ドイツの「泉」
「「泉」だっけ、デュシャンの」
僕はそう言った。「泉」は彫刻作品だ。既製品の便器にサインしただけ、というそれを強いて分類するのなら、だが。
僕がそう言ったのは、目の前にある仮設トイレにドイツ人彫刻家の作品プレートが付いていたからだ。
「問題は、だ」
ツレが言った。
「そいつで俺たちが用を足してしまったってことだ」
その仮設トイレの洋式便器には、ツレがした大便が鎮座している。水洗式のそれは、レバーをひねっても水が流れない。
「そりゃ、そうだよな。芸術に水を流す必要はない」
美術館の裏手。彫刻の庭とか呼ばれている荒れ果てた庭園には、最近一部を取り壊して駐車場を作る工事が始まっていて、てっきりそのために用意された仮設トイレだと思った僕たちは、酔っぱらって帰る途中、ちょうどいいやとここで用を足したのだ。
「まずいな」
「逃げようか」
結局、あれは水洗が壊れただけの仮設トイレに過ぎなかった。
あの作品プレートをよく見ればわかったのだが、あれは手のひらに収まるくらいの金細工のプレートだった。盗難被害にあったその作品のプレートを、裏返して「トイレ故障中」の張り紙に使ったやつがいたらしい。
盗み出された金細工は、例の壊れた仮設トイレの中に隠されていた。結局、僕たちはドイツの彫刻に糞をつけてしまっていたのだった。
《制限時間:30分、お題:ドイツ式の作品、必須要素:うんち》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます