第6話 アズーロ町 フリントキャットファミリーと謎の少女

アーテル国の『海の街』といわれる場所は、ヴィオラ町とアーテル村が管理している。

アーテル国の港がある場所がヴィオラ町にある。

そこはルージュ市との境目にあり船が停泊している。

海に浮かぶ二つの島もその二つの町村で管理している。

しかしこの度その『海の街』に動きがあった。

アーテル村、ヴィオラ町、ルージュ市の三つの市町村の村長、町長、市長が集まり会議を開いた。

内容はこれからの街づくりに関してだ。

元々、新たな街が作られる計画はたっている。それを今回、新たに進める。

ルージュ市の一部が空港のある所の人口が増え空港で働く人も増えた事により、学校と新しい街を作る計画を本格的に始動させた事により、新たに海の方の管理もする事となった。

空がテーマの街造りと、今まで二つの島を管理していた二つの村町から『海の街』といわれていた場所は、新たに出来上がる街の隣に作られることになった。

アーテル村は管理から外れ、町はそのまま管理していく。

アーテル村から市の方に管理が変わり『海の街』は名称が変わる事となった。

ルージュ市とヴィオラ町の境目にあった『海の街』は規模を少し広げ『アズーロ町』と変わった。

小さな港町という街並みは変わらないが、町の広さはルージュ市の方まで少しだけ広がった。

管理しているのは街並みだけではない。元々ある二つの島も今は無人島だがアズール町となった。

そこで会議は終了、三人は各々の住んでいる場所へ帰った。

その知らせを、管理から外れたアーテル村の村長から聞いた少女は、村を離れ一人ひっそりと、どこかへ向かった。

無人島は二つあるうち大きい方が「くじら島」小さい方が「ペンギン島」となっている。

その大きい島「くじら島」なら町から近い。

村から移動してきてようやくたどり着いた港は、船が沢山停泊している。

少女は恐怖を感じたが、今はそれどころではない、彼女にとって一大事なのだ。

停泊している船を横目に小さいボート乗り場へ向かった。

二人乗りのボートがあるはずと思い向かうと、あるものの…今の時間は営業時間外という事もあってボートは使えない状態になっていた。

そこへ見覚えのある顔を見つけた。

少女は怒られる!と思ったがその顔は酒に酔っていて気分が良かったらしく、彼女を怒らず話を聞いてくれた。

少女は小さな声で「…平おじさん」とつぶやいた。

彼女はその男と一緒に「くじら島」へ向かった。

くじら島は真っ暗でなにも見えないが、男は慣れた手つきでボートを岸へ付け少女をボートから降ろすと、少女を置いてボートを再び動かした。

それから少女の過酷なサバイバル生活…というよりキャンプ生活が始まった。

無人島がとある男に買われるまで…。




海外から大きなクルーズボートに乗ってこの国へ来た男は港に船をつけ町に降り立った。

聞いていた港はもう少し規模が小さいものだと思っていたが予想外に広かった。

男がこの場所に来た理由はただ一つ。

男の姉が離婚したという知らせから事は動いた。

「娘はあなたが育てて」というセリフを聞いた時、男は「また何か言い出した」と思った。

三人姉弟の真ん中として育った男は、わがままで自分勝手な姉と自由奔放な弟に挟まれて生きてきた。

姉の尻拭いなんてしょっちゅうだ。

さらにそこへ弟の尻拭いが重なる事もある。

そんな家族の中で育った彼の名は、一人だけ何を思ってか宝石の名前をそのまま付けられカルセドニーという。

彼の人生は宝石のような人生とは真逆のような人生だったが、今もこの土地に来ている以上、踏んだり蹴ったりな人生を歩んでいる最中だろう。

そう母親に置いてかれた彼女を見れば分かる。

港には姉の子供が迎えに来ていた。

会えばその顔はすぐに分かる。

姉と同じ模様の顔…。

男は「フリントキャット」という種類の猫の獣人で、オスはだいたい石炭のような毛色をしている。

顔も体の毛も同じ毛色である。

一方、メス猫は白い毛がほとんどで顔と耳の部分の毛に石炭のような色の模様が丸に近い感じで入る。

模様は左右のどちらか片方に一ヵ所入る事があり「ブチネコ」のような顔をしている。

アーテル国ではまず見かけない種族だ。

そんな毛の色を見れば姪っ子である事は100%である。

姉はこの国で夫と娘と三人暮らしで、ほぼ実家に顔を出さずに生きてきたが離婚をすると電話をかけてきた。

その時「娘はあなたが育てて、名前は“コーデリア”という名前よ」と言っていた。

その名前を思い出し、こちらを怪訝な顔で見つめる彼女に近付き「コーデリアかな?」と声をかけた。

「…そのバカで間抜けそうな顔は、カルセドニーね」

「…すまないね、こんな顔で」

「全くだわ!なぜママは、セバスチャンの方に頼まなかったのかしら?」

「…君のセリフ、君のママにそっくりだね」(全くといいたいのは、こっちの方だ!)という思いは海に投げ捨てる事にして、カルセドニーは言った。

「なによ!宝石と同じ名前の癖に、全く宝石のように輝けもしない人生送っているくせに!」

(君のママに宝石と同じが良いと言われて、名付けられたからね)という思いも波にさらってもらう事にした。

相手は子供で、さらに姉の子となると、予想はしていたがカルセドニーは、“やっぱりか…”と思いながらも、相手が相手だからと言い聞かせて会話した。

一旦は自分の家へ連れて帰り、後日改めて彼女を正式に養子にする事にした。




それからカルセドニーは、再びアーテル国へ向けてクルーザーに乗って移動している。

その理由は移住を考えているからだ。

姪っ子がいた場所に無人島があるという情報を手に入れたカルセドニーは、調べてみると二つの島が無人島であると知った。

一つは大きな島でそこは元々、何かの施設の一部だったという事で昔から無人島だった訳ではないらしい。

それならと許可を得れば自分が島に住めるかもしれないと、またこの国へ来たのだ。

カルセドニーはいつか無人島で生活するのを夢見ていた。

家族…といっても両親と弟だが、その三人と離れたいと思っていた。

今現在、弟は自分より早く結婚し双子の娘がいる。

自分も結婚し妻と三つ子との五人家族だが、妻もどこか弟家族とは合わないらしくこの生活に賛成してくれている。

コーデリアは家に連れてきて以来、無口になった。

あれだけ姉に似ている娘だったのに、急に無口になってしまい少々心配している。

そんな所に無人島へ移住、しかも元居た国と聞き「仕方なく賛成するわ」と口をとがらせていた。

それは嬉しいけど…という時にする姉の表情と一緒だったのでなんとなく喜んでいるのでは?とカルセドニーは思った。

そこからカルセドニーだけアーテル国へ行く事が決まり、現在彼はアーテル国の地に降り立った。




市街地らしい場所へ行くととても華やいだ街並みが広がっていた。

ここが【ルージュ市】またの名を【ルージュシティ】であると確認した。

アズーロ町と書いてある看板はやけに新しく、隣の町は町自体はあるものの町の名前は書いていなかった。

その辺の人に聞くと町は新しい名前がついて色々と変わった。隣は現在、また新たな街が開発される途中と教えてくれた。

再開発してるんだとも付け加えてくれた。

ここは今、外国から来た人が外国語で話かけても共通語で返ってくる。

もちろん全ての人がそういう訳ではないが、カルセドニーが話しかけた人は運よく言葉が分かる人だったらしい。

それならと、さらにその人に分からない事を聞くと親切に教えてくれた。

おかげで目的地までちゃんと到達できた。

施設に入り案内板を確認し、カルセドニーは目的地へ向かった。




島の事について色々と話を聞き、移住するにはとの質問や、その他必要な事は全て聞き施設を出てきた。

この国に移住をし、住民になって何年か経てば島の所有者になっても構わないとの事だったが、元々施設の所有物だった為、ここではなくアーテル村でも村長に会って話をしてくれと言われた。

その施設はアーテル村という所に住む者が、だいぶ昔に建てた施設だったらしい。

今その施設で働いていた者はいないが、村長が今までその施設の跡地を管理していたらしい。

それでアーテル村の村長と話をしてくれとの事だったが、まずは市内の移住者、移住予定者の専用施設へ行き、寝泊まりする為の契約をする事にした。

その後、市内を観光したり出来れば仕事も見つけたいと思っていた。

いっぺんに片付ける訳ではないが、こっちには一週間くらい滞在予定である。

その間に出来る事はしておきたかった。

カルセドニーはまず施設を利用する為の書類に必要事項を記入し、職員に案内され独身者男性用フロアを案内された。

「一室があなたの専用の部屋です」と説明を受け「ここです」と部屋の前で職員が止まった。

カルセドニーは職員から鍵を受け取り、ドアを開け中に入って行った。

ビジネスホテルのような造りの部屋に荷物を置き、貴重品だけ持って部屋を出た。

鍵を閉め辺りを見渡し、出入り口方面へ向かった。

この建物は結構大きな建物で、独身者の男性フロアと独身者の女性フロアがあり、その二つのフロアはA棟B棟と別れている。

ファミリーフロアは敷地内に別の建物があり、そこで夫婦二人から子連れが入る事になっているらしい。

祖父母連れでも利用できるが、それはまた別の場所に建てられている施設に行かなければならないらしい。

この国に移住しようとする希望者は、大体が独身者か子連れで利用する人が多い為、そのような建て方になっているだけである。

カルセドニーは、一旦はこのファミリー向けにしようかと思ったが姪っ子(といっても養子にする手続きはした)が良いと言わないだろう。

となると家も探さなくてはならない。

島に住めれば一番良いのだが…。

まぁとにかく今は仕事だ。

カルセドニーは職業安定所を目指した。




「全く、ひどい話だ、宝石商かデパートの宝石売り場はどうですか?なんて。」

カルセドニーは思わず独り言をつぶやいた。

今現在、彼は公園にいる。

周りはほとんど人がいないので、彼の独り言を聞いた者はいないだろう。

デパートで働く事は別に悪くない、しかし宝石売り場とはいかに…。

宝石というか、パワーストーンの方の名前に近いが、カルセドニーと書いた紙を見て、宝石やパワーストーンの店の従業員を沢山紹介されたのだ。

ただでさえ、この名前でひそひそされる事が多かったというのに。

まぁ悪い事だらけではなく、妻とも出会えたのはこの名前のおかげだった。

妻も宝石やパワーストーンの名前だった。

だから縁があるといえばあるのだが。

実子の名前も宝石から取ってしまったし…。

確かにそうなんだが…。

思い出したくはないが、そういう時に限って色々と思い出してしまう。

姉の事、子供だった頃の事、そして今の事。

「…姉と同じ血が流れてるんだよなー?俺は。」

本当に流れているのだろうか?

