第九巻 外伝短編 9   「黒竜の秘密」

 創世竜にして、最大最強のワシ、黒竜の毎日は忙しい。


 以前はそれ程でも無かった。


 ワシの宝物の把握や管理は、ワシの能力で勝手にやってくれる。更に、人間共が持っている宝物も探しに行ったりする。

 

 これは希にではあるが、他の創世竜の宝物の様子も探りに行く。特に赤竜は、宝物が好きなくせに、管理がなっておらん。

 じゃから、ワシが定期的に管理しに行ってやっておるのじゃ。

 なぜか、いつも赤竜の奴は留守じゃがな。

 一方で、三頭竜の奴はガードが堅いので、ワシが管理してやる隙は無かったのう。


 

 後は、黒竜島の管理かの。

 不埒なマネをしておらぬか、監視をしておる。


 じゃが、大抵の時間は、する事が無いので、趣味で宝物で遊んだりしておった。


 これも、ワシの能力が多岐に渡って万能ゆえの事じゃ。

 さすがワシじゃ。素晴らしい。




 じゃが、最近は本当に忙しい。

 エレスの1日は25時間じゃが、一時といえども気を抜く事が出来ない状況になっておる。

 これも全て、あのカシムめのせいなのじゃ。

 あやつと会ってから、ワシの日常は、すっかり様変わりしてしまった。


 それまでは、大抵の時間を、宝を保管しておるデナトリア山で過ごしておったのじゃが、この頃は、ほとんどを館の方で過ごしておる。


 なぜ、そんな事になったのかじゃと?

 フフン。

 それはカシムの奴と、ワシが「相思相愛」じゃからじゃ。

 それ故に油断も隙も無いのじゃ。



 あ!ほ、ほら。またじゃ!!

 カシムの視線を感じるのじゃ!

 

 あやつはワシが目を与えてから、暇さえあればワシの事を覗き見ておる。

 本当に甘えん坊で困ったお兄ちゃんじゃ・・・・・・。

 ちょっと、待っておれ! 

 ワシは今、普段着なので、着替えてくるからのう。


 さて、今日はどんな服を着て、カシムの目と心を癒やしてやろうかのう。




 今日は、パジャマじゃ!!

 どうじゃ?カシム!

 似合っておろう!愛くるしかろう!!

 ワシはあれから、時々こっそり余所の国まで行って、服を手に入れておる。ドランの街ではミチルに会ってしまうかもしれんからのう。

 もちろんお金を出して買っておるぞ!!

 じゃから、カシムの知らん服が沢山増えたのじゃ!!

 



 ちょっと!!カシムめ!

 今は風呂に入っておるというのに、こらえ性の無い奴じゃ!!

 ワシとて、こっそり覗かれると恥ずかしいんじゃ!

 どうせなら、こっちに来て一緒に入ってくれれば良いのに・・・・・・。

 そうしたら、カシムの旅の邪魔になるからのう。ワシも我慢しておるが、カシムも我慢しておるのじゃな。

 それならば、存分に覗くが良い!!

 こんな事許すのは、カシムだけじゃからな!





 無論、カシムめの相手ばかりしていて忙しい訳ではないぞ。

 何故か、最近は、ワシの住処に冒険者共がやってくる事が増えた。

 ふむ。

 また愚か者共が、ワシの住処に近付いて来おった。

 そうなると、ワシもデナトリア山の住処に行かねばならん。

 

 そして、黒竜の姿で出迎えるのじゃ。

「こ、こ、黒竜様!ど、どうか私を、竜騎士としてお認め下さい!この宝物を進呈致します」

 たわけた事をぬかしおる!!

 ワシは宝物には、もうさほどの執着も無い!!

 それに何よりじゃ!


『愚か者が!!ワシが竜騎士と認めるのはカシムだけじゃ!!』

 

 無論怒鳴って追い返すだけで、むやみに殺したりはせん。ワシは白竜と違って、カシムが残念がるような事をするつもりはもうない。

 追い返すだけじゃ。宝も持ち帰らせるわ。

 こんな奴らが、今月だけで、もう3組も来ておる。

 うんざりじゃわ。

 


 

 終わると、大急ぎで館に戻る。

 カシムがいつワシの姿に癒やされたくなっても良いように、自分磨きをしなければならんからのう。

 じゃから、時々、大陸の適当な所で、食事を上手に食べる練習とかしておるし、髪の手入れを、人間に教わったりしておる。

 見よ!今日は三つ編みじゃ!!

 あ、編み込みとかは、まだ無理じゃ。

 気のよさそうな女に教わっているのじゃが、いつも上手く聞き出せるものでも無いからのう。

 大体、ワシに人間社会の事はわからんから、困っておるし、黒竜島の島でウロウロする訳にはいかんから、いつも遠くの国に行かねばならん。

 リラとか、ミチルとかに、もっと色々聞いておけば良かったわい。




 そう言えば、最近ジーンがワシに会いに来おった。

 カシムに言われて来るようでは誠意が感じられんが、そんな事で腹を立てるほど狭量ではない。

 それに、カシムの話しを沢山聞けたから、ワシは大満足じゃった。

 じゃから、ワシの宝をいくつか持たせてやった。

 しかし、あのジーンがおしゃべりになったものよ。カシムの話しをさせると、ずっとしゃべり通しじゃ。3日ほど滞在したが、それでもワシもジーンも物足りなかったのう。

 今度は一ヶ月ほどいて貰いたいわ。



 

 しかし、「相思相愛」とは、中々「ストレス」が溜まるものじゃな。

 会いたくても会えないのじゃ。カシムは好きにワシを見ておるから良かろうが、ワシはカシムの事は見えんし、今どこで、何をしておるのか、全くわからんのじゃ。

 分かるとすれば、カシムたちが監禁でもされた時じゃな。

 それはそれで困る。

 じゃから、ワシはちょっと最近はイライラしておる。

 鬱憤が溜まっておるのじゃ。

 

 じゃが、心配無用じゃ。ワシがイライラした時には、いつもストレス解消にやっている事がある。あれは爽快じゃ。

 じゃから、どうしても我慢できなくなったら、ストレス解消に出かけるとしよう。

 うむ。それまでは、カシムの心のオアシスとして、カシムの旅をサポートするのが、妹たるワシの務めじゃ。

 

 っと、またカシムの視線を感じるわい。困ったお兄ちゃんじゃのう。

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