4-4

 毎日、マネージャーの木村さんが、車で迎えに来てくれる。

バタバタと毎日が慌ただしく過ぎていった。

とにかく、いろんな人と会っては紹介され、自己紹介するの繰り返し。

こっちにきて、2週間経つけど、1回も演奏させてもらってない。

こんなにも長い間、音出さなかったこと、今までなかったな。

「木村さん!ちょっと限界なんだけど!」

悠弥が運転中の木村さんに声をかけた。

「えっ?何が限界?」

と、聞き返した。

「俺ら、こっちへ来てからまだ1回も演奏させてもらってね〜んだけど!」

と、言った。

「おっ!悠弥!俺も言おうとしてた!」  

と、大輝も言った。

「みんな、そう思ってたな〜!」

「そうですよね〜!次の現場に着いたら、確認しますね!

近々、YO.I.Nのレコーディングをすると思いますね。

あと、ルピアーノ主催でコンテスト優勝者のお披露目パーティーがある予定なので、そこで何曲か演奏してもらうことになるかと思うのですが」と、木村さんは言った。

「何曲かって、ぶっつけ本番じゃないよね?」と、俺は半笑いで聞いた。

「まぁ、あとで確認してもらうとして、その前に5人で何回かは練習させてください」

と、瞬が言った。

「はい。確認します」


 次の現場は、雑誌の撮影とインタビューだった。

まず、5人で撮るということで、用意されていた衣装に着替えた。


「アハハハハハ!」

みんなで笑った。

理彩子が作ってくれたあの衣装、モドキの衣装だった。

白黒な感じ。

でも、色が微妙に違っていておかしかった。

「俺の、ハーパンじゃなくてズボンにしてくれてるわ!でも、白ズボンじゃなくて、黒ズボンが良かったんだけどな〜」

と、悠弥がブツブツ言っている。

俺の服も、ペラッペラのシルクじゃなくて、黒いトレンチコートみたいなやつだった。

相変わらず、腹は丸出し。

“キレイだから、出さなきゃ!これ、鉄則!”って理彩子が言ったのを思い出してクスっとしてしまった。

龍聖のは、割と忠実に再現されてる感じ。

瞬のジャケットは燕尾服みたいな黒いジャケットになっていた。

「大輝!!アハハハハハ!」

悠弥がデカイ声を出して笑った。

「白いゴールネットが、黒いネットに変わったな〜!これ、いちにっぱじゃね?」

「アハハハハハ!!」


普通、他のバンドとかがどうなのかってわからないけど、俺らは本当に仲がよくて、学生のノリのままだ。

何をしてても、冗談言い合って笑ってる。


5人で言われるがままに、写真を撮られた。

立ち位置は、だいたい一緒。

真ん中が龍聖、左が俺、右が瞬、俺の左に悠弥、瞬の右に大輝って感じ。

龍聖の肩に手をのせろとか、斜に構えろとか。

目線こっち、あっち、上とか。

何枚撮るんだよ?ってくらい。

このあと、服を着替えて、1人ずつ撮るとのこと。

 

「じゃ、衣装チェンジお願いします。

あっ、すみません!

桂吾さんと龍聖さんだけこのままであと何枚かお願いします!」

と、言われた。

背中合わせのポーズとか、意味不明に握手?ってか、腕相撲の時みたいに手を握ったり、5ポーズくらい撮った。

その間に、着替えをすませた悠弥と大輝が戻ってきた。

真っ黒!

2人とも、革ジャン革パン。

「おーー!ガラ悪そうな2人組来たな〜〜!

アハハ!」

と、俺は笑って言った。

「おまえらの衣装もこんな感じだったからな!」

ロッカーをイメージしてんだろうけど、この2人を見ちゃうと、族っぽいな!

裏に行くと、瞬がまだ着替えていた。

おそっ!

「瞬て、いつも着替え遅いな〜!」

と、俺が言うと、

「革パンなんて履きなれないからさ〜!

超ピチピチでキツイんだけど、サイズ感これであってんのかな?」

「いいんだよ!これで!カッコイイよ!」

「そうなのか?これ、しゃがんだりできね〜な!」

「写真撮られるだけだから、大丈夫だろ!ってか、俺もう着替えたから、先に行くよ!」

「あぁ、龍聖と行くよ!」

瞬は、神経質だから、服のシワが!とか、ホコリが!とか言ってて、いつも着替えが遅い。

そんなところは、お茶目な感じもする。

龍聖も割と、のんびりというか、マイペースだ。

それに比べて、悠弥と大輝は何をするにも早い。

“ちゃっちゃとやる!”ってよく言ってたな。

ちゃっちゃってなんだよ?っていつも思ってた。

“さっさ”じゃね〜のかよ?方言か?