もしかしたら自分だけ違うのでは?

いやそれは、昔からよく考えていた事だ。

考えれば考えるほど嫌になるくらい、家族と血が繋がってると思い知らされた。

「はぁ、腹をくくるか」

カルセドニーはデパートで宝石店の店員になる事を決めた。

“他の仕事だって山ほどあったのになぁ。”

『それは、別の方が合ってるかと…』

職員のそのセリフは何度も聞いた。

聞いた結果が宝石店だ。

カルセドニーはベンチに座りながらその場でうなだれた。




翌日

職場となるかも知れない店へ行くとやはり名前の事を言われた。

それでも「人手不足だから来てくれるならありがたい」と言われ、カルセドニーは「分かりました」と答えた。

家も探さなければならないが、まずは店などはどのような店があるのか、住居地区はどんな感じなのか見て回ることにした。

子供を抱え、姪っ子を抱えて暮らしていくべき所はあるのか。

カルセドニーは隅々まで見て回った。

次の日になっても仕事はまだ行かなくて良かった。

移住先がみつからなければここで働くのは困難である。

だからこそ移住したら働きたいという意思を伝え、店側もそれで構わないという事だった。

本当なら今すぐ働いてもらっても構わないが「それならしょうがないですね」との事で、少々眉間に皺を寄せているのが気になったが、カルセドニーは頭を下げて面接を終わらせたのだ。




住みたいと思える場所は見当たらなかった。

わがままを言わなければいくらでもあるのだが、最低限の希望は叶えたかった。そうなるとすごく難しいのだ。

自分や妻は希望が一致しているのだが厄介なのが一人いる。

「あれが良い、これが良い、それじゃなきゃ嫌」とカルセドニーに対してだけ、わがままを言ってくるのだ。

全ては無理だと言っても聞き入れてはもらえずふてくされ、ひどい時には物を壊そうとしてくる。

大事な物を一番に狙うから質が悪い。

自分の思い通りに出来ないと分かると、物を壊そうとする行為は姉と同じ手口で昔からカルセドニーの頭を悩ませている。

仕方なくカルセドニーはトラムやバスを乗り継いでアーテル村まで行く事にした。

まずは島がどうなのか知りたい。

今まで管理していた村長の話を聞いて、また新たに計画を練る事にした。




アーテル村の村長はカルセドニーと会うと島の話をしてくれた。

全てはルージュ市で聞いた事と同じだった。

ただし、こちらは少しだけ違った対応をしてくれた。

その対応とは市の方で出された契約内容より優しくなっていた。

今すぐ買うのも家を建てるのも構わない。

ただし一つだけ条件がある。

それはあなた次第で解決できる。

島にいる妖精の女の子に気に入られれば、条件を緩める事は出来ると言われた。

カルセドニーは頭が真っ白になってしまった。

何事かと思い悩んだが、メルヘンな世界に生きている人なのかと思う事で納得することにした。

「今すぐ妖精に会いに行きますか?」と言われて思わず「はい」と答えてしまった。




隣町に移動して村長の船でくじら島へ行くと、そこは何も無かった。

ただしキャンプ道具を広げキャンプを楽しむ少女ならそこにいた。

「村長さん、なぜここが分かったんですか?」

「お客さんがきて、この島を買って住みたいんだとおっしゃって…」

「この島は…」

「あぁ、妖精ちゃん、分かってる。君の物だね…という事なんですよ」

という会話をしてから村長はカルセドニーの方を見た。

やはり二人の会話にはついていけないとカルセドニーは思った。

「だれですか?」と、妖精ちゃんと呼ばれた白い毛の短毛種の猫の少女が尋ねた。

「外国からきたお客さんだよ」

「…くろねこさんです」

正式にはチャコールに近い毛色なんだが…まぁ黒猫であながち間違いではない。

「私はしろねこさんみたいな毛のネコさんです、はじめまして」

「あー」

カルセドニーが困っていると助け舟が口を開いた。

「妖精ちゃん、外国の方にはこちらの言葉は、分からない場合もあるから、えっと…」

「共通語はむずかしいです。国語もむずかしいです」

「はいはい」

村長は妖精ちゃんと、めんどくさそうに会話しながら、カルセドニーに共通語で説明してくれた。

「その、あなたの後ろにいる少女が、いわゆる妖精ちゃんなんですね。で、この島は彼女の物と…」

「えぇ」

「それで、妖精ちゃんに気に入られる必要があると…」

「そうなんです、市や町の方にも伝えてません。内緒ですよ」

「…はあ。」

「まぁ、この島は元々、アーテル村の土地ですから、私が最終的に決める立場にあります。市や町は港を管轄として管理しているのですよ」

「あぁ、なるほど」

「だからこちらへ来てくれと、言われたのだと思います。」

「そうか、そうなんですね」

「はい」

「妖精ちゃん…と仲良くなるのって、やはり難しいですよね?」

「どうでしょう?私も対応に困る事があって…常にその」

「どうかされました?」

「あっ、いや、あの、そうですね、扱いが難しいので、ほったらかしにしてる所がありまして…」

「そういえば、彼女のご家族は?見た感じ、まだ幼いような…」

「いません。まぁその辺は、ちょっと、あまり話せる内容ではないので、あの、私どもが面倒を見てきました。」

「そうですか」

「はい、申し訳ありません」

「いえ、事情は人それぞれですから」

「…。」

村長はそれ以来、何も言わずただ突っ立っていた。

妖精ちゃんはいつの間にかどこかへ消えていた。

カルセドニーはだいぶ困ってしまったが、とりあえず彼女を探すことにした。




少女は釣りをしていた。

島の端で少々危なっかしい場所に見えたが、慣れた手つきで釣りを楽しんでいる。

ピンクと白のギンガムチェックのフード付きジャンパーにオレンジのズボンを履いている少女は鼻歌交じりに釣りを楽しんでいる。

言葉を交わすのは難しいが、一人で両親もいない状態でこの島でキャンプしている彼女はどこか寂し気に見えた。

「なんだか、コーデリアみたいだな」

両親は離婚、母は行方不明、一人この国に取り残されたコーデリア。

最初、彼女を見つけた時の事を思い出すと、姉と同じような言葉使いで腹が立つような事を言われたが、それは寂しさの裏返しなんだと気付いた。

カルセドニーのクルーザーボートの中で一人泣いている彼女を思い出す…。

カルセドニーはその時、あえて声をかけなかった。

その方が良いと思ったからだ。

「妖精ちゃん…ねえ。確かに白い毛は透き通るような白さだな。まるで絹の被り物をしているようだ」




島から帰ってくるとカルセドニーはその日、ルージュ市に戻って家族と電話で話をした。

まだ数日あるが早くそちらへ帰りたいと伝えた。

島は時間かかりそうだとも伝え電話を切った。

彼女をどうにか説得できるのだろうか?

難題に挑戦しようとしているように思えた。

コーデリアの時は姉の子としてそれなりに扱い方が分かったからまだ良かったが、他人のしかも言葉が通じない相手の心をどう掴めば良いのか、カルセドニーには分からない。

まだ、コーデリアか妻がいれば話は変わってくるのかも知れないが…。




久しぶりに帰ってくると一週間だけしかたってないのに妙に懐かしく思える。

カルセドニーは妻と再会の挨拶を簡単に済ませ本題に入る事にした。

カルセドニーの妻、エレスチャルは「その、簡易宿泊施設?でも良いんじゃないの?私はこの家を離れられるならどこでも良いわ。いちいちあなたの家族に色々言われなくて済むから」と言ったが、カルセドニーが「コーデリアが…」というと本人が登場した。

