それぞれの戦い  最強の戦い(後編) 5

 グラーダ三世たちが出現したのは、崩れ去った神殿の上だった。

 スーリアの空間の外でも、戦いは決着が付いていた。

 戦意を失った神々や、倒れた神々に、辛うじて立っているガルナッシュとシャナがいた。

 第二級神、第三級神も、本気での殺し合いまでは望まなかったようで、死者はいないまま、戦いは終結したようである。

 

 つまり、本気で殺し合いをしたかったのは、アポロンと、ゲヘナだけだったと言う事である。

 



 戦いが終結した後では、もはや敵味方では無い。互いに傷の治療を施す。

 クララーの腕も、スーリアの精霊魔法で元通りにくっつく。

 治療は済んだが、言霊術の「返し」であるのどのダメージは治療できないため、クララーはしばらくしゃべる事が出来ない。

「礼を言っている」

 シャナがクララーの代わりにスーリアに話す。

「おかげで、精霊感応力エーテルはほとんど残ってませんよ。それに、私の空間に勝手に入って来るだなんて、事前に教えてくれていれば良かったのに」

 スーリアはプリプリ怒る。それを見たクララーが半笑いで、手を動かす。

「教えたら面白くないと言っている。だが、本当は失敗したら格好が付かないから話さなかったのだろう」

 シャナは、通訳だけで無く解釈も交えてスーリアに伝え、それが図星だったらしく、クララーがシャナに身振りで抗議する。

「あなたたちは意外と相性が良いコンビなのですね」

 スーリアが苦笑すると、シャナは無言で不本意そうに肩を竦める。

 クララーも同じポーズを取っていたので、スーリアは吹き出してしまう。

 

 更にクララーは手を振る。

「父親を殴りつけるのが目的で旅をしてきたが、まだ実力が足りないから、今はこの位で我慢するそうだ」

 シャナが淡々と通訳する。クララーのよくわからない手の振り方だけで、よくわかるものだとスーリアは感心する。

「では、いずれアズマに修行に行く事をオススメします。アズマへは、今は行くのは難しいでしょうが、近いうちに竜の団のカシム殿が、道を切り開いてくれるはずですからね」


 スーリアの言葉に、クララーとシャナは思わず顔を見合わせる。

 クララーは勿論カシムの事は覚えている。シャナは「たた中」の記事「ウンコの英雄」を、何度もティナに読み聞かせたので、耳に親しんでいる名前である。

 幼いティナが「ウンコ」で大笑いするのはいかがなものかと思いつつ、その笑顔が見たくて、ついせがまれると読んでやるのだ。






「グラーダ三世。手心を加えてくれた事に感謝します」

 カーデラが言う。

「それはこちらの台詞です。地上人である我らに死者が出なかったのは、神々の配慮があったからと思っております」

 互いに、この言葉が必要だった。

 ある意味、どちらも事実である。

 ヴィーナスは、スーリアを見て逆上してしまったが、本来は戦いは好まない。


 神の中で、一番被害を被ったのはヘルメスで、エクセルの闇魔法の幻覚でかなり参っていた。これは治療魔法で回復できるものでは無い。どんな恐ろしい幻覚を見たのかは、本人にしかわからない。 

 エクセルの顔をまともに見る事も出来ないくらいにおびえている。

 


 それともう1人。

 第一級神筆頭のアポロンのプライドもへし折られた。

 グラーダ三世に4人がかりで勝つ事が出来なかった。

 そして、最後は、一顧だにしなかった自称息子の魔法(正確には呪術だが)によって倒されたのだ。

 上から見下ろしてばかりいた頭が下を向いている。

 アポロンには、まだ余力もあるし、本当の全力は出していない。が、出したところで、グラーダ三世と一対一では勝てないことを思い知った。

 完敗である。




「それで、グラーダ王。あなたの要求は何でしょうか?」

 一言も発せないでいるアポロンに代わってカーデラがこの場を取り仕切る。

「まず、事の発端となった伝言の神バロイの息子、バルバロはどのように『処分』なさったのかを確認したい」 

 言われて、神々は一斉にトールの方を見る。

 トールは背筋を伸ばす。

「むむ。神籍を削除して追放したが・・・・・・」

 神は神殺しを嫌う。だから、処刑などは思いも寄らなかったのだ。

「では、追放後、バルバロがどこに行ったのかはわかっていますかな?」

 グラーダ三世の問いに、トールが首を振る。これは完全な手落ちである。

 恐らくトールは除籍と追放を言い渡しただけなのだろう。流刑地に流すなり何なりし、その後の状況を確認する責任があったはずである。

「恐らく、バルバロは、バロイの元に隠れ住み、今回の騒乱に深く関わっていると思われます。バルバロは地獄の魔物に取り憑かれており、バロイも恐らくそうなのでしょう」

 グラーダ三世がいらだちを抑えつつ説明すると、神々も事の重大さがわかってきたようだ。

「魔物の手は、すでに天界にも及んでいるというのですね?」

 ウテナが蒼白になり叫ぶ。

 ウテナら、太古からの神は聖魔戦争を経験している。その時の恐怖が蘇ったようだ。

 

 あの時は、神も魔神も、地上人もみな狂っていた。

 狂っていなかったのは精霊界の勢力と創世竜だけだった。そして、狂った絶望の世界で、たった2人の地上人が魔王を倒して、地獄の蓋を閉じたのだ。

 

「私の望みは、バルバロの処刑。それと、現在こちらで身柄を拘束している3人の第二級神、伝言の神バロイ、秩序と名誉の神オルエス、月の神グライオスの処刑です」

 グラーダ三世の言葉に、第一級神たちに動揺が走る。

「しかし、それはあまりに」

 ゼウスが叫ぶ。

「だが、地上人はもっと多くが今回の騒動で命を落としておりますし、騒動に与した者の処刑もしました。我らばかりが手を血で染めて、裏から先導していた神が罰せられないなどと言う事があって良いとは思えない。それでは、地上人は天界と魔界の区別も付かなくなる。それをお望みか?」

 グラーダ三世の言葉に、他の神が何かを言う前に、カーデラが答える。

「わかりました。では、その3名とバルバロは、神々の手ずから処刑し、公表しましょう」

 全員がカーデラを見た後、チラリとうな垂れているアポロンを見る。

 視線に気付いたアポロンが顔を上げると、力なく頷く。

「よかろう。妥当である」

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