一章 二節 二項
度重なる襲撃
語るも悍ましいジャッカルの手料理は、結果的に功を奏した。
「き、きききキサマらぁっ! もう余計なことはするな、ただワシの護衛にのみ専念せよっ!」
そんなお達しを出されたのは、モーブ氏が死の淵より生還した直後の話。まさか純粋な不味さだけで人が命を落としかけるとは。
ともあれ、ロクでもない連中との評価を受けた様子で、すっかり警戒されてる。あの事件から数日が経った今も、こっちには全く近寄ってこない。
俺達としては、ギャーギャー文句を言われたり、護衛の領分を越えた命令をされず済むから、取り敢えず良かったと思っておくってのが概ねの総意だ。
人生、何事もプラスに考えないと。
……まあ、そいつはいいんだが……実は現在、別の問題が発生しつつある。
アルレシャを発ち四日目。アクエリアス領サダルメリクまで、そろそろ折り返し地点。
その間、俺達は都合三度となる賊の襲撃を退けていた。
退けたの、実際は殆ど全部シンゲンとハガネの二人だけど。
「うーむ、骨のない。公園で狩ってた魔物の方が、まだ歯応えを感じたぞ」
「…………暖機にもならない、わ」
死屍累々と積み重なる襲撃者達の山。一人頭、全治半年ってとこか。
ゴミを掃くみたいな手際で二十人ほど片付けた怪物コンビは、退屈そうに腕や服を払っていた。
……しかし、妙だ。
街道は滅多に魔物が出ないルートを選んで敷かれているため、高を括って護衛費用をケチる商人も少なくないとはジャッカルの談。
そうした輩を目当てに網を張って待ち伏せ、なんてのは野盗の常套手段らしいが、こうも立て続けに襲われるとは。
まるで。
「最初から、オレ達を狙っていたような流れだな」
「ジャッカルさんも、そう思われますかぁ?」
道を塞ぐ丸太の撤去作業がシンゲンの手で行われる中、話し合う知性派二人。
御者台に座るモーブ氏を見れば、どこか怯えた様子で表情を強張らせ、後ろの荷台を何度も振り返ってる。
「ふむ。成程、連中の目的は積み荷か。そう言えば何を運んでるのか聞いていなかったな」
初日に一度、俺が馬を操り損なって馬車に触れたら凄まじい剣幕で怒鳴り散らされたのを思い出す。
人格的に問題のある相手だからと、あの時は気にも留めなかったが……。
「金で雇われたか、値打ち物の噂を流布されたか。いずれにせよ、背景に何者かの影がありそうだ」
「どうします? 心当たり、聞いてみますぅ?」
「此方も所詮は数日前に初めて顔を合わせたばかりの被雇用者、素直に事情を話すとは思えんな。第一オレ達は単なる随伴、依頼を請けたのはシンゲンとハガネだ。彼等が知りたいと言うなら、聞き出すのも吝かではないが」
ちら、と俺は二人に視線を向けてみた。
「襲撃は別に構わんのだけれどなぁ。もっと強い奴が来て欲しいもんだ」
「…………物足りない、わ」
溜息と共に不満を吐き出す生物兵器達。
あのサイボーグゴリラと猛獣ロリが、積み荷云々なんて小さな話に関心を抱くとは考えにくい。
そして、俺と同じ結論に達したのか。ジャッカルもまた軽く肩をすくめ、モーブ氏に出発を促す。
彼は青い顔で、けれども威勢はアルレシャから出た時と変わらず、尊大に了承を返した。
偉そうな態度も、こう一貫されると、ちょっとだけ敬意を感じてしまう。
…………。
回数が重なるにつれ、敵の数も多くなってきた。
道程は残すところ約半分。あと一回二回は襲撃を覚悟しておくべきか。
こっちにはシンゲンとハガネが居るとは言え、武器を手に襲われるのってやっぱり怖い。
どうか無事、サダルメリクまで辿り着けますように。
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