「おじさん、アーテル国へ行ってたんでしょ?」

「そうだが、なにか?」

「別にー!お土産の一つくらいあっても困らないのになーって思っただけ」

「あぁ、すまない。今回は旅行が目当てじゃないから、そういうのは、かっ」

「これだからカルセドニーはダメなのよねー、セバスチャンなら、ちゃんと…」

そこで言葉が途切れた。

エレスチャルの視線に気が付いたようだ。

「あなたも、良いのよ?わざわざ家で過ごさなくても、セバスチャンに頼んであげるわ」

「分かったよ、ママがそうしろって言ったんだから、ここに居るよ」

頬を膨らませて眉間に皺を寄せた顔でコーデリアはその場を離れた。

「…ずいぶん、あなたのお姉さんの血が濃くて、大変ね」

「エレスチャル、すまない」

「それで、あの子がどうだって?」

「その、嫌なんじゃないかと…」

「じゃあ、養子縁組を辞めて、セバスチャンに託す?」

「あいつがコーデリアの面倒見てくれるとでも?」

「無理な話ね。で、それで?」

「…連れていくしかないか。はぁー。」




その日の夜、クジラ島で一人、少女は星空を見上げていた。

「くろねこさんはいいました。

ぼくはほしぞらとともにある。

しろねこさんはそんなくろねこさんをみつめ、ほしぞらをみつめました。

そして、くろねこさんにいいました。

このからだでは、ほしぞらのしたでは、とてもめだってってしまうわ。

くろねこさんはいいました。

だったらきみはぼくののおほしさまになってくれと。

しろねこさんは、おどろきましたが、くろねこさんといっしょににいることにきめました。

それがふたりのしあわせだったからです。

ふたりはそれから、ずっといっしょにいることにしました。

いまはとてもしあわせです。」

少女は幼い日を思い出していた。

母が読んでくれた絵本の内容を思い出し、声に出して言ってみたが、絵本の内容は色あせずに彼女の思い出と共にある。

「今日は“くろねこさんとしろねこさん”のような事が起きました。今日、島に来たおじさんは、なんというネコでしょうか。また学校へ通わないと、共通語が分かりません。でも、また怖い思いをするかもしれませんね、それはイヤです。」




カルセドニーは一週間の旅の疲れも癒せないまま、コーデリアと向き合っていた。

「そんなわけで、アーテル国で再び生活するには、一旦、簡易宿泊施設みたいな所で生活しなきゃならないんだ。」

「ルージュ市にある、外人向けアパートメントでしょ?詳しくは知らないけど、ママは昔そこに居たって言ってたから、話には聞いてる。」

「それで、コーデリアはどうしたい?」

「…ヴィオラ町での生活じゃなくなるなら、別にどこでも良いわ、それにあそこは市街地でしょ?家はあまり良くないみたいだけど、島に移住するまでの間でしょ?

島に移住したら、住所とか学校とかどうなるの?」

「ルージュ市の住所になる、学校も市の小学校だよ、その、簡易施設でも同じ学校だよ。」

「じゃあ、行くわ。都会に住めるなんて、夢みたいだもの」

「そうか、わかった。じゃあ、もう少し話を進めてみるよ」

「島に移住したら、プライベートビーチとか、あるのかしら?」

「あーどうだろうなぁ、まだじっくり見てないから分からないけど、釣りは出来るみたいだな」

「釣り?見てきたんじゃないの?全く、役立たず!」

「ごめんよ、その、色々あってね」

「もういい!カルセドニーとは話も出来ないわ」

「ごめんよ、コーデリア」

“あぁ、また機嫌が悪くなったんだな”とカルセドニーは思った。

“気分屋だからしょうがない”と自分に言い聞かせてコーデリアの元を去る事にした。




寝室に行き部屋に入ると妻はもうベットで横たわっていた。

隣の自分の場所に腰掛け、妻にコーデリアと話をしてきたことを伝えた。

カルセドニーのすることは、後は島を買うためにあの少女の心を掴まなくてはならない。

しかし、今のカルセドニーはそんなことを知らないが、少女の頭の中にはなにか思惑があるようだ。




再びカルセドニーは暇を作ってアーテル国へ来ていた。

村長と話をしたいとアーテル村へ行き村長の家を探すことにした。

ふと誰かがカルセドニーの服を引っ張った。

「もしかして、えーっと…」

振り向くと白い毛の顔をもつ猫が立っていた。

カルセドニーもその顔を見た事がある気がした。

そこへまた別の獣人が現れた。

「ホワイトキャットちゃん、どうした?」

ホワイトキャットと呼ばれた子は、その新たに現れた獣人の事を知っているようで、「コアラさん、助けて下さい」と言った。

その言葉に「コアラさん」と呼ばれた男はカルセドニーの方を見た。

「…失礼ですが、どちら様で?」

「あぁ、私、村長に用があってここを訪れたんですが…」

「あぁ、旅人さんでしたか、えー、後ろの少女と面識は?」

「どこかで会った気はしますが、なんせ、こちらに来たのは、前回が初めてで、ほとんどこちらの国に対しては知らなくて…だからその、定かではないのですが」

「そうでしたか、彼女は村長と私が、一緒に面倒を見ている子で、名無しちゃんなんです。親がその、居なくて…。」

「そうですか、実は、この間も、彼女に似ている子で、親がいない子で「妖精ちゃん」と呼ばれている子に会いました。真っ白な毛並みの顔をした子で…今、ここにいる彼女のようなお顔です。」

「…もしかして島で見つけた…とかは?」

「はい、ご存じなんですか?」

「だったら、島で会ったという子と、同一人物です。」

そこでカルセドニーはもう一度彼女の顔を見た。

透き通るような白い顔にピンクのギンガムチェックの服オレンジのズボン。

たしかにこの間見た子と特徴が一致している。

「妖精ちゃんだったのか」

「えぇ、たぶん」

「えっと、それで、あの村長を探して…」

「あぁ、私が案内します、私、申し遅れました、ウィリアム・ウィルソンと申します。村長とは古い友人で、良く見知っていますよ」

「そうでしたか」

「えぇ…ホワイトキャットちゃんも一緒においで、村長さん宅に行くよ」

「はい、そうします」

三人で村長宅へ行き、カルセドニーは彼女との不思議な縁を感じていた。




村長宅につき、三人は村長がいる所まで案内された。

村長室と書かれた部屋に入ると、この間話をしていた村長が机に向かい作業していた。

話かけられると、こちらに気付き一礼した。

応接室も兼ねているのかソファーとテーブルも置かれていた。

カルセドニーはソファーに座らされ横にちょこんと白猫の獣人の少女が座った。

村長とウィリアムと名乗った男性は向かい側のソファーに座り、何やら話をしている。

村長は改めてカルセドニーの横に座っている少女の説明をしてくれた。

その説明の内容は、彼女は「キヌネコ」という種族でそのまま「絹」のような毛の色だから「キヌネコ」らしい。

白猫とは少し毛色が違うのだが、ほとんど見分けつかないと説明してくれた。

口元にふんわりと少し色味の違う白の毛が覆っているがキスでもするような距離でないと良く見えないとの事だった。

カルセドニーも珍しい種族かと聞かれた為、自分も黒猫と間違えられるがチャコールに近い色味だと説明した。

ウィリアムと名乗った男性は優しく少女に語りかけている。

「くろねこさんではないのですね」という言葉が耳に入ってきたが、カルセドニーには意味が伝わらなかった。

その後カルセドニーの今後について話す事となった。

カルセドニーは今現在、家族と話し合い、移住を考え、島が買えるようになるまでルージュ市の移住者施設で暮らすと説明した。

そこで「島」という単語を聞いた村長とウィリアムはお互いの目を見つめ合ってしまった。

口を開いたのは村長だった。

「そういう事だ、ウィリアム」

「彼女の存在か…それにしても、なぜ彼女はここへ?島の話をした夜、行方不明だったのでは?」

「彼と一緒に島へ行ったら、偶然見かけたんだ、それで、その後、彼が帰っていった翌日にもう一度、俺だけ島へ行って彼女に会ったら、怖いが学校へもう一度通うと言い出して、それで連れてきたんだ。それで、どうやって島へ行ったのかと聞いたら、「酔っぱらった翔平おじさんが、ボートを動かしてくれたと言ってたんだ、翔平には、一応注意はしといたけど、あれはもう再起不能だからな、まともじゃないから、無理だろう」

「翔平か、まぁ酒に酔うとあいつはダメだからな」

なぜか二人は共通語で話していた。

一人は名前から外国から来たのが分かるが、村長は自己紹介でアーテル国で使われる名前を名乗っていた。

という事は村長は生まれも育ちもアーテル国の者だろう。

それでも流暢に共通語を喋る彼は、村長という立場上のものから来るのが自然とカルセドニーは考えた。

古い友人と言っていた事から、共通語で話をしているうちに二人で話す時の癖なのかも知れないなとも思い、両方の言葉を喋れるというのは非常に便利そうだという感想を抱き始めた。

そのうち、カルセドニーや妻もアーテル語を理解しなくてはならない。

そう思うと新たに言葉を覚えるのは大変だな…と思うようになった。

しかし難題はすぐ近くに存在している事を、カルセドニーは思い出した。

自分の隣で、出された菓子を楽しそうに食べている少女を見つめた。

言葉よりもこちらの方が攻略が難しそうだ。

そうだった、彼女を攻略しないと念願だった島が買えないのだ。

カルセドニーはため息をついた。

「それで、ホワイトキャットちゃん、どうだろう。共通語を学びたいなら、うちに来ないか?それなら学校より安全だと思うけど」

「コアラさんチですか?」

「そうだよ。」

「しーちゃんはまだいる?」

「しーちゃんは、今はあまり来ないよ」

「そうですか、翔平おじさんもしーちゃんも、ちょっと怖いです」

「んーまぁ、そうだね。ちょっとお口がね、達者だからね」

「しーちゃんは、うささんなのに優しくないですから。しーちゃんがいないなら、行きます」

そこへ村長が会話に加わった。

「妖精ちゃん、島は君の隣にいるお兄さんが欲しいんだ、譲ってくれないか?」

「あの島は私のものです。」

「そこをなんとか…」

「じょーけんがあります。」

「ん?」

「お母さんに読んでもらった絵本の中では、【くろねことしろねこ】という絵本が大好きです。十一歳になってしまった今でも、大好きなお話です。そこでは、『くろねこさん』と『しろねこさん』は一緒に住んで、幸せに暮らすんです。『ほしぞらのおうこく』という場所で暮らすんです、『くろねこさん』は“王子様”だったのです。」そこで、少女はカルセドニーを見た。

