結婚式の処方箋
「恋愛について、多くの哲学者が語っています」
ドクターはそう言った。
「それについて詳しく語るのはやめましょう。つまるところ、それらは脳内で起きていることなのです。
適切な刺激と薬品を使うことによって、当クリニックではそれを引き起こすことを可能としております」
「その、つまりはヒヨコの刷り込み、みたいな?」
「ええ、ええ。まあ、近いものではありますな。お二方には施術室で療法を受けていただきます。そうするとお二人はお互いに熱い恋に落ちるというわけでして」
「どうにも、洗脳じみていて……」
「ええ、確かに自然なことではありません。しかし、恋自体が一種の異常状態でして、むしろかつてはこれが自然発生していたという状況の方が問題ですな」
個人的には、と前置きをした上でドクターは恋自体が精神病の一種であり、それを人工的に発生させること自体が病院の業務として疑問だと述べた。
「ですが、お二人は性格テストの相性も抜群ですし、経済研究所の家計予測を見ても安定した家庭を築けます。他のあらゆるデータがお二人をお似合いのカップルだと認めておられる。……それでも結婚に踏み切れない」
「はい。彼女のことが嫌いなわけじゃ無いんです。より好条件の相手が見つかるとも思えない」
「……ならばお任せください。当院でこの施術を受けたカップルのうち、離婚した方はおられません。よそだといないわけじゃ無いんですが、性格テストに少々問題があったり、経済的なリスクを抱えている患者さんに施術するようなクリニックもありまして……。
……ご安心ください。病めるとき、もし愛が足りなくなりましたら、当院で補填致します。系列の産婦人科には最新の培養ポッドが、あなたのお子さんを待っています。永遠の愛を当医療法人グループはお約束致します!」
《制限時間:30分、お題:簡単な恋愛》
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