届かぬ願い 聖竜 2
俺たちは、馬だけ預けると、そのまま休憩も取らずに聖竜の棲むニザン山に向かった。
ここからニザン山までは、順調にいけば2日で着く。探索に2日、帰りに2日。最短で6日で帰ってこられるだろう。
それに、すでに聖竜の領域に入っているからには、聖竜の方でも俺たちの存在にはとっくに気付いているはずだ。
もしかしたら、聖竜の方から出て来てくれるかも知れない。なにせ、聖竜は人間を擁護する創世竜としては、アズマの天竜に次いで積極的だ。
常に前方に見える、円柱型のニザン山に向かって歩き続けると、背の低い、尖った岩が、所々天に向かって突き立つ地帯に行き着いた。
「ここから、野獣や竜が多く棲息する地帯だ。気を引き締めて行くぞ」
「おうよ!」
仲間たちの返答を聞き、いつでも戦える様に準備をしながら進む。
「降ってきそうだね~・・・・・・」
空を見上げてミルが呟く。
この辺りはこの時期雨期らしい。雨が良く降る。
「雨に濡れないマント欲しいなぁ」
ファーンがぼやく。まだ新しいが、ファーンのえんじ色のマントも、結構酷使しているので、撥水し辛くなっている。かく言う俺のマントもそうだし、マイネーのマントは撥水自体ほとんど無い。
ミルは濡れてもへっちゃらだし、リラさんは精霊が勝手に雨をしのいでくれる。
ランダは灰色マントを被っているが、そのマントもただのマントじゃ無いらしく、まず雨が染みこまない。万一染みこんだ時は、例のカーテンレールを発動すれば、雨漏り対策はばっちりだそうだ。
「マント・・・・・・。欲しいなぁ~」
俺もため息を付いてしまう。
「オレ様は燃えない服の方が欲しいけどな。濡れても炎で乾かせば良いしな」
一応、かなりの火耐性を持つ服を着用しているが、それでも、マイネーが本気を出したら服は燃えてしまう。特に最終奥義など使ったら全裸必至だ。
「まあ、それでも俺たちは、荷物がかなりコンパクトだから、他の冒険者たちよりはかなり旅しやすいんだけどな」
ハイエルフのリュックやポーチのおかげで、俺たちの荷物はほとんどが個人の装備程度だ。更に、趣味の荷物まで持ち運べる快適さ。
俺なんか、ポーチの中に、考古学者道具セットを新調してフルセット持ち歩いている。「軽戦士」なのにな。
リラさんも、本人は内緒にしているらしいけど、実は2本目のハープをこっそり買って、自分のポーチに入れている事を、俺は知っている。
そんな事を考えていたら、ポツリ、ポツリと雨が降り始めた。
「リラァ~~~」
ファーンが情けない声を出す。
「はいはい。わかってるわよ」
リラはそう言うと、指をサッと振る。
精霊魔法で一応の雨よけを施してくれる。
「あまり使いすぎないで大丈夫ですからね」
一応念を押す。
「ありがとうございます。他の強い精霊魔法を使ったら、今の魔法は維持出来ないですから。その時は遠慮無く解除させて貰います」
雨よけ魔法は、ウチのパーティーでは誰も使えないので、結局精霊魔法に頼ってしまう。
「じゃあ、その代わりに、オレ様が防御魔法をいくつか掛けておきます。リラさんには索敵系の魔法をお願いします」
マイネーが提案して、防御力向上魔法、精神魔法防御魔法、各属性耐性魔法、疲労軽減魔法、魔法防御魔法、筋力向上魔法、俊敏性向上魔法を掛ける。
リラさんは、監視魔法探知魔法、索敵魔法、魔力感知魔法、隠密魔法を掛ける。
更に、俺は周囲30メートルの「無明」で気配を探知する。
なかなか支援系は充実しているのではないかと思う。
「じゃあ、ミルも行ってくるね!」
ミルは小瓶を俺に渡して、ピュ~~~ッと風のように走って先行していった。
このハイエルフの目と耳も、かなり優秀だ。
と、早速小瓶から声が聞こえる。
『お兄ちゃん。前方500メートルにトレボルドラゴン3頭。そっちに向かっている。多分そっちを捕捉していると思う。ミルは戻らないで、更に先行偵察するね』
俺は苦笑する。
「トレボルドラゴン3匹だ。戦闘準備」
随分ミルに信用されているな。その程度はミルの手助けは必要ないだろうと言う事か。
白竜山では、1人でトレボルドラゴンと戦って、瀕死の状態で何とか倒す事が出来たが、今は違う。仲間もいるし、俺自身も強くなったはずだ。
「大将!やっちまっても良いんだよな?!」
マイネーの言葉に、気は進まないが頷く。
「仕方が無い。捕食される訳にはいかないからな」
被捕食者の必死の抵抗って奴だ。トレボルドラゴンは残忍な捕食者だ。手心を加えて、仲間を危険にさらす訳にはいかない。
やがて、前方の岩陰から、ゾロゾロと3頭のトレボルドラゴンが現れた。俺が戦ったよりも一回り以上大きい。
「ま、黒竜見た後じゃ、これでビビったりしないけどな」
俺の言葉に、マイネーが吹き出す。
「リラさんと同じ事言ってるぜ」
「え?うそ?!」
うう。かっこつけたはずが、恥ずかしい。リラさんまで赤くなってる。
「じゃあ、オレ様は右の一番大きいのを貰うぜ!」
マイネーが言う。
「では、俺は左の奴を引き受けよう。真ん中のは3人でいけるな?」
ランダの言葉に、俺たちは頷く。
「よし、行くぞ!!!」
かけ声と共に、俺はトビトカゲの投擲一閃。さすがは魔剣だけあって、トレボルドラゴンの硬い鱗を貫通して、腕の付け根に突き刺さった。
戦闘はすごかった。
マイネーは、黒炎斧の炎でトレボルドラゴンを焼くと、首を狩り取り、あっさり撃ち倒す。獣化すらしないで、易々と倒した。
ランダも、土魔法でトレボルドラゴンを地面に縫い付けると、「腐食の
俺たちもがんばった。俺は剣で傷を負わせ、リラさんが風の精霊魔法で止めを刺す。ファーンはがんばってメモを取っていた。
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