「おじさんは王子様とかですか?」

その質問にはウィリアムが答えてくれた。

「王子様ではないと思うよ」

「じゃあ、ダメです」

男性三人は黙ってしまった。

カルセドニーは通訳をお願いしたが、村長が通訳してくれた内容を聞いて聞かなきゃ良かったと思った。

「なんか、申し訳ない、たびたび…」

「いえ、お気になさらず」

その時少女はカルセドニーの服をつまみ少しだけ引っ張った。

「おじさんは、なんていうお名前ですか?」

「あぁ、あなたの名前を聞いていますよ」と村長。

「私の名ですか、お恥ずかしいのですが、カルセドニーです」

「…ん?珍しいお名前ですね」とウィリアム。

「なんですか?アーテル語で教えて下さい」と少女。

「カルセドニー、確か宝石か、パワーストーンの名前か色の名称だったはず」とウィリアムがカルセドニーに聞くと「えぇ、全くその通りです、自由奔放でわがまま言い放題の姉が「宝石のような名前が良い」と言ったのを、両親はそのまま姉に任せたようで彼女が「カルセドニー」という名前を付けてくれました」と答えた。

「そうでしたか」と、ウィリアム。

そのままウィリアムは少女に「カルセドニーという名前らしい、カルセドニーさんと呼んであげて」と言った。

「かるせどにーさん、で、いいですか」

「うん、大丈夫」

少女は改めてカルセドニーの方を向くと「かるせどにーさん」と呼んだ。

「はい?」

「かるせどにーさんは、なぜ島が欲しいのですか?」

村長が訳してくれる言葉を聞いてカルセドニーは少々悩んだ末、「昔から無人島に住むのが夢だったんだ、冒険島に憧れてね」と答えた。

直ぐに村長が訳してくれた。

「ぼうけん島…魅力的な言葉です。あの島はぼうけん島なのですか?」

村長の言葉を聞いてこれは…と思った。

「そう、私にはあの島は冒険島に見えたんだ!君はすごいね、あの島で生きれるなんて!羨ましいよ」

村長はカルセドニーの言葉を訳し、少女に伝え、ウィリアムもノリノリで話し始めた。

ウィリアムが「男のロマンだ」と言うと「分かってくれますか?」とカルセドニー。

村長も加わり少女を取り残したまま、男三人は男のロマンである「冒険島、当てもない旅、宝箱!」と話し始め「秘密基地、海外ではツリーハウスという物がある」と話し「それだ!ツリーハウス!建てられるなら、どんだけ嬉しいか!」と盛り上がった。

「おじさん達だけでずるいです、何を話してるんですか?」との少女の言葉で男達は夢の世界から現実世界へ引きずり込まれた。

「あぁ、すまない」と村長。

「とにかく、ホワイトキャットちゃんの島、どうしますか」

「現実、難しいのでしょか?」とカルセドニーが聞くと村長は「移住して何年か経てば、そこまでではないのですが、やはり彼女が「うん」と言わないと…」と言った。

カルセドニーは「島の管理者だった人はもう居ないと聞いていますが、彼女はなぜ、島にこだわるのでしょうか?」

「それは、我々にも話をしてくれなくて…とにかく喋らない事だらけで、保護したものの、まだちゃんと、分かってない部分が多くて困っている所で…」

ウィリアムは「彼女はシークレットキャットとも呼ばれています、なにせ口癖が「ヒミツはヒミツです」で、喋ってくれないんですよ、無理に喋らせるのもね、良くないし」

「なるほど、大変なのですね」

「はい」

ウィリアムは一瞬、過去の出来事を思い出したが今は関係ないと目をつぶった。

「とにかく、今は彼女ですね」と言い、ウィリアムは記憶を奥の方にしまった。

「妖精ちゃん、君はこれからどううするんだ?決められるか?」

「はい、共通語のお勉強をします。それから…」とそこで言葉を区切り、カルセドニーを見つめた。

「くろねこのおうじさまという方を待ちます。絵本の【くろねことしろねこ】のように。でも、かるせどにーさんは、私にとって「くろねこさん」に見えました。だから、王子様じゃなかったのが、とても残念です。」

「王子様ではなくても、名前が宝石のような人だよ。カッコイイと思わないか?」とウィリアムが聞くと「コアラさん、それ本当ですか?」

と少女は聞き目を輝かせた。

「かるせどにーって宝石のような、名前なのですか?カッコイイです。王子様みたいです。」

「じゃあ、君にとっての『ほしぞらのくに』はどこだろう?」

「もちろんくじら島です!」

「くじら島にカルセドニーさんは住みたいらしい、君はどうする?」

「くじら島は私の島です、でも、ちょっとだけなら貸してあげます」

「いいのかい?」

「はい、かるせどにーさんは特別なお方みたいだから、特別に扱わなければなりません」

「じゃあ、良いんだね。わかった、ありがとう」

ウィリアムはそのままカルセドニーに通訳し、状況を説明した。

随分あっさりと決まった事に拍子抜けしたが、カルセドニーは無事に島を買う条件がそろった。

これで家族を呼べる。

まずはルージュ市の方へ行き、移住者として登録したり手続きを取らなくてはいけない。

村長とウィリアムに礼を良い、村長宅を出た。

ウィリアムがルージュ市まで行くなら案内すると言い出してくれて、二人は村長宅を出た。

少女はそのまま残ったが少し寂しそうな顔でカルセドニーに手を振った。




話はまとまり、カルセドニーは心が軽かった。

なぜ少女はあの土地にこだわるのかは分からなかったが、本人にしか分からない事情は誰の力を借りても分からない。

いつか事情を話してくれたら良いと思っていた。

カルセドニーは島が自分の元になるという事にしか頭が回らず、見落とした部分があったが彼がその事に気付くのはまだ先の話らしい。




仮住まいでこちらの生活に安定を持たせ、カルセドニーはようやく夢であった念願の島を手に入れた。

以外に早い段階で手に入る事となったが、そんな事はどうでも良かった。

島を買い家を建て、家族で移住することが決まり全員喜んでいた。

まだ住むには時間がかかるが、とりあえず目標は少しづつ片付き始めている。

あと一歩だ。

あと一歩で夢の“島暮らし”である。

冒険島ではないが理想に近い島である事は確かだ。

元々、何かの施設が立っていたという事もあり、住むには問題ないという。

確かに前回行ったときは更地ではあったが、建物を建てられないほど荒地ではない。

キャンプして生活している少女がいたくらいだ。

仮住まいで暮らしていると頻繁に客が来ていた。

元々脱走癖がある子だった為、彼女を知る人物は誰も驚かなかったったがカルセドニーの妻と姪っ子は正直驚いていた。

その客人とはまぎれもなく「妖精ホワイトキャットちゃん」である。

名前は「妖精ちゃん」と「ホワイトキャット」の両方をくっつけた。

初めは説明がすごく難しかったが、本人も意味不明な事ばかり言う為、そういう子なんだとほっとかれるようになった。

妻のエレスチャルは「またカルセドニーの病気が始まったのね『かわいそうなものを拾ってきちゃう癖』がね」とコーデリアの前で大きな声で言っていた。

もちろん口論となったが…。

コーデリアはこの客人が気に入ったらしく、来るたびに暖かく歓迎している。

子供達は新しいお姉ちゃんが来たと言い、それなりに仲良く遊んでくれている。

コーデリアにはあまり懐かなかったのが心配だったが、こうして客人が来る度びに子供たちが喜んでくれるならそれで良いと思っていた。

エレスチャルは特に何も言わなかった。

歓迎とも心配とも村に帰らせた方が良いとも、何も言わなかった。

来る頻度もまだ常識の範囲内だったからだろう。

エレスチャルは勝手にすれば?という態度だった。

自分の子にはちゃんとした教育の範囲で叱ったり誉めたりとちゃんと親としての役割はこなしてくれていた為、カルセドニーは誰に対しても口出しはしなかった。




ようやく準備が整いカルセドニーの家族は島に移住した。

やっとの思いで手に入れた島はクジラ島だけで、カルセドニーの島となった。

ある程度、管理もする事となったが、それは別に構わない。

元々こちらに来て、仮住まいの施設の住所で学校に通っていたコーデリアはちゃんとした住所になった事を喜んでいた。

今まではどこか“よそ者感”を感じていたらしい。

やっとちゃんとした家で、ちゃんとした生活に戻れた。だいぶ嬉しそうだった。

エレスチャルもそれはコーデリアと同じ気持ちらしい、ただし一つの問題を除いて…。

「彼女は、遊びに来ていただけじゃ、物足りないのかしら?」

「元々は、彼女が先にこの島にいたんだ。話し合いの結果、この島を俺に渡してくれると…」

「言ってたはずだけど、話が違うって?子供相手に何をしてたの?」

「…事情は話しただろう、彼女の親はいない、脱走が大好き、そしてこの島が好き。」

「彼女の両親はどうしていなくなってしまったの?」

「だから、全くもって話しをしてくれないと」

「もう、なんでなんだか。」

「とりあえず、根気よく彼女を説得してみるよ」

「本当に、何なのかしら?あの子…」

カルセドニーだって分かれば苦労はしない。

島に来てみれば先客がいた。

キャンプ道具を広げてキャンプをしている女の子。

まぎれもなく「妖精ホワイトキャットちゃん」だ。

彼女はカルセドニーが島を買い家を建て引っ越してきても、キャンプしながらの生活は続けている。

彼女は「半分だけ…貸してあげるつもりでしたが、予想外に陣地を取られてしまいました。かるせどにーさんも、家族がいました。だけど、良い人達だったので、このまま住まわせてあげます。」と言っていた。

