防衛都市ナシラ






 十字山脈の麓より一定の距離を保ちながら、地平線の彼方先まで延びる高く分厚い二重の壁。

 防壁都市ナシラは、その一部に組み込まれるような形で存在する、奇妙な町だった。


「うーむ。壁と壁の間に、こんなデカい町があるとはな。サンドイッチみてーだぜ」

「ここと同じ場所が西方連合だけで、あと六つ。摩訶不思議ですねぇ」


 腕組みしたシンゲンと、ピヨ丸を肩に乗せたカルメンが、物珍しげに辺りを見渡す。

 両名すっかり、おのぼりさん。かく言う俺も二人と似たり寄ったりな反応ですけれど。

 まあ、規模で言うならザヴィヤヴァの半分行くかどうか程度なのだが。


 …………。

 しかし、物々しい雰囲気だ。今までの滞在先とは、雑踏の匂いが明らかに違う。

 行き交う人々の表情はどこか硬く、シンゲンやハガネと同じ傭兵ギルドの認識票タグを提げた輩も多い。

 考えるに及ばず、征伐とやらが近い影響だろう。


「あむっ……は六日後。まあ一番慌しい時期だな」


 近くの出店で買った肉まんモドキを頬張り、頷くジャッカル。

 確かに、これが前日とかなら準備も一段落し、所謂『嵐の前の静けさ』を体現するに至っていた筈。

 そういう意味合いでは、俺達の到着は些かタイミングが悪かったのやも知れない。


「もむっ……なんだ、この肉まん。カラシか何かをたっぷり塗り込んだ角煮が詰まってるのに、生地はベタベタ甘い。まっず」


 どうでもいいけど、よく店の前で堂々と文句を吐けたもんだ。尊敬するよ。

 強面な店主が、今にも握り締めた包丁を投げてきそうな勢いで睨んでるけど。


「ほらキョウ、君も食べてみろ。あーん」


 ――べっ!? んだこれ、まっず!






 まさか、本当に包丁を投げ付けなくてもいいと思う。

 寿命縮むわ。俺の背中で寝息立ててるハガネが、掴み取って投げ返したけど。

 自動防御、からの迎撃。人間業じゃないよね、正味の話。


「…………すやぁ」


 つか起きろ猛獣ロリ。せめて、いつもみたく寝たまま歩けや。

 人を便利なタクシー扱いしやがって。あんまり調子に乗ってると振り落とすぞ。

 その後の報復を考えたら、とても実行できないが。怖過ぎ。


「さて諸君。宿を取ったら口直しに何か食べよう。全く、ひどい肉まんだった」


 そいつは同感。ハガネくらいだ、あんなもん平然と食えるの。

 道理で昼飯時にも拘らず、客の一人も並んでなかったワケだよ。さっさと潰れちまえ。


「先に傭兵ギルドの方に顔出しとかないでいいのか? 征伐隊への参加は手続きが要るんだろ?」


 小さくなったカルメンとピヨ丸でお手玉しながら、シンゲンが問う。

 確かに、出発が六日後ともなれば締切とて差し迫っていよう。

 後回しで刻限を過ぎてしまっては、これほどつまらない話も無い。


「クハハハハッ! その点は心配無用だ!」


 対し、余裕綽々といつもの高笑いで返すジャッカル。

 この様子だと既に手回し済みか。相変わらず行動が早い。


 そんな具合に、胸の内で感心していたら。


「どうせ征伐隊員の傭兵枠募集期間終了はだからな! 急ごうが寄り道しようが無関係だ!」


 駄目じゃん。





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