独創的な味






「よし完成! 俺様一番乗りだぜ!」


 訪れてしまった瞬間。待ち時間で熟成された絶望に顔を覆う。

 正直、食欲などとうに消え失せているけれど、観念と共にテーブルへ着く。


「さあキョウ、たんと食え! 肉オンリーの男飯だぞ!」


 肉も普通に食うが、どちらかと言えば魚とか野菜の方が好きだ。

 と、そんな個人的嗜好は置いといて、御丁寧にもクロッシュを被せて配膳された皿を眇める。


 白か黒か。両方の可能性を内包したシュレーディンガーの猫。

 込み上げる恐怖心に溺れてしまいそうな俺を奮い立たせる、作業風景の一切を見ていないがゆえの、もしかしたらという仄かな希望。


 幾許かの猶予を挟んだ後、意を決し、震える指先で釣鐘型の銀蓋を取り払う。

 内に篭った熱、温かな湯気を纏い、現れたのは……のは……。


 ――何これ?


「見ての通り、みんな大好きハンバーグだ!」


 誇らしげに胸を張って告げるシンゲン。

 そっか。でも俺には、切り刻んだ生肉と消し炭を混ぜ合わせた残骸にしか見えないわ。


「何故か上手く塊にならなくてな。ちょいと見てくれは悪いが、まあ食えば一緒だろ!」


 ちゃんと挽いたやつなら兎も角、ただ微塵切りにしただけの肉が繋ぎも無く纏められるワケねぇだろ。

 大体なんで黒焦げ部分と生肉部分とが、こうも綺麗に混在してるんだ。不器用が一周回って逆に器用か。


 初っ端からキツいのを放り込まれ及び腰になっていたら、遠慮するな、と笑顔のシンゲンにナイフとフォークを持たされる。

 ……味云々以前に、こんなもの食べたら確実に腹を壊すんですけど。






 なるべく噛まず、舌にも触れさせず、シンゲン特製ハンバーグを

 ううむ、口の中で自己主張する焦げ臭さと生臭さが生み出す惨憺たるマリアージュ。控え目に言って最悪。吐きそう。


「はっはっはっ、勢い良くかっ喰らいやがって! 気に入ったなら、もっと作るぞ!?」


 フォークを咥えたまま俯き、胃痙攣じみた拒絶反応を必死で堪える俺の気も知らず、あろうことか次など用意し始めるシンゲン。

 勘弁しろ。人間、寄らば大樹の陰を貫き通すにも限度があるんだぞ。

 あとひと口でも同じものを食べたら、今度こそ確実にリバースしちゃう。


「まあ待てシンゲン」


 俄然やる気のサイボーグゴリラをどう宥めたものか言い訳の考案に腐心する最中、横合いからジャッカルの制止がかかった。

 まさしく天の助け。血の池地獄に垂らされた蜘蛛の糸。アンタ仏様、いや女神様だよ。


「こっちも出来上がったところだ。先にオレ達の手料理を振舞わせてくれ」


 全く助かってなかった。寧ろ地獄の更なる深淵へと押し込まれた気分。

 女神様と思いきや、とんだ悪魔だったぜチクショウめ。


 ああ、拝啓オフクロ様、ついでにオヤジ殿。不肖の息子が異世界で一人お星様になるやも知れません。

 もしも帰らぬ人となったなら、どうかスマホとパソコンは中身を見ずブッ壊して下さい。かしこ。





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