さらに「私はキャンプ出来れば良いです、アーテル村には戻りません。でも、言葉がまだ、分かりません。コーデリアちゃんはどちらの言葉でも喋れたので、良かったのですが…」と言っていた。

コーデリアも「彼女だってここに居させれば?なんなら、私と一緒に学校通ったりしても良いじゃない?」と言っていた。

カルセドニーが島に移り住むことになったと伝えた為、初日はアーテル村の村長とウィリアムにも来てもらった。

その時に通訳も兼ねて来てくれたのだが、カルセドニーは村長の言葉を聞いて、あぜんとするするしかなかった。

折角のカルセドニーの夢はこぶ付きで始まったのだった。

「はぁ、会話がスムーズにいくようにしないとなぁ」

カルセドニーは一人、海を見つめてため息をついた。




しばらくの間、会話は難しかったが意外にもコーデリアがちゃんと間に立って喋ってくれた。

学校も通いたいと言われた為、今まで面倒を見ていたアーテル村の村長に相談し、ルージュ市の学校へ通わせてもらえるようになった。

島の住所はアズーロ町になるが学校はルージュ市の学校と同じである。

少女の学校側の扱いはカルセドニーの所にいる養子扱いになってしまった。

コーデリアは一人も二人も同じでしょ?と言っていたが、養子にして育てるのはとても大変だった。

金銭面の事もある、色々な手続きだって必要である。

表向きはカルセドニーが保護者になっているが、今の時点で養子が増えるのは勘弁してほしかった。

それ以外にも名前はどうしているんだろうという疑問が浮かんできたが、適当にアーテル語の名前で通っているらしい。

ある程度「自由な国」とは聞いてたが、ここまで自由なのか…と思った。

姉が気に入って住んでいた国である以上、それなりの魅力があるのだろうとは思ってたのが、なるほどと思えるようになった。

エレスチャルの方は不満は抱えていそうだが、それなりに過ごしている。

パートをしたいという事で、カルセドニーもいるデパートの地下にあるスーパーで働くようになった。

「あなただけが働いて稼ぐのは大変でしょ?急に子供が増えて、家計的にも影響が出たりするのイヤだから。」

「ありがとう、助かるよ。」

エレスチャルは今まで自分の子供達はしっかり育てていたが、コーデリアにはどこか距離を置いていたが、この島に来てからは少しづつ実子のように扱うようになった。

口論はしていたが、今は少し別の会話も増えた。

妖精ホワイトキャットちゃんの事があるからだろうが…。

コーデリアも「おばさん」と呼ぶようになった。

今までは「ねえ」や「ちょっと」と呼んでいたがどんな意味の“おばさん”なのかは分からないが「おばさん」でも今までに比べて良い方に転がっているとカルセドニーは思っている。

カルセドニーには相変わらず呼び捨てだが…。

妖精ホワイトキャットちゃんについても、呼ばれる名前が多少変わり扱いも変わってきた。

一緒の場所で暮らしているからか、天気により家の中で過ごさせたり、ご飯を食べさせたりすることが増えた。

学校はカルセドニーがコーデリアと一緒にクルーザーボートで送り迎えしている。

保護者の方が…という場合はカルセドニーが学校に顔を出している。

この国では養子だったり親の居ない子がいてもあまり気にしない。

大人がすでに自由奔放に生きている人が多いからだ。

海外からの移住者の中には色々な問題を抱えている人も沢山いる。

それでカルセドニーが血の繋がらない子の面倒を見ていても、誰も何も思わないのだ。

学校で使っている名前はコーデリアから聞き出して「白井 音子(しろい ねこ)」という名前らしく、あだ名が『しろねこちゃん』らしい。

そんな単純な名前…と思ったが、名前についてはカルセドニーもあまり口出しが出来ない。

コーデリアが『しろねこちゃん』と呼んでいる為、家族全員『しろねこちゃん』と呼ぶようになった。

島で生活して、毎日忙しく過ごしていると、あっという間に日々が過ぎ去って行った。

カルセドニーの家族は妻と三つ子の子供と姪っ子が養子になり、居候少女が増えた。

それでも何とか生活出来ているのが不思議だが、この国だからこそ、ここまで出来たのかもしれない。

最初はどうなるか分からず不安だらけだったが、今はそれなりに幸せに暮らせている。

カルセドニーは何とかなって良かったと思えるようになっていた。

このまま何事も起こらなければ良いなと思ったカルセドニーだったが、人生とはそんな時はだいたい何か起こる前兆である。




カルセドニーとエレスチャルは二人の休日を合わせて、ルージュ市にあるとあるビルを訪ねた。

塾や教室が集まっているカルチャービルらしく、出入り口にある案内板には沢山の教室案内が書いてあった。

一階と二階が子供の為の塾、三階は料理教室、パッチワーク教室、外国語教室など、大人の為の趣味などを広げる為のフロアとなっていた。

その上の階である四階は、全てがダンスフロアで五階六階が事務所などとなっている。

カルセドニー達は中に入り、エレベータを探し奥まで入って行った。

エレベーターが見つかり二機のエレベーターがある場所まで来た。

階をもう一度確認し、一階に止まっているエレベーターに乗り込んだ。

エレベーターの中で足音なのど心配を二人で話したがそれなりに対策は取っているのでは?という話でまとまった。

目的の階でエレベーターが止まりドアが開いた。

二人はエレベーターの外に出て再びその階の案内板を探し、自分の目的の部屋がどこにあるのか確認した。

「へぇ、ヒップホップダンス、バレエ教室、本当にダンスフロアというだけあって、色んなダンス教室があるんだなー」とカルセドニーが言うと「あったわよ、ここ。社交ダンス教室」と言った。

二人の目的地は「社交ダンス教室」らしい。

二人は元々社交ダンスを趣味にしていた。

結婚前からパートナーで、出会いは社交ダンス教室でパートナーに選ばれた時、二人は運命を感じていた。

それからというもの恋人期間を得て夫婦になった今でも、趣味として社交ダンスをしている。

最初はカルセドニーの両親がやっていたのだが、それが姉弟三人もやらされる事となり、幼い時は姉と組まされていた。

姉はすぐに辞めてしまったがカルセドニーと弟はずっと続けている。

悲しいが弟の方が成績が良く、大会に出てもカルセドニーは賞さえ取れないが弟はそれなりの順位を手にしている。

自分だって何か得意な事があっても良いのにと思ったが、クルーザー運転手の資格が取れクルーザー運転手の仕事をしていたくらいしか自慢できる事がない。

だからこそこの国では何とか趣味をもう少し頑張って賞くらい取れるようになりたいと、この教室へ通う事になった。

今日ここに来たのは今日からこの教室で学ぶためだ。

「はぁ、緊張するな」

「そうね、でも、また教室に通えるようになったのは、嬉しいわ!」

「先生はどんな人なのかしらね」

その時、どこからかカルセドニーの声に似た声で返事が返ってきた。

「たぶん、カルセドニーのように賞も取れないような男じゃない事は確かだろうな」

声が聞こえた方を二人で振りむとそこに二人の男女が立っていた。

「よう、元気か?カルセドニー?エレスチャル姉さん」

「聞きたくもない声だし、会いたくもない人物だな」

「どうしてここにいるの?あなた達は実家のご両親と同じ土地を離れたくないって言ってたじゃない!」

「いやー、ロザリンドが島暮らしし始めた兄さん達が羨ましいと言ったから、思い切って俺らも島暮らししようと思って」

「最悪だ、折角君らと離れて平和になったと思ったのに。」とカルセドニーが言うとカルセドニーの弟セバスチャンは、「これからもよろしく、お兄ちゃん、お義姉ちゃん(おねえちゃん)」と返してきた。

エレスチャルは「あなたにそう呼ばれたくないわね」と返すとセバスチャンの妻、ロザリンドは「そう言わないでよ、この兄弟の妻になった者同士、また仲良くしてよね」と返してきた。

カルセドニーの実の弟、セバスチャンとセバスチャンと結婚したロザリンドは、カルセドニー達より早く結婚し子供は双子の女の子がいる。

そして社交ダンスでは二人もパートナーだ。

カルセドニーとセバスチャンは二人同時に社交ダンス教室に入れられた。

子供の頃は違うダンスを習っていた為、カルセドニーが十八歳頃から社交ダンスを習っている。

その頃からセバスチャンとロザリンドもパートナーである。

四人の年齢はカルセドニーが三十五歳、エレスチャルが三十四歳、セバスチャンとロザリンドが共に三十二歳である。

子供はカルセドニーの子が三歳、セバスチャンの子が十歳である。

ちなみにコーデリアとしろねこちゃんは二人共十一歳である。

カルセドニーとセバスチャンは年齢の幅が狭い為、いつも何かを争ってきた。

その為、結婚も早く子供も早く、賞も取れる弟が、カルセドニーにとって非常に厄介な存在である。

賞を取れない事をバカにされ、結婚が遅い事をバカにされ、子供は何とか結婚後直ぐに出来たから良かったものの、コーデリアを押し付けられた事を散々言われ、ようやく離れた相手だった。

