2-3

 悠弥に、全部すっぽかして泣いてろ!って言われてから、そうしてみようかなって気になった。

一端、ここから逃げる。

ばあちゃんちへ行こうと思った。

ちょうど、大輝から、来週面談って言われていたから、了解!!って返事していたけど、実際無理だとも思っていた。

隠すのは、もう限界だった。

大輝が面談の時に必ず聞くあの確認


“これからも、このバンドを続ける気があるか?”


これを聞かれたら、“あぁ。もちろん!” って答えられる自信がなかった。

大輝に聞かれたら……


『もう、やめたい』

『もう、死にたい』

って言ってしまいそうな気がしていた。


ばあちゃんちは、フランスにある。

母さんのお母さん。

じいちゃんは、アメリカ人だったそうだが、俺が1才くらいの時に事故で亡くなってしまっていたから、じいちゃんの記憶はない。

音楽家だったと聞いている。


母さんは、アメリカのシアトルにある大学に通いながら、もうその頃からプロのバイオリニストとしても活動していた。

オヤジは、大企業の商社マンで、その時はシアトルにいた。

あんま、詳しく聞いたことなかったけど、2人は出会って、結婚した。


俺が生まれ、何年後かに、フロリダに引っ越した。

小学校は、白人、黒人、俺みたいなアジア系や

いろんな子がいたけど、なんの疑問もなく過ごしていた。

差別された記憶もない。

楽しく過ごしていた記憶しかない。

オヤジが転勤で、東京に戻ることになり、母と俺も初めて日本に行った。

東京の小学校に入った。

俺は、なんだか、馴染めなかった。 

初めて感じた疎外感。

それは、母も一緒だった。

オヤジは相変わらず忙しく仕事ばかりしていた。

見知らぬ土地で、母はバイオリニストとしての仕事もままならず、日本語もあまり喋れなかったから、本当に辛かっただろう。

オヤジが家にいる時は、口論することが多かった。

2人がどんなことで揉めて、どんな話し合いをしたのか、俺にはわからなかった。

離婚して、母は日本を離れることになった。


俺は、オヤジの実家の長野のじじばばの家に引っ越すことになっていた。

オヤジは、俺を育てることも出来ないくせに、母に渡すこともしなかった。

なんだか、見捨てられた気がした。

だけど、長野に引っ越したことが俺にとって幸運なことだったと、今は思う。

じいちゃんも、ばあちゃんも、とても優しい人だった。

俺を温かく迎え入れてくれて、家庭の温もりを感じさせてくれた。

小学校も都会からのハーフの転校生って、休み時間には、全校児童が俺を見に来て、遊ぼう!遊ぼう!って誘ってくれた。

なんだか、よくわからなかったけど、人気者になった。

俺は、元々かなり陽キャだから、あっという間に溶け込めた。

楽しく小学校生活を過ごし、地元の公立中学へ進学した。

田舎だから、私立の中学へ進む人は、数人でほとんどの人が公立の中学へ入学する。

ここで、俺は悠弥と出会った。

とても、気が合って、それからずっと一緒にいる。

初めて、ちょっと離れてみるよ。

悠弥。

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