『奇跡』を統べる家族の記録

アキタカ

第1話 とある親子の一幕

水の都アクトゥールは、古代パルシファル王朝における交易の要衝として、今日も行き交う人々で賑わっている。その中に、鍛冶屋から出てくるアルドとリィカの姿があった。二人の顔つきはどこか晴れやかだ。


アルド

「ふう。 やっと新しい装備が揃ったな!」


リィカ

「ハイ! 今回の素材集めは

ナカナカに骨でしたノデ

感慨もひとしおデス!」


そう言ったリィカがふと立ち止まる。アルドの足元を見つめているようだ。


リィカ

「……ムム アルドさん!

ブーツに穴が空いていマス!」


アルド

「あっ ほんとだ!

きっと今朝の素材集めの時だな。

これは直すの大変そうだな…… 


……ん?」


かがみ込んでブーツを確かめていたアルドが顔を上げると、道の先で立ち話をしている三人組が目に留まった。


ひとりは、中年の女性。

背筋を伸ばして堂々と立っている。容姿は美しいが、その双眸に宿る光は鋭く冷たい。


もうひとりは、少女。

歳の頃はフィーネと同じだろうか。よく見ると顔立ちがさきの女性と似ている。伏し目がちな表情と控えめな所作が儚さを感じさせた。


そして、ローブの男。

フードに隠れて顔は見えないが、女性二人の間ほどの年齢のようだ。どこか浮世離れした空気を纏い静かに佇んでいる。


風向きの関係で声が漏れ聞こえてくる。何やら揉めているようだ。


少女

「母さん……

今日は儀式を取り止めにしませんか?


あの子の命日です。

どうか静かに弔いを……。」


女性に向かって少女が遠慮がちに言葉を紡いだ。どうやらふたりは親子らしい。母親は娘を一瞥して、溜め息をつく。


母親

「命日? それで?

その弔いとやらが いったい

いくらの儲けになるというのだ?」


「…………。」


母親

「フン 愚か者が。

金を生み出さぬことに

かかずらう暇などないわ!


弔いがしたければ

ひとりで好きにやるがいい。

もちろん おまえの財布でな!


儀式にはゆめゆめ遅れるな。」


「……。 はい……。」


母親

「くだらぬ。 行くぞ世話役よ。」


ローブの男

「御意のままに。」


母親は低い声で言い放つと、ローブの男を連れて道を曲がって行ってしまった。娘はしばしその場に立ち尽くしていたが、やがて別の方向へと走り去った。


アルド

「……立ち聞きするつもりはなかったけど 

聞こえちゃったな……。


……ん?」


娘が走って行ったあとに何かが落ちている。アルドはそれを拾った。


アルド

「石のペンダントだ……!」


リィカ

「随分古びていマスネ。

劣化した首紐が

切れて落ちたようデス。」


アルド

「きっと娘さんのだよな。

まだ遠くには行ってないはず。

早く追いかけて届けないと!」


リィカ

「急ぎマショウ!」


リィカが元気よくツインテールを回して応えた。

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