REAL

彼方希弓

第1楽章  1-1

 「わり~、遅れた!」

「遅れたじゃねーよ!!丸々1日経ってんだよ!昨日の約束すっぽかしやがって!!」

ドラムのスティックを投げつけると、大輝が怒鳴りながら駆け寄ってきた。

俺を掴みかかろうとした寸前で、悠弥が俺と大輝の間に割って入って止めてくれた。

「まぁまぁまぁ、桂吾がサボるなんて初めてじゃん!たまには、野暮用だってあんだろう」

「大輝は心配してたんだよ!遅れるって連絡の後、全然来ないし、携帯繋がらないし」

奥のソファーで横になってた龍聖が静かに言った。

「心配なんかしてねーし!」

「ゴメン!ほんと、遅れて行くつもりだったんだ!だけど、海行ったら、落ちて携帯水没しちゃって」

「海に携帯落としたの?」

ピアノを引く手は止めずに、瞬が聞いてきた。いつも通りの流れるようなメロディー。

「じゃなくて、俺が落ちたの!!事故事故!!」

「はっ?ってゆうか、よくよく見れば、手!大丈夫かよ!傷だらけじゃん!」

瞬が立ち上がると、大きな声をあげた。

「あぁ。だいぶ必死だったからな。すげー、あちこち痛い」

「バカやってんなよ。こんな冬に海に飛び込むバカいるかよ!」

大輝はまだ怒ってる。

「ちょっと見せてみ。消毒してやるよ」

龍聖が救急箱を持ってきてくれた。

「とにかく、心配かけんなよ」

と、ささやいた。

龍聖はいつも冷静だ。

「マジで、ゴメン。練習サボって悪かったよ」


言い訳をさせてもらえるなら、そんなつもりじゃなかった……

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