魔都ガイウス ランダの目的 3
「俺の名前は、ランダ・スフェイエ・スリダン・ローファだ。
俺は第3世代のエルフで、父が第2世代のエルフ。母は普通のエルフだった。グラーダのメルスィンに住んでいた。
だが、父はどうしようも無い男だった。多額の借金をしたあげくに、母と幼い俺を捨てて姿を消した」
『・・・・・・ランダの父は、ヒシムさんからすれば甥にあたるんだよな』
ミルは良い子なんだが、その父親は・・・・・・。多分リラさんもファーンも同じ感想を持ったのだろう。思わず目が合う。
「俺は、父の名前から取った部分をそのまま捨てる事にした。だから、今はランダ・スフェイエ・スと名乗っている」
『ああ。だから「ス」さんなんだ。変なのとか思っていてすみませんでした』
これも同じく、ファーンと目が合う。
「そこで、母が懸命に働いて借金を返そうとしたのだが、俺を養ってはいけなくなった。それを救ってくれたのが、カシム。お前の祖母御、クレセア様だ」
「ええ?って事は、ランダ・・・・・・」
俺は驚く。
「ああ。ペンダートン家の孤児施設で面倒を見て貰っていた」
これは驚きだ。
「更に、クレセア様は俺を魔法学校に通わせてくれた。俺と共に、施設から魔法学校に通わせて貰った女性に、シンシアという人がいた。
魔法学校を卒業し、魔法使いとして働き、借金を返した後、母は病で亡くなったが、その後、俺はシンシアと結婚する」
「結婚してたんですね~」
あまり関心無さそうに、エレナが小声で言う。
「俺たちは冒険者としての活動を始めていた。共に、武器も魔法も使えたので、2人で旅をしていた。
だが、ある日、シンシアが俺の目の前で消えた」
「消えた?!」
「正確に表現すると、『落ちた』。地面に吸い込まれるように落ちていった。当然穴など開いていないし、トラップでも無い。普通に街道を歩いていて落ちたんだ」
「・・・・・・聞いた事がある。目の前で落ちるように消える人がいるという事件。あれは本当だったのか・・・・・・」
俺が呟く。
「そうだ。そして、俺はその原因にたどり着いた」
ランダがそこまで言うと、俺にも原因が分かった。ランダが異常に地獄に関心がある理由に思い至ったからだ。
「地獄・・・・・・か?」
俺の言葉に、ランダが頷く。
「地獄だ。エレスでは、希に地獄の穴が一瞬だけ開き、たまたまその上にいた人が、生きたまま地獄に落ちるのだそうだ。だから、シンシアも、生きたまま地獄に落ちたと思っている」
「ランダは、地獄に行って、奥さんを探したいって事か?」
ランダが頷く。
「普通に考えれば生きてはいないだろう。だが、妻は俺より強かったし、したたかだ。あるいはと希望を持ち続けている」
「・・・・・・」
俺たちには、何も言う事が出来ない。
「カシムたちと共に行動する目的に、お前といた方が、地獄の手がかりが掴めると思ったからだ」
俺は納得する。でなければ、ランダのような男が、俺の仲間になるはずも無い。
「それだけじゃないよね~」
ミルがランダの顔をのぞき込むように言うと、ランダがはにかんで頷く。
「そうだな。ミルや、カシムがいる」
そして、俺の方をジッと見る。
「カシム。俺は一時期、孤児施設で働いていた。だから、ペンダートン家に来たばかりの頃のお前を知っている。それで・・・・・・何というか、お前の事を弟の様に感じている。
これはあの孤児施設で育った奴、全員に言える事だ。みんながお前の事を気に掛けている」
言われて、俺は驚く。そんな風に考えた事なんて、今まで一度も無かった。
思えば、俺は訓練の毎日で、大体意識を失って部屋に運び込まれて、朝になってまた家庭教師との勉強と訓練。
だから、同じ敷地内に、孤児施設があって、子どもたちが大勢いるのに、一緒に遊んだ事など一度も無いし、顔を合わせた事もほとんど無かった。
「でも、今その話をするって事は、あれか?」
ファーンが眉根を寄せる。「あれ」って何だ?
「そうだ。地獄への手がかりが見つかったと思う」
まさか、ランダ。
「エルフの大森林で貰った、『地獄目録』の本。あれに書かれていた内容と、昨日の城塞都市での事件で、1つの仮説が浮かんできた。まあ、説明してもあまり意味が無いから、詳しくは省くが、とにかく、『不死海』沿岸にヒントがありそうなんだ」
「不死海」。グラーダの西側に広がる海だ。
沿岸と言っても、何カ国にも渡って広がる海なので、かなりの距離になるはずだ。
「グラーダ、オルスンの沿岸のどこかだろう。グラーダが秘している預言書の原文がそこにあるらしい」
それでもかなり広大だ。だが、ランダは行くだろう。
俺は頷く。
「分かった。ランダは自分の目的を優先してくれ」
「・・・・・・そっか。オレたちとは進むべき道が違うもんな・・・・・・」
そうだ。それだと、ランダはここからグラーダ行きの船に乗る事になる。俺たちはグレンネックの西の奥地にある、紫竜の領域を目指すのだから、アール海を横断して、直接西の大国グレンネックに行かなければならない。
ここで道が
「すまないと思っている」
ランダが頭を下げる。
「いいさ。それぞれに目的があって当たり前だ。俺たちは冒険者なんだからな」
俺が言うと、ファーンが「ヒヒヒ」と笑う。
「良い事言うじゃねーか、カシム!オレはお前のそういう所が好きだぜ!!」
お、おう。照れるぜ。
「きぃやああ!」
何故か、エレナと、リラさんも叫ぶ。
「聞き捨てなりません!何でこんな変態スケベ野郎を褒めるですか!?」
ちょっとこれは胸に刺さる。
「違います!そうじゃなくって、どさくさに紛れて、何言ってるんですか?!」
リラさんが叫ぶ。
ファーンが真っ赤になる。
「バ、ち、ちげぇよ!そう言うんじゃ無くって、人として、好きだって話だろ!?話の前後で理解しろ!!」
そうだそうだ!俺はちゃんと理解してたぞ、相棒!!
俺は親指を立ててみせる。
「兄様はみんなに好かれているんですね」
アールがまっすぐな目で俺を見つめて、嬉しそうに笑う。
「あたしは嫌いです!!」
もうエレナは黙っててくれないかな・・・・・・。
「っと・・・・・・悪い。何か話が変な方に行って」
俺が言うと、ランダがクックッとおかしそうに笑う。ランダが声を出して笑うなんてレアだ。
「カシムらしくて良い。俺もお前が好きだ。無論、人としてだ」
ランダが冗談を言ったので、ファーンとリラさんも目を丸くする。
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