Beautys High

与世山とわ

第1話 自画自賛の…

AD1100年

≪曙光都市 エルジオン≫


 人間が住めないほど汚染された大地を離れ、はるか上空で人々が暮らす時代。明るく発展的な空中の街に住む人々は、技術や文明に恵まれ、豊かで便利な生活を送っていた。

 街は青空に包まれており、天空から降り注ぐ明るい自然光がいつも差し込んでいた。

 人工知能を搭載したアンドロイドは当たり前の存在。労働力として社会貢献をしたり、家族の一員として人間と共に生活したりしている。人や物を運ぶカーゴも空を往来し、短時間で長距離を大量に輸送することができる。

 エルジオンは人々の積み重なった英知が結集して造られた、未来の都市である。


 そして日々新しい発見や発明に溢れていた。


―――― ガンマ区画 ――――――――――――


 宿屋や武器屋、酒場など人々の多く集まるお店が立ち並ぶガンマ区画。


 人の往来が多いこの区画で一人の少女が嬉しそうに歩いていく。 

 その女性はレースやフリルをふんだんに使った紫色の洋服に身を包み、大きく広がるスカートを揺らしながら歩いていた。洋服と合わせたような紫色の髪の毛は、藤の花のような色をしていた。高めの位置で結んだ彼女のツインテールは、大きく螺旋型にツイストするよう、丁寧にスタイリングされていた。


 彼女の名は、シュゼット。


このエルジオンに住む、少し不思議な世界観を持った少女だ。


 「あっ、シュゼット!」


 旅の途中でエルジオンに立ち寄ったアルドがシュゼットに声をかけた。

 アルドはこのエルジオンの時代よりも800年ほど前の時代の人間だ。故郷のバルオキー村では警備隊として村の警備をしたり、要人の警護の仕事をしていた。時には魔物を討伐することもあるため、剣技にはそれなりに長けていた。

 そんなアルドは、ひょんなことから時空の穴に吸い込まれ、以後現代のみならず、過去や未来を行き来できるようになってしまったのだ。

 時代が改変される危機を救うため、アルドは出会う仲間たちと協力し、今も旅を続けている。

 シュゼットも旅の途中、このエルジオンで出会った仲間の一人だった。

 

 「アルドではありませんか、ご機嫌麗しゅう。」


 シュゼットは少し気取ったように返した。その口元は優しく微笑み、いつになくキラキラした瞳でアルドを見つめた。

 

 「どうしたんだ?なんか今日はやけに機嫌がよさそうだな?」


 いつものシュゼットなら二言目には、魔界がどうとか 、我の魔眼がどうしたとか話始め、独特な世界観に否応なく連れていかれるのだが、今日はいたって大人しいと思った。


 「…♪……♪」

 何も言わないシュゼットだが、この間が持てないアルドは、何か言わなければいけないと思い、絞り出した。


 「あっ、髪か?何か髪が違うか?」


 アルドは以前、妹フィーネが髪を切った時、何も気づかず過ごしていたら怒られたことを思い出した。女子の機嫌が良い時は髪を褒めるといい。アルドはそう思った。


 「さすがアルドですわ!わたくしのこの美しさ、妖艶な魔界の巫女の変化に気づけるとは、もしやアルドも魔眼の持ち主であったか!」


 やはり、いつもの流れだったか。

 アルドはそう思った。


 「このシュゼット、今日はヘアセットが私史上一番の仕上がりなのです。見てくださる?まさに魔界へ誘われるかのごとく柔らかくも弾力のある螺旋のカール。そしてこの瑞々しい花のような艶やかさ。」


 そう言いながらシュゼットはアルドの前でクルクル回り、髪をなびかせて見せた。


 「あぁ!そう言われてみると、確かにいつもより髪がふわっとしているな!」


 正直アルドにとってはほんの些細な変化にしか思えなかったが、よく見ると普段よりもカールがまとまって形がしっかりと出ているように見えた。

 

 「お分かりですの?そんなに褒めてもらえて、わたくしは嬉しいですわ!」


 シュゼットの自惚れ発言はさておき、アルドの返しに満足気の表情だった。

 

 「でも、毎日自分で髪を整えているんだな。俺なんか起きて水で濡らして終わりなのに、そんな形に形成できるなんて、女の子ってすごいな。」


 「わたくしにとってこの巻き髪の完成度は、魔力のバロメータのようなもの。朝は魔力の注入に集中するのです。そして今日は過去一番!今日は絶好調な気分ですのよ!」


 アルドは少々面倒だなと思いつつも、シュゼットの巻き髪に対する熱意をしばらく聞いていた。


 その時、


 「なんて素晴らしい巻き髪だ!」


 シュゼットの背後から巻き髪を称賛する男性の声が聞こえた。


 

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