3-3

 家に帰り、いつものノートを開いて、詞を書き始めた。

俺の曲の作り方は、超アナログだ。

そもそも、どうやって作るのが正しいのかも知らないけど。

高校の時から作ってる。

まず、ノートに詞を書く。

その時に、鼻歌くらいの感じでメロディーをつけていく。

詞が書きあがったら、それを譜面におこす作業をする。

絶対音感があるわけじゃないけど、頭の中にピアノがある感じ。

ちゃんとした音符にして、五線譜に書き込んでいく。

詞も、この時に足したり、削ったりしながら、譜面に書く。

楽譜が完成したら、それを実際にギターで弾きながら、仮歌を歌って、それをUSBに入れる。

ここまでの作業、いつもは1曲完成させるのに、3、4時間はかかっていた。

それが、これは、2時間弱で完成してしまった。

けして、適当に作った訳じゃない。

なんてゆうか……もうすでに出来上がっていたものを、ただ形にしただけって感覚。

彼女のことを思い浮かべて書いただけ。

きっと、ずっと前から、この曲は、俺の中で完成していたのだろう。

それを改めて譜面にしただけのことだ。

俺の中にずっとある、余韻。



YO.I.N


初めておまえに逢ったあの日

可憐な白百合を見た気がした

長い髪

しなやかな細い指先

汚れない凛としたまなざし

おまえには近づけなかった

俺とは世界が違う

そう思った


寒い冬の海

初めておまえを抱きしめた

冷たい体をあたためあって

俺はおまえの寂しさを知った


傷ついているのか

傷つけているのか

癒しているのか

癒されているのか


何度も何度も唇を重ね

何度も何度も抱きあった


抱き合うほどに

俺は寂しくなったんだ

いつかおまえが

俺から去って行くのがわかっていたから


清らかな白百合を

俺の色に染めたかったが

最後までおまえは

心を触れさせてはくれなかったな


傷つけているのか

傷つけられたのか

壊したいのか

壊されたのか

壊れてしまったのか


何度も何度も唇を重ね

何度も何度も抱きあった


俺から離れてくおまえを

引き止めることは出来なかった

追いかけることも出来なかった

失って気づく


ただ今も

強く抱きしめた時の吐息が

余韻になる

ただ今も

強く抱きしめた時の早い鼓動が

余韻になる


何度も何度も何度も

おまえを

何度も何度も何度も

抱きしめた


何度も……

余韻が……

余韻が……



 初めて作ったラブソング。

初めてのバラード曲。

これを、明日のミーティングに持って行こう。

もうそれで、眠ろうかと思った。

けど、何重にもロックを掛けてしまってあった、彼女との思い出が、雪崩のように一気に俺を埋め尽くして、眠れなくなってしまった。

俺はまた、ノートを出して、詞を書き始めた。

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