…ハズだったんだが、どうやら追いかけてきたようだ。

「で、今はどうしてるんだ?」とカルセドニーが聞くと、カルセドニー達がいた施設にいると返ってきた。

「金はどうしたんだ?お前の家は、やたらと金回りが良くて、困っている事も多々あっただろう?」

「そんなの、親の金に決まってんじゃん」

「そうか、そうだよな、おまえはそういう奴だ」

「で、今日からここで、俺の元で教わるんだろ?それならそれで、条件がある。」

「いや、言わなくても分かる、島は俺の物だ、勝手に建てたりするな、金を貸せもダメだ、全てダメだ」

「じゃあ、退会してもらうけど」

そこでエレスチャルが口を挟んだ。

「講師ならもう一組いるでしょ?」

「いるけど?それがどうした?俺らには教わりたくないって?エレスチャル姉さん?」

「曜日を変えれば良いのよね」

「まぁねー、でもこちらはそっちの情報を簡単につかめる」

「…今日はもう来ちゃったし、しょうがないとして、私達は曜日を変えさせてもらうわ」

その時だった。

「ねえ、島に住めないの?その為に私達、ここに来たのに!」と口を挟んだのはロザリンドだった。

「ロザリンド、大丈夫だよ、優しい兄さんがなんとかしてくれるから」

「いや、おまえの事は今後、無視をする、この教室が最後だ!」

「カルセドニー!」

カルセドニーとエレスチャルはそのまま歩き出し教室の方へ入って行った。




散々な再会となり、落ち込んでいた二人は今後の事を話し合う為、わざわざアーテル村まで足を運んだ。

教室で社交ダンスをして疲れているのにも関わらずこちらに足を延ばした。

ココまでくれば弟は追いかけて来ないと思っての行動だ。

実際、弟は姿を現さなかった。

話し合いは児童公園でしていたが、子供達に変んな顔をされながら行われ、一旦家へ帰る事となった。

島に帰ってくると周りや家の中をくまなく探したが、二人の姿や痕跡は無かった。

一安心してリビングでくつろいでいると、子供達が集まってきた。

何か変わった事は無いかと聞くと何もなかったという答えが返ってきた。

とりあえずまだ、この島は弟夫婦に侵略されてないようだ。




その日の夜、ルージュ市の簡易宿泊施設で寝泊まりしているカルセドニーの弟、セバスチャンとその妻ロザリンドは、今後どうするかの話し合いから口論に変わっていた。

兄より優れている弟だったはずなのに、まさかの養子を連れての生活で悠々自適な島暮らしという生活を手に入れたと聞いて、ロザリンドは夫を説得し、なんとか義両親にお金を出してもらい、移住してきたというのにまさかの義姉からの言葉。

さらに義兄からの言葉。

なにも言い返さなかった夫。

夫は何とかなると言っていたが、義姉が出てくるとどうも弱くなるらしい。

そんな夫の態度にロザリンドは声を荒げた結果、今現在の口論に繋がっている。

「はぁあ、真面目で一途で、おまけに優しい、そんなカルセドニーはなんて素晴らしいんでしょうね!」

「そうだな!綺麗で冷静沈着、おまけに金使い荒くない所は、エレスチャルの方が良い女だよな!お前と違って!」

「なによ!あんな地味女!」

「なんだよ、カルセドニーだって地味男だぞ!」

「それでも、島を持ってる!プライベートビーチ!クルーザーボート!」

「あー、うるせー、もう疲れてんだよ、今日はこの辺にしようぜ。」

「ダメ!曜日替えられて、会えなくなっちゃう!」

「会いたいのか?あいつに?」

「ちょっと!違うわ!だって、島に行きたいじゃない!」

「あー、分かったから、今度兄貴にちゃんと会って話すよ」

「エレスチャルは?」

「会う必要ないだろ」

「二人で会うのね」

「当り前だろ」

「分かった」

こうして二人は口論を辞めたが、二人の話し合いはいつも口論に発展してしまう。

似たもの同士なのだろう、だからこそ二人は意見がぶつかり合ってしまう事が多々ありそんな日は二人共疲れてしまっている。

子供が出来てしまっての結婚で、最初から口論は絶えなかったが、それでも夫婦やダンスパートナーとしては相性が良いらしい。

しばらくして時間が経てば二人はいつも通り仲の良い夫婦に戻っていた。




翌日

カルセドニーは弟の連絡を受け指定された場所へ向かった。

まだあまりこの国の事はほとんど分からないが、それは向こうも同じである。

場所は簡易宿舎の近くだった。

弟は指定の場所にすでに来ていた。

「今日はどうした?」

「もちろん、島の話だ」

それなりに洒落たカフェの席にカルセドニーの弟、セバスチャンは座っていた。

カルセドニーも二人席に座っているセバスチャンと向かい合うように席へ座りメニューを見た。

「また随分と洒落たカフェだな、メニューも若者向けみたいだ。」

「いうほど若者向けか?普通だろう?」

「まぁ良い」

カルセドニーはメニューから顔を上げて店員を呼び、ドリンクを一つ注文した。

「で、俺を呼び出したのは、俺の島の一部に家を建てて、そこに住みたいと」

「そうだ」

「無理だ」

「そこを何とか…金なら仕事もあるし、二人で稼いでるから、貯めるのも早い。」

「ロザリンドの浪費癖は治ったか?」

「…治るわけないだろ」

「ここはロザリンドの趣味の店だな、値段と言いメニューといい、店の雰囲気だったり…彼女がとても好きそうな店だな。彼女の事だ、この店は頻繫に来ているだろう?」

「そんな事は良いから」

「生活がキツいんだな、昔からそうだった。そんなんでよくこの国まで来たな」

「親に出してもらったんだ」

「そんな親元を離れて良かったのか?」

「だから、ロザリンドが…」

「おまえも、彼女には頭が上がらないらしいな」

「頼むよ、ロザリンドの為に島の一部を」

「条件がある」

「条件?」

「エレスチャルとロザリンドが話し合って決めてくれ、それが条件だ」

「一番嫌な条件だな」

「その条件をクリアしてからだ」

「…エレスチャル姉さんが良いと言ったら、良いんだな?」

「その時は俺とエレスチャルで、最終的に話し合ってから決める」

「分かった、ロザリンドに話してみる」

「こちらもエレスチャルに話しておくよ」




二人が店を出て、セバスチャンは早速ロザリンドの元へ向かった。

ロザリンドはデパートにいた。

デパートの地下で仕事中のエレスチャルと一緒にいた。

良いのか悪いのか分からないが、近付いてからエレスチャルの表情を見て、良くない状態だと気付いた。

「ロザリンド」

「あっ、ねえちょっと!エレスチャルったらひどいのよ!」

「それは後で聞くから!エレスチャル姉さん、またね!」

そう言ってセバスチャンはデパートの地下から妻を引っ張り出した。

その後、デパートの外に出て、家として利用している簡易宿泊施設へ戻った。

歩いている間、ロザリンドは一人で喋っていた。

それは全てエレスチャルに対しての愚痴だった。

部屋に入るころには島に住みたいという話に変わっていた。

早くここを出たいと騒いでいる。

「出ても住所は変わるぞ?ルージュ市で住んだ方が良いんじゃないか?」

「楽しそうに住んでるのが羨ましいの!」

「いうほど、楽しそうか?まぁ、カルセドニーと話したぞ。エレスチャルと話し合って欲しいって」

「はあ?なにそれ?」

「そこまでして、あの島の一部の所に家を建てたいか?金だってかかるんだぞ?こっちで支払わなきゃいけないんだぞ?分かってるか?」

「お金がかかるのは分かっているわよ。分かった、話してみるわ」

「じゃあ、そういう事で」

「…はいはい」




カルセドニーはカルセドニーで、仕事帰りエレスチャルと落ち合い、弟と話した事を説明した。

エレスチャルはすんなりと了承した。

「でも、私は良くても、向こうはこの話を受けるのかしら?相手はロザリンドでしょ?」

「どうだろな、分からない」

「でも、今日も偶然、会っちゃって、向こうから話しかけてきたから、しかたなく話したけど、だいぶ困ってるらしいわ。安くしてくれだの島に住まわせてくれだの。うるさいくらい話しかけてきて、そうすれば安く家が手に入るって。」

「まぁ、勢いでこちらに来てしまったもんだからなー。」

「あなたはどう思っているの?」

「できれば離れて暮らしたいさ。その為に来たんだから、でも住むところが無くなったら、と思ったが、国へ返した方が良さそうだな」

「そう簡単に返せるかしら?」

「…無理だろうな、金やなんやらと騒ぎそうだ。俺の両親だって、弟の肩を持つだろう。」

「そうね、そうよね」

「結局、セバスチャン達の思い通りになりそうだな」

「あきらめるしかなさそうね」




その後エレスチャルとロザリンドの女二人の話し合いはあっさりと終わった。

ロザリンドが意外にも「私達が悪かった。お願いだから島の一部に家を建てさせて欲しい。お金は私達だけで支払う。あなた達には一切支払わせない、少しも借りたりはしない。エレスチャルお姉さんの言う事を聞くわ。子供達も楽しみにしてるのよ。あー、コーデリアの事も、二人に任せっきりで、悪かったと思ってる。これからは私達も彼女のめんどうを見るわ」と言ってきたからだ。

それに対してエレスチャルは少々驚いたが何か裏があるのかと考えたが、今日はやけに素直だった為、話を聞き入れた。

そしてもう一つの条件をロザリンドに出した。

「あの、うちにもう一人、島に住むのに、承諾が必要な子がいるの。その子にも合わせてから、考えるわ」

「…誰?」

「子供だけど、手強いわよ」

「えっ、どんな風に?」

「不思議ちゃんよ、つかみどころが分からないの。私も最初、戸惑ったわ」

「えっと、どういう事?」

「島に…キャンプしながら生活している子がいて、その子に私達は了承を得て、暮らす事となったの。今は家族のように暮らしているわ、家族じゃないんだけど、うちに居候してる子よ」

