即興小説置き場
s-jhon
あじフライ釣れた
魚屋が閉まっていた。
今日の釣果はボウズであった。問題は魚を釣って帰ると妻に言っていることだ。妻はおかずを用意していない。
無論、いつでも魚が釣れるわけではない。だから、そんな日は帰り道にある魚屋に寄って、地元で捕れた魚を買って帰っていた。そのお店は今、「臨時休業」と張り紙をしたシャッターによって閉鎖されている。
他の店に寄る?そう思って足を伸ばした大型スーパーの魚は全部切り身になっていた。
鯛はある。たしかに尾頭付きだ。だが、今日行ったポイントでは釣れない。それにいささか高い。
「何かお探しですか」
なんとかかんとかマイスター、と書かれたバッジを付けた店員さんが話しかけてきた。バッジには「お客様のお悩みを解決いたします」とも書かれている。相談してみるのも手かもしれない。
「実は魚を釣ってくると妻に約束したのだが、釣れなくてね。何か良い物はないかね」
「書籍コーナーに『約束は守らなくていい』という自己啓発本がございます」
「そうじゃなくて。魚を釣ったということにしたいのだが」
「魚拓をお売りいたします」
「いや、妻は私の釣ってきた魚を夕飯のおかずにするんだ。なにか食べられる魚を売って欲しいんだが、ここには切り身しかないようだね」
「さようでございます。最近は魚を捌く手間をかけられない方が多いので」
「確かにその方が便利なんだろうが、私は困るよ」
店員は少し沈黙した後、こう言った。
「それでしたらこちらのあじフライはいかがでしょう」
「調理済みの魚は海を泳いでいないよ?」
「はい。しかし、昨今、釣りに行かれる方でも自分で釣った魚を捌くのが面倒だという方は多いのです。そのため、有名な釣り場では魚を調理してくれるサービスを提供しているところがございます。それを利用したことにすれば……」
あじフライは妻に好評を得た。それは間違いない。
終始おいしそうに食べていたし、寝る前にコソコソどこかに行くなと思っていたら、私の釣り道具の所まで行って「おまえ達は二度と魚を釣るな」と呪いをかけていたくらいなのだから。
《制限時間30分・お題:苦し紛れの魚》
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