ギルド戦争 クブン関 4
ファーンたちが、バルタとの国境に到着したのは、同日19日の午前中だった。
クブン関からやや南の山の中から向っていた。
途中で馬を捨てなければならず、残念に思いながらも、馬具をはずして解放してやった。
「みんな。いままでありがとうね」
ミルが名残惜しそうに、特に良く乗っていたアップルの鼻や首を、何度もさすっていた。
「ミル、行くぞ」
ファーンに促されて、国境に向かって歩き出した。
馬たちも、「ブルルルル」と、何度も鼻を鳴らして、ミルたちが去るのを見守っていた。
やがて黒馬のチェリーが、外されて地面に落ちている馬具を噛んで、何度も放り投げる。何度も繰り返して、背中に上手く乗ったら、落とさないように気を付けながら、他の馬を引き連れて、山を下りていった。
ファーンたちが国境にマントの隠密能力を使いつつ接近すると、ミルが魔法アラームの存在を感知する。
ミルは魔力も高いし、精霊忍術(?)も使えるので、それで感知出来そうなものだが、盗賊道具の鉄の棒を使っていた。
直角に曲げられた丸い小さな棒で、先端には魔力に反応する「ネトラクト」という鉱石が付いている。魔法トラップに近付くと反発するかのように、横に開く。
「ここにアラームだ・・・・・・。それで、どれ使うんだっけ?」
ミルはモタモタと、ポーチを探る。次に出したのは片メガネ。
「これ長く付けてられないよね~」
ブツブツ文句を言いながら、周辺を見て、赤い石を削って作った杭を6本投げる。
等間隔を置いて、3本ずつ地面に刺さり、細い道が出来る。
「この間を通って進んで~」
そう言って、ファーンたちを先に通す。
「後は、回収、回収」
ミルが投げた道具を回収しながら、ファーンたちの元に行く。
「ふう。出来たっぽい!」
使った道具をポーチにしまいながらミルが笑う。
「なんか、盗賊の仕事は、初めてだったんじゃね?」
「偵察も盗賊の仕事でしょ?」
ミルが頬を膨らませる。
「まあ、私たちって、ダンジョンで宝探ししないですもんね」
宝探しには、盗賊は欠かせない職業である。ダンジョン内の罠の察知や、解除。宝箱の罠チェックに開封。斥候などなど、活躍の場は多い。
竜の団でのミルは、斥候と戦闘時の撹乱、援護が主である。
そうして、アラームを乗り切ったが、人間の巡視も当然あると思っていた。しかし、バルタの兵士たちの姿を確認出来たが、何やら様子がおかしい。
右往左往して、散らばって行く。クブン関に向かう兵士が多いので、ファーンたちも、姿を隠しながらクブン関に向かった。
隠密もおざなりにクブン関に急いだファーンたちは、その日の日暮れには巨大な関所の前に到着していた。
「でっけぇな・・・・・・」
門の前には、沢山の兵士たちが混乱しつつ警戒していた。
クブン関は巨大な関所である。
かつては南からの侵攻を防ぐ為の要塞として作られたので、南バルタから見るその威容は恐ろしげだ。
壁には矢を打つ為の隙間が多く開いていて、壁を上ろうとすると、石や煮えたぎった油を落とす仕組みもある。
壁の高さは30メートル程だが、更に高い4つの塔がそびえ立っていて、空からの侵入者に対しても迎撃できるよう、バリスタ砲がいくつも設けられていた。
門扉は巨大な鉄の扉で、恐らく、その奥にも鉄格子の門がありそうだ。
「なんか、みんなガチャガチャしてるね」
見るが小声で囁く。
「どうも何か緊急事態があったようだな。上が対処出来ずにいろんな指示を飛ばすと、下は混乱して、結局右往左往するだけになっちまう。つまり、上が機能していない証拠だろうな」
ファーンが答える。
ファーンたちは、ギルドの放送など聞こえない山の中を進んできたのだから、現在の状況が全く分かっていない。
「で、どうするの?」
リラの問に、姿は見えないが、恐らく肩でもすくめたのだろう。ファーンが言う。
「取り敢えず、門の近くまで、壁にピッタリ張り付いて移動しよう。マントがめくれないように気を付けて、ゆっくり進むぞ」
ファーンたちは、焦らず、ゆっくり壁に取り付いて、兵士に触れられないように、ジリジリと、門に近付いていった。
そして、門にたどり着く。
たどり着いたところで、外からはどうにも出来ない。
そもそも、このクブン関は、バルタ以前の時代に建てられた要塞で、その歴史は幾代か前の王朝にまで遡る。
現在、南北のバルタが統一された後にも、この要塞が当時のまま、南バルタを威嚇しつつもそびえ立ち、しかも同国内にも拘わらず関所として機能しているのだから、南北の軋轢が悪化の一途をたどる。
南北が統一したのなら、クブン関は、その時点で破壊しておくべきだったのだ。
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