「コーデリアじゃなく?」

「違うわ」

「意味わかんないけど、まぁ分かった。その子に了承を取れば良いのね」

「私から言えることは、これだけ」

「分かった。了承を得られるようにするわ」

「まぁ、どうせ、国に帰る事も出来ないんでしょ?だからって他に住むことも出来ない。どうすることも出来ないんでしょ?お金が無くて」

「…欲しい物が目の前にあると、つい…」

「私達に迷惑かけないと、約束出来るなら良いわ」

「ありがとう」

「居候の子には、ある程度カルセドニーが話をしてくれるって言ってたから、頼んどくわ」

「そう」

「じゃ、私はこれで失礼するわね」

「ありがとう、それじゃ」

二人はそこで話を終え、お互いの来た方向へ帰って行った。

その日の晩、カルセドニーは妻から話し合いの内容を聞き、彼女の元へ向かった。

外でテントの中で過ごしている彼女はカルセドニーの話を聞いて「えっと、今はもうカルセドニーさんの、あの、島になったので、カルセドニーさんの好きにして良いです。」ととてもあっさりした答えを返してきた。

「えっと、私はこの島で暮らせれば、あの、それで良いので、えっと、家が建とうが、木のお家が出来ようが、別に良いです」

「木のお家?」

「はい、この間コーデリアちゃんが、えっと、おじさんはツリー何とかを、欲しがっているって、言ってました。なんなのか聞いたら、木のお家で、外国ではたまにあるって、言ってました。」

「ツリー、木の家?あぁ、もしかしてツリーハウスか、確かに欲しいな」

「はい、私も欲しいです」

「そうか、じゃあ、考えてみるよ」

「はい」

彼女は頭が良いのか悪いのか分からないが、それなりにカルセドニーの言葉を理解できるようになっていた。

コーデリアのおかげでもあるだろう、やはり友達と会話したいというのがやる気を出させるのか、子供には謎の吸収力があるのか、まだまだ会話が成り立たない時はあるが、簡単な言葉は覚えてくれていた。

カルセドニーはテントを出ると家に戻り、コーデリアの部屋へ向かった。

コーデリアにも話しておくべきだと考えたからだ。

コーデリアの方もだいぶあっさりしていた。

「あっそう」「ふーん」「別にどうでも良い」という返事しか返って来なかった。

コーデリアに「居候中のしろねこちゃん」について聞き出すことにした。

普通に生活しすぎて感覚が麻痺いていたが、彼女はあくまで居候である。しかし保護者という立場に勝手にされてしまった事もふまえ、カルセドニーは定期的に彼女の事を聞き出している。

「しろねこちゃんは、今は学校が楽しくて、勉強も少しだけ楽しくなってきたみたい。私より成績良いよ。私が、しろねこちゃんに勉強を教わったりしてる。元々国語とか本とか好きだったみたいだし、言葉に関しては、その辺から興味が湧いて、共通語も覚えた方が人生楽しくなるって言ってたし、それで覚えるのが早くなったんじゃない?学校での成績は、普通くらいだし、なにも問題ないよ」

コーデリアの言葉を聞いて安心できたが、カルセドニーはコーデリア自身も変わったと気付いた。

今までとは言葉使いが柔らかくなったのだ。それはしろねこちゃんの影響と考えた。

彼女のお陰でコーデリアにもいい影響を与えているらしい。

お互いがお互いに対し良い影響を与えるなら、この環境になった事も悪くないと考えるようになった。

後は弟たちがこちらに来ることになったら、また波乱が起きそうだが…それは来てから考える事にした。




それから数日後

セバスチャンとロザリンド夫婦は双子の娘を連れて島へやってきた。

まずは家の外を案内して、ここにツリーハウスを建てると説明した。

自分達も使いたいと言い出すかと思えば全く何も言い出さなかった。

なにか急に大人しくなってしまって、今までのセバスチャンとロザリンドとは別人のように思えた。

娘二人は相変わらずといった感じで大人しく、親の後ろにくっついている。

元々二人の娘とは思えないほど冷静で冷たい感じを放つ二人だったが、今も変わらず冷静沈着らしい。

“しろねこちゃん”に会わせても四人ともあまり興味無いようだった。

しろねこちゃんもごく普通に接していた。

カルセドニーは急に、一人だけ別世界にでも来てしまったのかと思ったが、エレスチャルも拍子抜けしていたらしい。それは後で確認が取れた。

家の中に案内するとカルセドニーの子供達が出迎えてくれた。

三つ子のうち娘二人は物怖じせず顔を見せてくれたが、息子だけは母の後ろに隠れてしまった。

三つ子は女の子、男の子、女の子という順番で産まれてきたのだが、女の子二人は元気一杯でどこか強く、姉の血が混ざっているように感じる時もあるほど、わがままで勝手に動き回るタイプだった。

真ん中の男の子はそんな姉妹に囲まれて、大人しく引っ込み思案でカルセドニーの息子らしい子だった。

女に振り回される運命をカルセドニー同様、受け継いでいるらしい。

つくづく彼らの遺伝子は女性が強い傾向にあるらしい。

セバスチャンも意外とそういう所が垣間見れた。

リビングで全員が集まり、狭いリビングだった為、ぎゅうぎゅうに押し込まれているように見える。

大人が四人話している間、子供達はしろねこちゃんとコーデリアが二人くっつき、三つ子のうち姉妹は好き勝手に動き回り、息子だけが大人しく母の元にくっついている。

セバスチャンの双子の姉妹は二人でくっついてお喋りしていた。

引きはがすことはないが、双子の娘は二人でくっついている事が多かった。

騒がないで大人しくしているが、それが余計に怖い時もある。

結構賢くセバスチャンとロザリンドの子供というより、カルセドニーとエレスチャルの子供という方がしっくりきそうだ。

その分、三つ子の姉妹の方がセバスチャンとロザリンドの子供に見える。

どこかで間違ったようだが年齢が違う時点でそれはない。

やはり血縁関係上それなりの遺伝によるもののようだ。




その日、弟家族が帰った後、カルセドニーは島のどの辺に家とツリーハウスを建てるか考えていた。

ツリーハウスは家のすぐ隣、弟たちの家は…あまりくっついて建てて欲しくない。

しかし島の面積上、それなりにくっついてしまうのはしょうがない。

せめて「少しでも離れた場所」として島の端の方に建ててもらう事にした。

くじら島の左側に小さい無人島がある。

そこも買い取るか聞かれたが、管理が必要なのとお金の問題でクジラ島のみ自分の所有物にした。

村長の話だとそこも合わせて二つの島が、昔あった施設の所有している島だったらしい。

こちらは何も無かったが隣のペンギン島には何か建物が建っている。

島を買う際、両方の島を見させてもらった。

一島で十分と判断したが、まさかこうなるとは。

お金があれば今からでもあの島を買って弟たちをあちらに住まわせたいが、それもなんだか変な話だと思い止めた。

島はまだあると弟に話してもお金が無くて無理だろう。

どの道、自分の島に弟を住まわせるしかない。

ならばそうか、この左端の場所に家を建ててもらうか。

ペンギン島が見える場所なら、しろねこちゃんもキャンプ道具を置いていないし、空いたスペースとして充分場所を確保できる。

よし、この辺で大丈夫だろう。

後はしろねこちゃんに改めて場所の確認を取ってもらおう。

彼女は島が大好きで景観も気にしている。

その報告は大事だろう、折角自分に託すと言ってくれたんだ、それくらいするのは当たり前だと考えてカルセドニーはキャンプ道具を置いている場所へ向かった。




「あれ、コーデリア、何してるんだ?」

「寝転んで星の観察」

「しろねこちゃんは?」

「家の中でおばさんと共通語の勉強」

「ん?エレスチャルと?」

「そう、おばさんはアーテル語、しろねこちゃんは共通語」

「なんか随分だな」

「そう?」

「まぁとにかく、家の中だな」

「ねぇ、お母さんがいないって寂しくないのかな?」

「ん?」

「私は、離れたけど、一応生きてるだろうし、あんな奴、親だって思いたくないし。でも親がいないって、寂しくないのかな?」

「そりゃ、人によっては寂しく思うだろうな」

「私としろねこちゃんって、似てるようで違うんだよね」

「ん?」

「彼女、自分の事ほとんど話さないけど、親は二人共いないんでしょ?どうしたのかさえ、知らないけど、でも寂しいとか言わないんだよね。私は親のグチばかり話してるのに、彼女、何も言わないんだ」

