背後

三浦航

背後

 今晩うちにおいでよ、という彼の心は丸わかりだった。しかし彼と会ってから、私はその言葉を待っていた。


「おじゃまします。」

拓也の家へ上がり込む。

「何時の電車か言ってくれたら迎えに行ったのに。最近女性を狙った犯罪が多くて心配だよ。」

「ああいうのは華奢な子が狙われるの。だから大丈夫。」

自分で言うのも辛いが私は顔が怖い。周りもそう思っているらしい。

「例の絞殺事件の犯人だって捕まってないでしょ?」

「そうだね。」


「お風呂借りるね。」

さも自然に言ってみる。こういう状況は初めてなのでさすがに緊張する。当の拓也はというと全く緊張していないようだった。やり慣れているのだろう。でもその方がいい。成功するとたかをくくっていてくれる方がこっちも安心できる。


 一通り手順を終えると着替えの方に目をやる。準備はできている。

 どうも彼は我慢できないらしく、風呂場から出た私を狙うらしい。お見通しだよ。私は服を着ずに風呂場を出た。

 彼は筋肉質な腕で私の首を今にも掴みそうだった。だが私が手に持っているものを見て怯む。その隙をついて彼を刺す。

「あなたが最初に殺した女性、私の姉なの。」

「どうして俺だってわかったの…?」

そう言うと彼は力尽きた。

 さて、もう一度お風呂に入って血を流そうかな。どうして俺だってわかったかだって?だって私は人の心が読めるもの。だから全部わかるの。

 あなたが今、ありきたりな設定だなって思ったことも、今から後ろを振り返ることも。

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背後 三浦航 @loy267

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