2-2
俺は、1人ジムでサンドバッグ相手にめちゃめちゃパンチを繰り出していた。
「はぁ~はぁ~はぁ~……」
マジ、ウケる!
ただのセックスの相手、セフレの1人がいなくなっただけ!
そうだろ!
何にも困らねーよ!
代わりなんて、いっぱいいるんだから!
どうでもいいよ!
俺は、俺で忙しいんだから!
考えるな!!
「おつかれ~!」
悠弥がジムに顔を出した。
俺を見つけて、ニコニコして歩いてきた。
「おまえ、1人でくんなよ!ボクシングすんなら、誘えよ~!」
「今日は、1人でやりたい気分だったからな」
「最近、そうゆうの多いな!スパーリングやろうぜ!」
「やらない」
「は?なんで?」
「悠弥をボコボコにしちまうかもしれねーから!」
「おまえ、ふざけんなよ!おまえにボコられるような俺じゃねーよ!言っとくけど、俺の方が強え~からな!」
「そうだな」
「で?やらねーのかよ?」
「やらない」
「そっか。じゃ、ボクシングじゃなくて、語り合おうぜ!」
と笑った。
俺も、しゃ~ね~な~と笑いながらベンチに腰をおろした。
「なぁ、桂吾!友達として聞かせてくれよ!何があった?」
「なんもね~よ!……しいて言えば、セフレが1人いなくなったくらいかな」
「それ、おまえが前に言ってた女のことだな!
好きな女ができたって言ってたやつ。
あれ聞いてから、おまえにドタキャンされてもしょうがないかって思ってたけど、あれから1回もないじゃん!
ってゆうか、今までよりずっとマジメにレッスンしたりしてんじゃん!女がいなくなって、必死に忘れようとしてんのか?」
「あはは。必死にか……そんな感じでもねーけどな。ただ、予定を埋めたいだけだよ」
「花屋のバイトの子だろ?」
「は??そんなこと悠弥に言ってねーよな?」
焦って聞いた。
「珍しいね~!あはは。桂吾が誘導尋問に引っかかるなんてな!」
「かまかけたのか?」
「まぁな。桂吾に好きな女ができたらしい!って、瞬が言い出してさ。
俺は、ちょうどおまえから聞いたばっかりだったから、へぇ~そうか~?みたいな感じでとぼけて、龍聖は、全く興味ないって、話終らせたい感じだったけど、大輝がすげー食いついてさ、瞬になんでそう思うんだよ?根拠を言えよ!って。
そしたら、瞬がこうであぁで!って根拠を語りだしてよぉ!
で、桂吾がマジになってる女を特定する!って言い出したんだ。
そう言えば!って、おまえが前に作って瞬に持ってきた歌詞で、やっぱこれはボツにしてくれってさげたのがあって、その詞が
“花が好きなおまえに心を奪われて”
みたいなやつだった!って!
桂吾のバイト先の服屋の真ん前、花屋じゃん!ってなって、みんなで見に行こうぜ!ってことになったんだ!」
そこまで一気に話すと笑った。
「はぁ~?なんだよ、それ!中学生かよ?」
「俺たちは、桂吾を本気にさせるなんて、超絶エロい女なんだろな!って、なんかそれぞれ想像力膨らませて花屋へ行ったんだ」
えっ?
行った?
「ちょっと待てよ!おまえら4人が隣の花屋に来れば、完全に俺気づくはずだけど!」
「あはは。なんか、変な時間にレッスン入れられてた時あっただろ?」
「あっ?この時間しか無理!って17時かなんかの時?」
「そう!あれ、瞬の差し金!完全におまえいないのわかってて行ったからね!
あっ、理彩子もいたから5人で」
マジかよ……
「で、ゆきちゃんに接客してもらって花を買ってきた」
「で?なんだよ?」
「意外だった。みんなそう思ったんじゃないか?全然エロ女でもなければ、ダイナマイトボディーでもなかった。
俺の感想言っていいか?学校にいたら、優等生タイプの清楚な子って感じだった。
俺ら、なんかいろいろ質問したけど、すげー丁寧に答えてくれてさ、いい子だな!って思ったよ。だから、逆に、なんで桂吾が振り回されてんのか、わかんねぇって感じだった」
俺は、左手で顔を覆い、下を向いた。
マジかよ……
2月頃の話しだろ。
みんなに、彼女のことがバレてたなんて……
恥ずかしい……
「で?何?」
「みんなそれぞれに感想を言いながら帰ってきたけど、共通してたのは、“普通”ってことだった。考えてみたら、桂吾はこうゆう普通の子と接したことなかったんじゃないかって思った。
中学も高校も周りはやんちゃな野郎か、おまえに気があって寄ってくる女ばっかりだっただろう。だから、あぁゆうほんとに普通って子が逆に新鮮だったんだろうなぁって。
桂吾をいい方向へ軌道修正してくれてるって、龍聖はそう言ってた。
中和剤的に、いい感じで混ぜ合わせてくれてるって。
だから、今のおまえをすごく心配してるよ、龍聖!
俺もだけどさ。
龍聖は、一番敏感に感じ取ってたみたいだよ!
あんま喋んね~からわかんねぇけど。
龍聖は、おまえの作る曲を憑依するみたいに自分のものにして歌ってきた。
だからこそ、感じるんだろ。
とにかく、溜め息ついて、キチーな!って言ってるよ」
「アハハハハ!マジか!わり~!どうしたらいいんだろうな……みんなに、気を使わせて……
迷惑かけて……
俺、バンド抜けた方がいいかな?アハハハハ!」
「桂吾!ふざけんなよ!」
デカイ声を出した。
「無理して笑ってんなよ!悲しかったら、とことん落ち込んで、泣いてたらいいんじゃねーのか!マジメにレッスンなんかしてねーで、全部すっぽかして泣いてたっていいと思うぜ!
無理してっから、そこで足踏みしてるだけで、前へ進んで行けねーんじゃねーのか?」
涙が流れた。
今まで、悲しくても泣いたことなんてなかった。
親が離婚した時だって、泣かなかった。
ケガした時だって笑ってた。
こんなにも、こんなにも、涙って流れるのかよ……
こんなにも、こんなにも、とめどなく溢れ出るものなのかよ……
悠弥は、ずっと俺の背中に手を置いていてくれた。
胸に染みるくらい、温かかった。
びっくりした!!
不思議なくらい、スッキリした!
俺が泣いて、何が変わるんだよ?何も変わらね~よ!って思っていた。
実際、泣いたって、状況は何も変わらない。
彼女が戻ってくるわけでもない。
だけど、とにかくスッキリした。
涙の浄化作用ハンパね~!
なんだか、可笑しかった。
声をあげて笑った!
無理して笑ってんじゃない。
本当に可笑しかった。
涙のパワーすげーな!
俺、単純だな。
彼女のことを忘れることはできない。
でも、彼女がいない別の楽しい未来を思い描いて行くことができそうな気がした。
大きな夢の実現に向けて、こんなところで、いつまでも足踏みしてるわけにはいかないよな!
やるべきことをやる!
今まで以上に!
彼女を忘れる為じゃなくて、自分自身が輝けるように!
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