俺が着替えて行くと

「おっ!ガラ悪いのが来たな〜」

と、悠弥と大輝が笑って言った。

「俺らもう撮り終わったわ。瞬待ちだったけど、アイツまだ?」

「革パンがピチピチで!ってさ」

「アハハ!革パンってそうゆうもんだろ!」

「もういいや!先に桂吾でお願いします!」

と、大輝がスタッフさんに声をかけた。

若いスタッフの女性が走ってきて、

「桂吾さんは、これを持ってください」

と、花を1輪渡された。

ん?ラナンキュラスっぽいけど、茎とか葉っぱの感じが違うな。

「あの、これって何て花ですか?」

「それは、トルコギキョウです」


とるこ……

トルコギキョウ!!!!

これが!!!!

あの時、彼女が言ってた……

トルコギキョウ……

今まで、一生懸命思い出そうとしても、モヤがかかったように、その部分だけ思い出せなかった記憶がクリアに蘇った。



「この花 何て、名前?」

「これは、ラナンキュラス」

「は!?ランナー何?」

「ラナンキュラス。

ら、な、ん、きゅ、ら、す。

ラナンキュラス。アハハ」

「ラナンキュラス。むずっ!!俺、この花屋の花の中で、これが1番好きだわ〜!」

「へ〜〜!意外!私も好きだけど、桂吾は、もっと、これとか、これみたいな派手めなやつが好きそうなのに。

意外に純粋な人?

花言葉はね〜、アハハハハ!

興味ないよね〜花言葉なんて!

私も、桂吾のギターの話とか興味ないもん!」

「おまえは、どの花が好きなんだよ?」

「う〜ん。そうだな〜。好きなのいっぱいありすぎて、1つ選ぶの難しいんだけど、昔からずっと好きなのは、ユーストマかな。トルコギキョウのこと。八重咲きの方ね!」

「は?トルコ?どれだよ?」

「あぁ。時期的に、今は置いてないや〜。

見た目は、割とラナンキュラスと似た感じだよ。すっごく深い紫色のやつとか、吸い込まれそうなくらい、気高くて高貴な色って感じですごい綺麗なの」

「ディープパープル!」

「アハハ!そ!そんな感じ」



これなんだ……

これだったんだ……

八重咲きのトルコギキョウ……

深い紫色

まさしく、これだ!!

彼女の好きな花。

泣きそうだった。


いろんなポーズで撮った。

「桂吾さんOKです!」

大輝と悠弥が座ってるところへ行った。

「桂吾!すげー優しい表情だったな〜!」

「花が似合うな〜!ってか、すげー涙目じゃね?大丈夫かよ?」

と、悠弥が立ち上がった。

「これ!この花、彼女が1番好きだって言ってた花だった。1回聞いたのに、その時ちゃんと覚えられなくて、どんな花かもわからなくて、深い紫色ってワードしか思い出せないでいた花が……これだった……

彼女が1番好きだって言ってた花を、桂吾さんのイメージはこうゆう感じって、カメラアシスタントの子が選んでくれたって!!

アハハ!嬉しかった!!」

「良かったな〜!」

「ずっと探してた人に会えたような、そんな表情してたよ。きっと、いい写真になってるよ!」

「ありがと」

 

マジで嬉しい。

やっと、会えた。


あの時、俺はラナンキュラスを覚える方に気を取られてた。

なんで、彼女の好きな花の方を覚えなかったんだ!って、すごく後悔した。


改めて、手にしてる花を見た。

このトルコギキョウは、彼女にピッタリの花だ。

花びらがフリルのように幾重にも重なっていて、優しく柔らかだ。

品があって、でも、どこかミステリアスな感じ。

どこまでも濃い紫色。 

彼女は、それを深い紫色と言った。

それから、気高くて高貴な色だと言っていた。

そうだ、昔、歴史の授業で習った気がする。

何時代の話か忘れたけど、冠位十二階?1番エライ人の冠は紫色だったよな。

紫ってヤンキーの色じゃなくて、高貴な色なんだ。

カメラアシスタントの子が、俺をイメージしてこれを選んでくれたってのは、よくよく考えると、ちょっと違くね?って感じだけど、これを選んでくれたことに感謝したい。


瞬と龍聖の撮影も終わった。

改めて見てみたら、大輝は、ひまわり。

大っきいひまわり。

悠弥は、チューリップ。 

普通のじゃなくて、花びらの先が尖ってるような感じで、赤と白のマダラになってるような珍しいチューリップだった。

瞬は、ユリ。

白いスッとしたやつ。

鉄砲ユリと言うそうだ。

龍聖は、バラ。

真紅の薔薇。


それぞれのキャラクターに合ってる感じがした。


「あの、この花、もらってもいいですか?」

と、聞いてみた。

どうぞと言ってくれた。

マンション戻ったら、すぐに曲作りたいな〜。


“深い紫〜Deep purple〜”









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