二章 二節 三項
名を刻む
疲れた。
いやもうホント疲れた。キョウくん疲れまくり。
三大最強種――フェンリル並びベヒモスの一件で、征伐は打ち切り。
移動拠点ピヨ丸号で他より早くナシラに帰れば、待っていたのは詳しい経緯の説明やら事実確認やら。
当事者こそシンゲンとハガネだし、交々の主導はジャッカルとカルメンだったけど、俺一人傍観者気取ってるのも体裁が悪過ぎたため、色々使い走りを引き受ける羽目に。
お陰で矢の如く、数日が経ってしまった。
「クハハハハッ! クハハハハハハッ!」
獲物が向こうから登場という良い意味での誤算による、大幅な労力と時間の短縮。
その上で、ほぼ目論見通り運んだ展開に、至極御満悦な様子のジャッカル女史。
「クハハハハハハハハハハハハっげほ、ゲホゲホッ!!」
テンション激高。いつにも増して高笑いうるせぇ。咽せてるし。
内心呆れつつ、背中をさすってやる。
「げほっ、ありがとうキョウ……あー、苦しかった……クハハハハッ! 兎にも角にも、これにてオレ達の名を雷霆が如く轟かせるための下地となる大きな一歩を踏み出したワケだ!」
朗々と吼え、合いの手に鳴らされるフィンガースナップ。
眼鏡越しの視線が向いた先、シンゲンとハガネの胸元には、真新しい
「ひとまず上級止まりというのは些か気に食わんが、まあ致し方無し! 特級傭兵の任命権を持つのは各国本部だけだからな!」
北のビスバイン、南の五大国など、根を張る国それぞれに構えられた傭兵ギルド本部。
西方連合の場合は確か、四十一人議会の議事堂も据わる十二国家の中枢、リブラ領ズベン・エス・カマリが所在地だった筈。
尚、大陸西部唯一の独立国たるオフィウクスや東方七国の大半は傭兵ギルド非加盟国なので、本部どころか支部ひとつ無いとか。
「ギルマスさん、昇格には暫くかかりそうだと仰ってましたねぇ」
「クハハハハッ! 必定必定! 現状二人居る特級は片や北方、片や南方が活動区域と聞き及ぶ! そこに突然、二人も条件達成者が現れたのだ! きっと今頃、本部は泡を食った騒ぎだろうよ!」
俺からすれば、あんな埒外甚だしい怪物を倒せる奴が他に二人存在する方が驚き桃の木。
そも王位の魔物倒すのが昇格条件とか、ほぼギャグじゃん。
異世界怖い。
「うーむ、これで俺様も有名になっちまうな! 今のうちサインとか練習しとくべきかオイ!」
「…………どうでもいい、わ」
満更でもなさそうなシンゲンと対照的、お馴染みの台詞を抑揚無く零すハガネ。
ちなみに彼女、あの眠気解消モードは長続きしないらしく、三時間くらいで糸が切れた人形みたいに寝入った。
……元に戻ってくれて、ホント良かった。どうか今後も出来るだけ寝不足でいて下さい。
あれ怖過ぎ。
「相変わらずのニヒルガールめ。では、そんな君達を益々有名にしようじゃないか」
意味深長な宣言。
次いでコート裏に隠す形で後ろ腰のホルスターへと収めた、自家製とは思えぬ精微な出来栄えの
…………。
いや撃つなよ街中だぞ。往来の皆さん、何事かと身構えてんじゃん。
念願の銃が嬉しいのは分かるけど、超迷惑。
「最早ナシラに用は無い! 出発だ!」
――マジ申し訳ありません、はい。
――あ、その、全然テロとかじゃないんで。警備隊は勘弁して。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます