いけど。


 うん、そう、可愛いんだよなぁ。

 出会った時にも思ったけど、しばらく一緒にいることで確信に変わった。


 この子は可愛い。アイドルになったらきっとワンチャン狙える人材だぞ!


 お前の基準そこしかないのかよ? と言われそうだが、そこしかないのだ。

 何しろまともな人付き合いしたことなぞ殆どないから、恋愛なんかのことは分からないしなぁ。


 まぁ、残念ながらこの世界にはそのアイドルという概念自体がないのだけれども……。


「じゃこれ、ウチからお返し」

「お、ありがとうございます」


 リリさんが木の実やキノコなど、所謂『森の幸』を詰めたカゴを渡してくる。

 今回も何気に、結構貴重でお高い食材も混ざっていた。


 最初に言っていた『森が得意』という発言はこういうことだったのだろう。

 やっぱ森の中で生計を立てる職業の親がいるんだろうな。


 貰った木の実をそのまま二人で食べたり、キノコは焼いて食べたりして。

 さぁて、お腹もいっぱいになった。


「んじゃ、今日もやりますかっ」

「ん! ウチも!」


 僕が立つと同時にリリさんも立ち上がる。


「ウチも」と言った通り、リリさんは僕が特訓をしているのを最初は見ているだけだったのだが、最近は一緒に体を動かすようになっていた。


 見よう見まねなんだろうし、体内魔力の動きまでは真似できてはいないけれど、動き自体は驚くほどにキレが良い。

 リリさんって実は相当に運動神経がいいんだろうな。


 それにしても。


「リリさんって、将来戦闘職とか目指してるんです?」

「ん? んーん。してないよ?」

「えっと、ではなぜに僕と同じ特訓を?」


 僕の動きを覚えても戦いの役にしか立たないぞ。

 しかもかなり特殊な戦い方だから、例え護身の為だとしてもお薦めしかねる。


「レーム君の動きって凄く綺麗だから、ずっと見てたらついウチも体動かしたくなっちゃって。ダ、ダメだったかな?」

「いえ、全然ダメではないですけど……」


 ないけど、ただ体を動かしたいだけなんだったら――。


「じゃあ、こういう動きなんてどうでしょうか?」


 リリさんの前で、推しアイドルだった子のダンス振り付けを披露してみる。

 無論、完コピで覚えているのだ。

 覚えているだけで踊れたわけじゃないのだが、今の身体能力ならある程度は真似できる。


「と、こんな感じです」


 踊りきる。

 と、リリさんの目から『ふぁぁ~ッ!』と星? みたいなものが溢れ出たのを幻視した。


「……かっこいい」

「え? いや、あの、一応可愛い系のダンスだったんですけど」

「だんす? 分かんないけど、かっこいいし、かわいい!」

「そ、それはよかった」

「ウチもやりたい! やっていいっ?」


 無論、その為に見せたのだから是非やってくれたまえ、だ。

 これでちょっとでも僕のアイドル推したい欲が収まればいいってなものである。


「いいです。けど、僕以外の前では踊っちゃダメですよ? 分かっているとは思いますけど、基本的に教会の認定を受けていない歌や踊りの類いは禁止行為なので」


 人類種の殆どの国において、教会の聖女だとか本当に限られた人種しか歌を歌ったりすることは許されてはいない。普段聴けるのも限られた人間だけだ。


 それくらいは常識……のはずなんだけど。


「そ、そうだっけ? うん、そう、だったかも?」


 リリさんはすごく曖昧な表情で頷いた。

 大丈夫かなこの娘?


 恐らく森で生計を立てている家の子だから、町での生活常識に疎いのかもな。中々に危なっかしい話しだが。


「まぁここだけで踊る分には大丈夫です。あと、本来はこんな風に歌を重ねます」


 さっきの踊りに推しアイドルソングを重ねる。

 残念ながら僕は歌が上手いわけではないが、壊滅的に音程が取れないわけでもないので最低限は伝わるだろう。


 歌と踊りを重ねて見せるとリリさんは『ふえぁああぁ!?』と変な声を上げつつも、今度は瞳どころか顔面全体からお花があふれ出したような状態になっている。


「こんな風に歌いながらダンスを――」

「ウチ、やる! やってみるね!」


 僕が言うが早いか、リリさんが歌とダンスを真似し始める。


 が、残念というか当然というか、子供のお遊戯会レベル以下の完成度だ。

 歌にもダンスにもなっていない。


 これは仕方ないことだ。

 何せまず目標にしているのが僕の下手くそなアイドルパフォーマンスモドキなのだから。


「アイドル……」


 それでも、僕の胸には熱く灯るナニカがあった。


 ――久々に見る、アイドルパフォーマンス。


 例えお遊戯レベルでもモドキでも、ずっとずっと求めていたものだったから。


「ん? 今、何か言った?」

「いや、何でもないです。練習を続けてください。お陰で僕も練習頑張れそうです」


 リリさんのつたない歌モドキを聴きながら、目を瞑って練習を始める。


 なんだか妙に元気づけられたというか、アイドルコラボの推しアイドル達が来るまで折れることなく強くなっていけそうな気がした。

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