ギルド戦争  アール・ジェイ・ジェイン 3

「竜種は確認されているだけでも4種類確認されています。


 まずはオルテンシアドラゴン。

 最大で18メートルになる大型のドラゴンで、高い知能を持っていて、精神系の攻撃も得意としています。赤紫の鱗を持ち、巨大な翼、力強い手足を持っています。

 数は多くありませんが、かなりレベルの高いパーティーで挑まなければなりません。

 

 次にメレオドラゴン。

 全長10メートルほどの地竜で、翼はありません。

 生態はほぼカメレオンと同じで、周囲に溶け込む擬態をして、舌を伸ばして獲物を捕らえます。

 ただ、カメレオンと違って、あくまでも竜種です。

 舌に素肌が触れられると、体が麻痺します。素肌を晒さないようにしてください。

 また、毒の息を吐きます。すぐに毒は空中に溶けて毒の成分は消えますが、一呼吸でも吸えば、意識を失います。

 また、竜種なので、かなり硬く、体力もあります。


 次が、ワイバーン。

 腕の無い亜竜種です。

 全長は8メートルほど。空を飛び、集団で襲ってきます。

 炎などの攻撃はありませんが、数がいるので、狙われたら厄介です。


 最後が、草食の竜種であるリノリプス」


「ああ。それなら知っている。実際に黒竜島で戦った事があるよ」

 岩に似ていて気付かなかったんだよな。あの時は安物のロングソードしか無くってまるで歯が立たず、逃げの一択だった。

「バカ・・・・・・」

 ファーンが額を押さえる。

「・・・・・・あ」


 トリリア司書様が、ため息を付く。


「深くは詮索するつもりはありませんでしたが、やはり竜の団のカシム様でしたね」


 自ら墓穴を掘ってバラしてしまった。


「いや。別に騙すつもりがあった訳じゃ・・・・・・」

 俺が言うと、トリリアさんは、俺の弁明を手で制する。

「構いませんよ。注目されるという事は、それだけ身動きが取りづらくなるという事ですもの。ご事情は承知しております」

 ずっと硬い表情だったトリリアさんが、初めて笑顔を見せてくれた。

「それに、私もそのつもりで説明させていただいておりましたから」

 今度は苦笑する。

 確かに、紫竜に会いに行く事を前提の話だったように思う。

 さすが仕事をきっちりこなすグレンネック人だ。


「では、続いて、必要な装備品や注意点についてお話ししていきます」


 トリリアさんは、再び表情を引き締めて、話の続きをする。

「セルディーン山脈から北に行くと、もうすぐ雪が降り始める季節ですが、紫竜の領域までは積雪はありません。

 ですが、気温はぐっと下がりますので、防寒対策をして下さい。厚手の上着と、ズボン、ブーツは必須です。手袋もあると良いでしょう。

 領域内は雨も多く、体が濡れると低体温症になりますので、その対策も必要です。簡単に設置できるシェルターがあると便利です。

 ただし、常に野獣が近くにいると思ってください。

 また、不毛の地に入ってからは、休む事は出来ないと思ってください。なので、天候の変化を読みながらアタックしてください」

 と言う事は、入り口のある東側から不毛の地に入らなければいけない事になるな。


「気温は山頂よりも、領域内の方が寒いので、領域に入る前に、防寒装備をしてください。私たちだと、そこまででは無いのですが、グラーダの方だと、かなり寒く感じると思いますよ」

 心なしか、トリリアさんの話し方が、少し柔らかくなっている。

 マントの防寒機能に、期待するところ大だな。


「注意するとすれば、一応尾根沿いに北上して、領域のある紫七輪山むらさきななりんざんに向かいますが、尾根の西側はバルタ共和国なので、うっかり入らないようにしてください。といっても、多少入ったところで問題は無いと思いますが。

 噂では、今北バルタで、大変な疫病が流行してるそうです。なので、北バルタは完全に封鎖状態になっています」

 その事は初めて聞いた。

「そうなんですか?どんな疫病なんですか?」

 驚いて俺は尋ねる。

「それが分からないのです。それで、臨時政府が出来て、今、グラーダのアカデミーにも問い合わせているそうです。近く医療研究者が派遣されるという噂です。

 かなり恐ろしい病で、沢山の方が亡くなっています。実は、北バルタにあったギルドも、かなり犠牲者がいるようで、メッセンジャー魔導師とも連絡が取れないので、北バルタの情報は入ってきていません」

 

 恐ろしい話だ。それなら、国境は越えないように気を付けなきゃいけないな。少なくとも、北バルタの人と接触するのは避けなければいけない。


「その病は、南バルタや、他の地域には広がっていないんですか?」

 俺の問いに、トリリアさんが頷く。

「それは大丈夫です。南バルタは臨時政府の対応が良く、疫病を北バルタまでのクブン関で食い止めているそうです。庶民の暮らしも食料の放出などが有り、楽になっているそうです。ただ、その裏で、封じ込め作戦に出動した軍の兵士たちも疫病によって命を失った人も多数いるとか・・・・・・」


 命がけの仕事だな。これには頭が下がる思いだ。

 戦ならともかく、疫病相手ではいくら鍛えていても意味が無い。

 俺とファーンが顔を見合わせて、生唾を飲み込む。アールは平然としている。

 アールの願いは、俺が消えないで生きている事だ。自分の生死には頓着していないようで、それが問題だ。


「・・・・・・なるほど。分かりました。注意します」

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