ドイツの「泉」

「「泉」だっけ、デュシャンの」

僕はそう言った。「泉」は彫刻作品だ。既製品の便器にサインしただけ、というそれを強いて分類するのなら、だが。

僕がそう言ったのは、目の前にある仮設トイレにドイツ人彫刻家の作品プレートが付いていたからだ。

「問題は、だ」

ツレが言った。

「そいつで俺たちが用を足してしまったってことだ」

その仮設トイレの洋式便器には、ツレがした大便が鎮座している。水洗式のそれは、レバーをひねっても水が流れない。

「そりゃ、そうだよな。芸術に水を流す必要はない」

美術館の裏手。彫刻の庭とか呼ばれている荒れ果てた庭園には、最近一部を取り壊して駐車場を作る工事が始まっていて、てっきりそのために用意された仮設トイレだと思った僕たちは、酔っぱらって帰る途中、ちょうどいいやとここで用を足したのだ。

「まずいな」

「逃げようか」


結局、あれは水洗が壊れただけの仮設トイレに過ぎなかった。

あの作品プレートをよく見ればわかったのだが、あれは手のひらに収まるくらいの金細工のプレートだった。盗難被害にあったその作品のプレートを、裏返して「トイレ故障中」の張り紙に使ったやつがいたらしい。

盗み出された金細工は、例の壊れた仮設トイレの中に隠されていた。結局、僕たちはドイツの彫刻に糞をつけてしまっていたのだった。


《制限時間:30分、お題:ドイツ式の作品、必須要素:うんち》

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