魔都ガイウス 邪眼の魔女 6
「ほら、マイネーにも」
俺は8個ある内の1つのブローチをマイネーに渡す。
「オレ様にもか?別に良いのに」
「竜の団の証だ」
俺が言うと、マイネーは嬉しそうに受け取る。
「そう言う事なら、受け取らない手はねぇな!」
ちなみに、女性陣はパインさんと奥の部屋に籠もって快適おパンツを作って貰っているようだ。俺たちは店の方に追い出されてしまった。
その間に、メッセンジャー魔導師を通じて、「闇の蝙蝠」に関して、祖父に伝えた事を知らせておく。
「ああ。オレ様も、獣人国の信用できる奴に連絡入れて探らせ始めたところだ。以降は、ジーンとやり取りして事を進めていく。お前らはお前らの任務に専念しろ」
頼りになるぜ、本当に。俺は頷く。
「しかし、パインさんは、いい人だな」
俺が言うと、マイネーが嬉しそうに笑う。
「俺にはなついてねぇが、可愛い奴だ。だけど、あいつは本気を出したら俺よりずっと強いんじゃないかと思っている」
まあ、創世竜のハーフが、もしいたとしたらと考えれば納得できる。
・・・・・・サイクロプスには生殖能力があるわけだろ?創世竜に無いと言い切れるのか?
これは新たな疑問が生まれたぞ。
「さて、名残惜しいが、オレ様そろそろ行かないといけない。リラさんにも挨拶してぇが、ちょっと無理そうだな」
マイネーは苦笑を浮かべると、そのまま静かに店を出て行った。器の大きな男は、去り際もカッコいいな。俺だったら未練たらたらになりそうだ。
しばらく待っていたら、満足そうな顔で、女性陣が出て来た。
「パインちゃん!ありがとう!」
口々に言っている。パインさんもどこか嬉しそうに手を振る。
随分親しそうだ。一気に距離が縮まったように感じる。女って不思議だな。
「また来い。ドラゴンドロップは余っているからな」
パインさんが、残りのドラゴンドロップを俺に返そうとするので、俺はそれを押しとどめた。
「パインさん。それは取っておいてください。お礼です。必要があったら使って貰って構いません」
俺がそう言う。格好付けたつもりは無い。高価な物だから、あまり持ち歩いていたくなかったのが正直な気持ちだ。
「わかった。次の時のために、保管しておく」
パインさんが頷く。
「その目はどうする?機能が不十分だが直すか?」
パインさんが俺の右目を指さす。
黒竜に貰った目だ。ドラゴンドロップで作った義眼で、なんでも「愛する人を見て、会いに行ける」とか、意味の分からない機能を付けられた目だが、普段は全く使えない。物を映したのは、アクシスがピンチだったときで、機能したのはあの時だけだった。
おかげで助かったが、普段は目にはまったただのガラス玉と変わらない。
「あ。いや。これはこのままで良いです」
俺はとっさに断る。仲間たちは不思議そうに俺を見る。
「直せるんなら直してもらえよ。黒竜と連絡取れるようになる目なんだろ?」
仲間には、それっぽい感じで話している。
「いや。それほど便利な物じゃないし、困ってないから。それに人にいじられたら、きっと黒竜は怒るだろ?」
俺はそう言って誤魔化す。
「ああ。確かにな~!」
ファーンが「ヒヒヒ」と笑う。
だが、俺が断った理由は、それもあるにはあるが、もしアクシスを映し出す能力があったとしたら、四六時中あいつのプライベートを映し出す事になる。それは嫌だし、俺がアクシスを愛していると言う事になってしまう。それも怖い。
正直言って、パインさんに「機能が不十分だ」と聞いて、ホッとした部分がある。
「そうか。また、用があったら店に来い」
パインさんが見送る中、俺たちは手を振って店から出る。
それから、宿に戻り、それぞれにマントを渡して、リラさんからエレナに下着をこっそり渡して貰ったりした。
ミルはアームガードとクナイを嬉しそうにしまう。
ファーンはマントを何度も出し入れする。更に、色を変えて遊んでいた。
俺は剣の柄を握り、早く振ってみたくて溜まらない気持ちを抑えていた。
アールは早速イヤリングを身に着ける。
女性陣は、この後、街に出て買い物をするそうで、その時にアールの武闘家としての装備を、改めて見に行く事になっている。武器はあるが、服装だな。暗殺者っぽくならないと良いのだが・・・・・・。
そして、俺とランダで船の手配をして、出発の日取りが決まった。
俺たちはアール海を隔てた西の大国グレンネックに直接向かうグレンネック商船に乗り込む事になり、8月31日の朝に出港する事になった。
ランダは翌日、8月32日にグラーダに向かうグラーダ商船に乗る事が決定した。
この時期は嵐も無いので、予定通りに出港できるだろう。
ランダとも、マイネーともしばらく別行動だが、互いに互いの果たす事を頑張り、また再会する事を約束し合った。
◇ ◇
アインザークを南北に貫くシヴァルス山脈の一帯は、標高2500メートル以上の高さを持つ高原地帯である。
その高原地帯をグラン高原という。
グラン高原にも町や村はある。
小さな村の外れに、1軒の小さな家がある。
その中に、地獄教のルドラがいた。
ルドラの他には7人の男たちが立っている。
「さあ。生き残った我々で、新たな地獄教を復活させよう」
ルドラが静かに語りかける。
「貴様らはラジェット派、カキーマ派、ジンス派の生き残りだ。だが、何故同じ地獄教でも宗派が分かれたのか?」
ルドラの問いに、1人の男が答える。
「使える主人、つまり魔王様が違うからだ」
「その通りだ。・・・・・・で、お前はその魔王様の御名(みな)を知っているか?」
男は首を振る。
ルドラは隣の男に顔を向けるが、その男も首を振る。
「知らんのか?」
ルドラが同情を含んだ表情を見せる。
大抵の教徒は自分が仕える魔王の名前を知らない。
すると、一番端にいた男が答える。
「・・・・・・知っている。だが、その御名を口に出す事は出来ない」
男の言葉に、ルドラが歓喜の表情を浮かべる。
「そうか!お前は知っているのか!それは良かった。確かに魔王様の御名は口に出す事は憚られるな。良いだろう。私が代わりに答えてやろう!」
ルドラが腕を振り上げる。
「ラジェット派はゲネヴィ・エル・ズウィット様!カキーマ派はピルキア・ソウエン様!ジンス派はエオシク・ツイヲ様!」
ルドラが、魔王の名前を叫ぶ度に、地獄教徒たちは畏れて地面にひれ伏す。
「何を畏れる事がある!?」
それを見てルドラが叫ぶ。
「どの魔王様も、私がお仕えする魔王様の
ルドラの声に、地獄教徒たちは頭を上げてルドラを仰ぎ見る。
「我が主は地獄の第七階層の大魔王様である!無論御名は言えぬ!!」
地獄教徒たちはルドラに畏れ入って頭を下げる。
自分たちでも知らなかった、各宗派の魔王の名前を知っていたのだ。唯一知っていたであろう男も、異を唱えなかった。
であれば、ルドラの言っている事は本当なのだ。
「大魔王様の遣いが私に指示された。全ての地獄教を1つにすると!
「はは!」
地獄教徒たちが、地面に額をすりつける。
「地獄をこの世に、顕現せしむる!」
「地獄をこの世に!!」
第九巻 「魔都ガイウス」 完
第十巻 「血海航路」へ続く
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