3-9
龍聖と海に行ってから、彼女のことを考えている時間が増えた。
YO.I.Nを演奏していると、否応なしに彼女のことが頭に浮かんでくるし。
龍聖が言ったように、
“いい恋愛をしたって心が納得できている”
のか、それは、自分自身よくわからない。
ただ、まだ、過去形の話にしたくないような気がしていた。
実際、4年も前にお別れしてるんだから、過去形の話なんだけど。
心と身体は、別もので、俺は別に好きじゃなくたってセックスをした。
ほんと、相手に不自由しないくらい女の方から寄ってくる。
勘違いして、本気にされても困るから、遊びだよって言う。
それでもいいから、また抱いてって言う女。
そんなのヒドい!って泣く女。
ふざけんな!って怒る女。
いろんな女がいる。
彼女と会えなくなってからも、何人もの女を抱いてきたけど、本気になれる人には出会えていない。
彼女を忘れられるような女はいないのかな。
俺、彫刻家とかだったら、寸分の狂いもなく、彼女の身体を創ることができるんじゃないかってくらい覚えている。
彼女は、別に万人受けする魅力を持ち合わせた女じゃない。
本当に普通の人。
だけど、俺にとっては、とても惹かれる何かを持っている人だった。
その何かが、何なのか、何にそんなに心奪われているのか、それがわからなくて、知りたくて、彼女と一緒にいたかった。
結局、それがなんだったのか、解らず仕舞いだった。
セックスの相性が良かった。
彼女との会話が楽しかった。
ただ、一緒に眠れるだけで幸せだった。
だけど、それは、俺が一方的に思っていただけのこと。
俺が、遊びの女に心を奪われることがないように、彼女にとって俺は何の興味もないただのセックスの相手。
俺を好きになってはくれなかった。
白くて長い指。
「ピアノやってた?」
と聞いた。
「それ!すっごい言われる!うまそう!とか。私、ピアノなんてやったこともないし、右手と左手別々に動かすなんて全然ムリ!」
あははと笑った。
彼女の左手を掴んで、指と指を絡ませた。
「指長いな」
「そう。指長いよね。あっ、手だけは、よく褒められるよ!手のパーツモデル出来るんじゃない?って!あれ?パーツモデルって言われてる時点で、ディスられてんのかな?アハハ」
俺になんの興味もないからか、彼女は、まったく自分を良く見せようなんて気取った感じはなくて、素の部分を出していたように思う。
機嫌が悪い時は、イライラしてキツいことも言ってきたし、寂しい時は、甘えてきたし。
俺に対して、素だった。
そんな素を見せてくれる彼女がたまらなく、愛おしい存在だった。
ずっと一緒にいたい。
離れたくない。
そう思っていたのが、自分だけだったことが、悲しかった。
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