お昼休みの2JK

「夏樹ってさー。本当にお人形さんみたいだよねー」

「そう」

 無表情にそう言いながら、夏樹は左目で美也子を盗み見る。偽眼帯の下の機械式義眼は、布地の隙間を通した黒っぽい視界に、両親を早くに亡くしたとは露ほども思わせない明るい美也子の笑顔を写した。

 と、夏樹が弁当箱の中の使い捨てピックを投擲する。近くの木から何かが落下する音がした。

「どうかしたのー?」

「虫がいただけ」

「そっかー」

 美也子は今回も信じてくれた、と夏樹は胸をなでおろす。ここまで騙されやすいことは心配になるが、それはそれとして真実を知られたくない夏樹にとってはありがたい。

 美也子には知ってほしくないのだ。今、美也子を狙う暗殺者を殺したことも。

 美也子の両親を暗殺したのが自分だということも。


「む、娘を、頼む……」

 美也子の父は、洗脳され組織の操り人形となっていた夏樹を、自身の死の間際に解き放ってくれた。彼の研究を組織が危ぶんだのも分かる。

 償いをしなければならない。美也子を組織から守ることによって。






 騙されやすくて助かっている、と美也子は思う。父が開発していたのは組織よりも優れた洗脳技術だった。そしてそれは今、彼女自身の手の中にある。

 父が死の間際に洗脳を上書きしてくれた夏樹を使って組織の脅威を取り去ったら、次は自分が世界を手中に収める番だ。


《お題:贖罪の青春 必須要素:義眼 制限時間:15分》

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