Climb To Hell
ソラノリル
Prologue
霧雨の帳をくぐり、真昼の白い陽射しが淡く降り注ぐ。雲間から漏れ、天窓を通り、うっすらと部屋に撒かれる光。書斎だろうか。壁は全て作り付けの本棚で、重厚な背表紙の本が隙間なく収められている。ひっそりと閉ざされた部屋の中には、時を重ねた紙の匂いが満ちている。
真白の薄陽が、ふたりの人物の影を淡く描き出していた。ひとりは長身の女性で、もうひとりは小柄な少女だ。抑えた声で、会話をしている。
「法治国家? 放置国家の間違いじゃないんですか」
静かな声で言い放った声の主は少女だった。華奢な白い腕で、黒い銃器を組み立てている。まっすぐな短い黒髪に、黒曜石を思わせる瞳。十代半ばくらいだろうか。
少女が声を向けた先には、長い金髪を後ろですっきりとまとめた女性。こちらは二十代後半のようだ。細身のスーツが、凛とした雰囲気によく似合っている。
「相変わらず、言うわね、貴女は」
部屋の最奥、重厚なデスクに凭れ、女性は挑戦的な笑みを浮かべた。
「おかげさまで」
今日も私は貴女を護ることができています。淡々と告げる黒髪の少女に、金髪の女性は笑みを深めた。長い指が支えるのは、蔦の文様が描かれた上等な白磁のコーヒーカップ。
「今夜、此処に連れてきてもらいたい人間がいるの」
女性の言葉に少女は手を止め、女性を見上げた。頬にかかる黒髪が、さらりと一筋、白い肌に影を流す。
「では、《
「ええ。掛かったから、貴女に頼んでいるのよ」
「貴女の警護のほうは?」
「貴女が速やかに戻れば問題ないでしょう?」
「……言ってくれますね」
軽く息をつき、再び手元に視線を落とす。声と同じく淡々とした手つきで、最後のパーツを嵌めこむ。かしゃん、最初の弾丸を装填するのと同時に、少女は徐に席を立った。黒い瞳が、まっすぐに女性を捉える。降り注ぐ白く淡い陽射しが、少女の瞳に冷やかな光を落とす。
「分かりました。場所と時間を設定してください、《
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