「そうか」

「ねえ、おじさん、可能なら家族として迎えてあげようよ。私みたいに」

「うーん、それは経済的な理由で無理だな」

「セバスチャンは…もっと無理か」

「そうだな」

「私、おじさんが親になってくれて、正直良かった。なんかロザリンドとクラウディアとルーシーが嫌い」

「ありがとう、でも…」

「分かってる、来たらなんとか上手くやるよ」

「うん、よろしくな」

「クラウディア」と「ルーシー」は、セバスチャンとロザリンドの双子の子供の名前だ。

そういえば確かにその双子とコーデリアが仲良くしている姿は見かけなかった。

元々この国で生まれ育ったコーデリアは、今回親元を離れ初めて親戚の人達と会った。

近場に住んでいた弟家族とは向こうの国で頻繁に会っていたが、コーデリアも弟家族も交流は全くという感じだった。

お互い距離を置いていた。

セバスチャンだけはそれなりに話しかけていたが、それ以外の三人は確かに距離を取り話しかけもしなかった。

なるほどそういう感情があったのか。

女同士の事だし上手くやると思っていたが、そう簡単ではなかったのかとカルセドニーはようやく気付いた。

今「上手くやるよ」と言っていたコーデリアの顔は“本当は納得できていない”という感情も混ざっている顔だった。

カルセドニーは改めて、弟たちがこの島に来た後の事を考えた。

子供に負担かけていたらダメだな、セバスチャン…というよりロザリンドと双子の子達はちょっと問題ありだな。なるべくその三人とコーデリアは離していた方が良さそうだな。

カルセドニーは家の中に入る前にごちゃごちゃと色々考えていた。

「きゃっ」という声と床に何か倒れた音がした。

見ると足元に白い毛の少女が転がっている。

「うー…」とうなだれているのを見て、カルセドニーはようやく誰だか気付いた。

「ごめん、しろねこちゃん、どっかぶつけたか?」

音を聞きつけエレスチャルも来た。

「あら、大丈夫?頭打ってない?」

しばらくしてゆっくり立ち上がったが、心配してカルセドニーが夜間の病院へ連れていく事にした。




診察結果はとりあえず大丈夫そうだが、念のため一晩寝ていけという事でカルセドニーは家に連絡をして二人で病院にお泊りだと告げた。

病室に戻るとしろねこちゃんはベッドの上で「死んじゃうかもしれない、お母さん…」と泣いていたが、カルセドニーの声を聞いて安心したようで泣き止んだ。

しろねこちゃんを寝かせてカルセドニーは椅子に座りコーデリアの言っていた事を思い出していた。

小さな白い手を握り「すまない、私が他の事を考えていたせいで…」と声をかけたが彼女は小さく寝息をたてていた。

翌朝、病院を出て島に帰り、家の中に彼女を連れて入った。

「しばらくは私達と一緒に寝よう。」としろねこちゃんを夫婦の寝室へ案内した。

気持ちがすっかり甘えモードに入り、しろねこちゃんはずっとカルセドニーに甘えていた。

症状は大した事はなく、体は元気なのだが心が元気ではないらしい。

ずっとカルセドニーの手を放そうとしなければ、何かぶつぶつとつぶやいていた。

今日は学校をお休みさせ、カルセドニーは仕事へ行こうと思ったが、お留守番はしないと言い張る為、カルセドニーは仕事を休んだ。

「結構簡単に休めるもんだな、さて、どうしようか、子猫様」

と言ってみたが彼女には伝わらなかったらしい。

眉間に皺を寄せて「アーテル語で話して下さい、何を言ったのか分かりません」と返された。もちろんアーテル語で…。

コーデリア…はもう学校へ行く時間か、困ったな、昨日から言葉の壁が少々出てくるな人はパニックになるとダメだな…。

コーデリアー!!

その時、廊下で子供の声が響いていた。

「おじさん、ここにいるの?どこ?」

部屋のドアは空いている。

彼女に聞こえるよう声を出すと、コーデリアの姿が目に入った。

コーデリアは部屋の出入り口の所に立ち、カルセドニーを見つめた。

「おじさん、船の時間なんだけど」

「コーデリア、すまない、彼女との間に通訳として入ってくれ」

「…手短にね」




部屋からコーデリアが出てくると手招きしている人影が見えた。

コーデリアはその人物の所まで行くと、部屋での様子はどうだったか聞かれた為「めちゃくちゃ甘えモードで甘えてる」とだけ言っておいた。

その後、コーデリアはカルセドニーの運転するクルーザーボートに乗り一人学校へ行った。

その日の夜には、もうすっかり元気になったしろねこちゃんだったが、これがキッカケでカルセドニーには多少甘えるようになった。

エレスチャルは子供だからと大目に見る事にした。

甘え方が親に甘えるような甘え方だった為、許せたがカルセドニーは女性が甘えてくると弱い部分がある。

自分にはそんな可愛らしい部分は無いと思っているエレスチャルだが、だからこそ悪い虫が付かないかいつも心配なのだ。

女性の言いなりになりやすいカルセドニーだからこそ、目を光らせておく必要があった。

エレスチャルはたとえ子供だろうと女は警戒しなくてはならない。

しかし今回、親に甘えたい年頃の子のように甘えているのを見て、彼女だけは警戒から外すことにした。

「コーデリアが言ってた通り、甘えん坊モードだけど、あれは大丈夫ね」

エレスチャルは家の隅でこっそり二人を監視していた。




弟家族が島に移住する事が決まり、建築士などと話し合う事となった。

この国の建築士で良い人がいたらという話で、アーテル村の村長の名が挙がった。

家を建てたらツリーハウスも建てるかと、カルセドニーは考えている。

準備を始めるとやたら忙しくなった。

場所は前にカルセドニーが決めた場所で問題ないようだ。

設計図やら金銭的の話やら、カルセドニーも同席しての話し合いとなった。

カルセドニーはただ話を聞くだけだったが、やたら気疲れをしていた。

あっちこっちと弟達と移動し、気を使わないロザリンドの世話をし、カルセドニーは一人疲れていた。

家が建ち引っ越しする時期となると、何ヶ月もいつのまにか過ぎ去って行った。

やっと落ち着いて念願だったツリーハウスを建て、カルセドニーは自分だけの城を手に入れた。

たまに息子が一緒に使いたがる為、二人で使う時があるが基本、自分の城となった。

子供達が遊びに使う時もあるが、それは全く影響はない。

ブランコや滑り台を使うだけで、それ以外ほぼカルセドニーが使っている。

やっと夢の島暮らしが充実してきた。

言葉も分かるようになりほぼ問題なく過ごしている。

弟家族が引っ越して来たら波乱の幕開けか?と思っていたがそんな事はなく、むしろ穏やかだった。

クルーザーを運転する機会が増えたが、そのくらいはどうって事なかった。

子供達に社交ダンスを習わせたかったが、自分達で精一杯と言われてしまった。

現在、島での生活はカルセドニーの家族五人と姉の子を養子にした為、家族は六人となった。そしてあまり自分の事を話したがらない謎の少女しろねこちゃんが加わって彼女は居候という形を取っているので全員合わせて七人で生活していた。

それが弟家族四人が一緒に住む事となった為、十一人で生活している。

家族だけではあるがお互いに気を使いながら…は無理そうだが、それなりに距離を取りつつ着かず離れずで生活出来ている。

弟夫婦もぎこちないが、コーデリアの事では前に言っていたようにちょこっとだけ手を貸してくれるようになった。

コーデリアも苦手そうな顔をしながらも、おじ、おばと呼び始めた。

紛らわしいからとカルセドニーとエレスチャルの事は、お母さん、お父さん呼びになっていた。

その事について本人は「説明めんどくさいし、今でも変わらず、パパはパパ、ママはママだよ。だけど、カルセドニー達の事はそう呼ぶことにしないと、省きたい説明を入れる事となっちゃうから」らしい。

パパ、ママは本当の両親、姉と姉の元夫の事だろう。

二人は今どこで何をしているのか全く分からないが「どうせ一人になって、羽根を伸ばしてるでしょ。私という邪魔者も居ないし」とコーデリアは言っていた。

「とにかく、今の私の両親は、カルセドニーとエレスチャル、あなた達よ」

「わかった、そう言ってくれて嬉しいよ。ママの事も、頭の片隅に置いといてくれ」

「まぁね、ほんの少しだけね」

「あなたも、私達の子供よ。コーデリア、改めてよろしくね」

「…はいはい」

コーデリアの横で、小さくなって見ているのはしろねこちゃんである。

彼女はなにも答えない為、両親がいないとしか分かってはいない。

しかしそれ以外はちゃんと学校へ通っているし特には無かった。

(キャンプ生活は相変わらずだが)

弟家族にも嫌な顔は見せず、よろしくお願いしますと挨拶していたし、ロザリンドがなにか言っても無視させようと思ったが、ロザリンドはやはり珍しく大人しくしていた。

双子は変わらない。

セバスチャンはしろねこちゃんに対し、ごく普通に話しかけている。

「最初はカルセドニーの隠し子発覚かと思ったのにな。まぁいいや、猫ちゃんよろしく」と声をかけ、ロザリンドに突っ込まれていたのは引っ越して来た日の事だった。

そこから変わらず軽口を叩いているが、その辺は毎度の事でロザリンド以外無視するか簡単にあしらっている。

しろねこちゃんも最初は不穏な顔をしていたが、段々と扱いが分かると皆と同じような行動をし始めた。

そんなこんなで総勢十一人となっているが、カルセドニーは問題なく暮らせている事に満足している。

不安や不満は消えないが、なんとかなっているのであまり考えない様にしている。

仕事もそれなりに順調である。

やはり宝石やパワーストーンとは相性が良いのだろうか、ちょっと腑に落ちないが…。

海の街とされ、新しい街が出来て島に人が住み、陸側の街も活気が出ている。

陸と島を合わせて「アズーロ町」となった町は新しい町として成功を収めた。

学校などはルージュ市の方にある学校となるが、子供達はそれでも文句を言わずに登校している。

住所はアズーロ町だが、それがめんどくさいくらいで、それ以外に不満は無いらしい。

まぁ主に港があるだけで民家は少ないからしょうがないのだが。

後はルージュ市からの分離された空港のある街と新しくヴィオラ町からまた分離された新しい町が出来るのが国の目標だ。

それまでの間、町や市に住む住人は普通の生活をしながら待ち望んでいる。

そしてこの国にまた新たな住人が増えたり、なにか問題を抱えた住人が減ったり…。

国は一歩一歩動いている。

今、この瞬間も…。


              第6話 終わり。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る