2-12
「桂吾、一緒に飯行かないか?」
エレンが、初めて誘ってくれた。
このスタジオからすぐの店だからって、歩いて行った。
裏路地を歩いて、石造りの建物に入った。
外から見たら、全然店っぽくなかった。
ドアを開けてすぐに階段があった。
「上と下、どっちがいい?」
と笑いながらエレンは聞いた。
「なんとなく、上かな!」
って俺が言うと、
「ハハハ!いいね!」
って笑って、階段を上った。
階段を上がったところのドアを開けると、
「いらっしゃいませ。どうぞ」
と、ドアマンみたいな人が案内してくれて、個室に通された。
いや、個室っていうのかな?
カラオケ屋のパーティールームくらいの部屋。
席に着くと、頼んでもいないけど、ワインがグラスに注がれ、次々に料理が出てきた。
「めんどくさいから、いつもおまかせにしちゃってるんだ!桂吾、苦手なものとかあるかい?」
「いや、俺 雑食!ハハハ!なんでも食べれるよ!」
「そうか。良かった」
イギリスの飯は不味いって聞いていたけど、俺は全然そんな風に感じてなかった。
ジョージが貸してくれてるアパートの真ん前のパブにほぼ毎日行ってるけど、どれも美味しかった。
エレンは、超有名人。
ロックバンドoneのボーカルって、知らない人はいないんじゃないか?
有名人だけど、優しい人だなって思ってた。
「桂吾、どうだい?」
質問が、ちょっと何を指したのか、わからなかった。
「美味しいです」
そう答えると、大笑いされた。
「アハハハハ!良かった!口にあって!
どうだい?って聞いたのは、う~ん、そうだな、ロンドンはどうだい?ってこと」
「あっ!楽しいですよ!ってゆうか、練習の邪魔しちゃってて、すみません」
「邪魔だなんて、全くないから、桂吾が来てから、俺たち毎日楽しんでるよ。
もう30年やってるからさ、マンネリ?とかあんじゃん!
桂吾が来て空気を換気してもらってる感じ」
「換気?」
「アハハ、換気」
そう言いながら、手をぐるぐるさせた。
循環って意味かな?
「ジョージは、あの性格だからな!大変だろう?」
「あっ、いえ。あっ、はい!アハハ」
「桂吾が、どう感じてるかわかんないけど、ジョージは桂吾のこと、スゲー気に入ってるから。
まず、ジョージが誰かに物を教えるなんて初めてのことだからね!」
「そうなの?」
「まっ!ハリスに頼まれたから、仕方なくだったかもしれないけど、ジョージが他人にギター教えるなんて、スゲーびっくりだから!」
そう言ってワインを飲み干すと手を挙げた。
ウェイターさん?が、ワインを注いで行った。
「エレンは、ハリスを知ってるの?」
「あぁ!もちろん!ジョージと付き合ってたからね!あっ!それは知ってるんだっけ?」
「はい。ハリスに聞きました。ジョージは元彼だって」
「元彼……。まぁ、ハリスがどう思ってるかはわかんないけど、元フィアンセって感じだけどな。俺らは、ジョージとハリスは結婚するだろうって思ってたよ」
「結婚?」
「うん、そう。
まぁ、タイミングかな?タイミングが合わなかったんだよな。
あの頃、ちょっとバタバタしてたからな。
どっちがどうじゃなかったけどな~。
ハリスがジョージに頼みごとなんて、今までなかったから、ジョージとしては引き受けざるを得なかったわけだ!桂吾をね!」
「そうなんだ」
「あっ!桂吾!ビールの方が好きか?」
「どっちかって言えば」
「早く言えよ!」
また、手を挙げてビールを頼んでくれた。
「恋愛って難しいよな。
若者に言うことでもね~けどさ。
俺、バツ2だけどさ、まぁモテんじゃん!
いろんな女喰いたいし、若い頃はよく遊んだよ~。
でもさ、有名になりすぎちゃって、遊べなくてよ~!身を固めたけど、それはそれで窮屈でな。
難しいわ!桂吾、有名になる前に遊んどけよ!
アハハハハ!」
エレンは、今の3番目の奥さんと離婚の調停中だそうだ。
「あっ!桂吾!マリアの子なんだって?」
思い出したように突然言った。
「えっ?!母さんを知ってるの?」
「あぁ!レコーディングに参加してもらったことあるよ!バイオリンの音が欲しかったから。
あと、ピアノも入れてもらったかな。
もう、10年くらいたつかな。綺麗な人だよな!子供がいたとは知らなかったけど」
「それって、離婚した後だよな。子供なんて、いないことになってたと思う」
自分で言っといてなんだけど、すごく皮肉っぽい言い方に、自分自身驚いた。
「いないことにはしてないだろうけど、1人になって、彼女は必死に頑張ってきたんだと思うよ。才能があったって、それで飯を食えるのは、ほんの一握りだ。
彼女が今 引く手あまたで仕事をしているのは、俺だって知ってる。
それだけ、頑張ってきたってことじゃないか?」
エレンは、諭すように、でも優しく俺に言ってくれた。
「わかってます。ありがとうございます」
「ハリスが若者を連れてくるって言うから、俺達ハリスの子供?ってびっくりしてさ!
そしたら、マリアの子供ってゆうから、更にびっくりしたよ!
で、実際会ったら似てて笑えた!」
「似てるのかな?」
「あぁ!目もとから鼻にかけて、スゲー似てるよ!
女装したら、なかなか美人に仕上がるんじゃないか?アハハ」
「日本では、母さんの話しって、誰にもしたことないから、なんか嬉しい。初めて、母さんの話ができたって感じ」
「まっ、みんないろいろあるわな!」
「エレン!ありがとう!」
なんだか、気持ちが楽になった。
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