神の創りし迷宮 打ち上げ 6
俺は今回の冒険で、いろんな人に出会った。
世界には凄い人たちが沢山いる事、そして、皆が力を合わせて発揮できる強さを知る事が出来た。
本当に聖魔大戦が起こったとしても、この冒険者たちの力は、とても大きな力になるだろうと感じた。
今回は、その前哨戦の様な形で、今の冒険者たちの経験になった気がする。
ただ、今回の戦いで100人近い冒険者が帰らぬ人となってしまった。
俺はまだまだ弱い。
レベルが32だった事に、少しホッとしたけど、やはりまだまだ弱いんだ。だから、努力して、これからも力を付けていきたい。大切な誰かを守る為に。
「竜の団!お疲れ!」
「よお、カシム!」
俺たちがのんびりメシや飲み物を飲み食いしていると、多くの冒険者が声を掛けてくれる。
アルフレアのメンバーもやってきた。
「ウチのリーダーが変なこと言って悪かったね」
ドワーフのベンジャミンが耳打ちするが、鎧を着ていないドワーフは胸の主張が激しいので、俺はドギマギしてしまう。
「は、反省してるよ!!」
リードが頬を膨らませる。
「いつもは真面目にがんばってるのじゃが、センス・シアの本能が時々でるのじゃな。はっはっはっ!!」
リザードマンのボボアが笑う。
「ぼ、僕たちの種族を侮辱するな!!」
リードがムキになるが、無気力魔導師のアークレアが小声で呟く。
「ち〇ちん。ち〇ちん」
「プフ~~~~~ッ!!」
リードが吹き出して笑いを堪えるのに必死になる。
「センス・シアを殺す、必殺魔法だね・・・・・・」
「あの。カシム様。あの時、わたくしの事を庇って下さってありがとうございました」
シズカさんが丁寧に頭を下げてくる。
「と、とんでもない。お互い様です。俺たちも助けられました」
俺が言うと、ベンジャミンが笑う。
「そうそう。おシズちゃんは律儀だよね。オレたち冒険者は、お互いに助け合うのが普通なんだよ」
「そうですね」
俺たちは笑い合った。
「また、どこかで一緒に戦えるといいね!」
リードに引き連れられて、アルフレアはその場を去って行った。
「灰色さーん!!」
明るい声が掛けられる。
ランダが声の方を見ると、やや面倒くさそうにため息を付いた。
「ああ!!ちょっと、あたしの事面倒くさいと思いましたね!?」
声を掛けてきたのは、ランダが臨時でパーティーを組んでいたメンバーの、魔法使いシスだ。
「事実、面倒くさいだろうが」
そう言ったのは、後ろからのんびり付いてきていた、シスの幼なじみであるイェークだ。
ランダは、2人に手を挙げて答えるのみである。
「あの男は、あたしに酷い事ばかり言うんです!」
シスは、ランダに告げ口するように言う。
シスは、ランダの態度に全く物怖じもしなければ、遠慮もしない。
「お、おい!ランダさんに変な事言うな!!」
イェークが焦ったように弁明する。
何だか、ランダは2人に凄く尊敬されているようだ。俺たちが合流する前に何かあったのかな?
シスは、明らかにランダに好意を寄せているように見える。
イェークはそれで良いのか?どういう関係なんだ?
・・・・・・まあ、俺とアクシスみたいなのもあるし、幼なじみと言っても色々あるのだろう。
「いよう、灰色の旦那」
ホクホク顔で、臨時パーティーでリーダーをやっていたビルが声を掛けてくる。髪の毛が心配なモンクのテリテアと、スプリガンのレネップもいる。
「ああ、ビル。世話になったな」
ランダが言うと、レネップが笑う。
「世話になったのはこっちだぜ。あんたがいなきゃ、最後まで生き残れなかっただろうし、今回の報償に与る事も出来なかったからな」
「うむうむ。全くその通り」
テリテアが大きく頷くので、見ているこっちは頭頂部の髪がこぼれ落ちそうでハラハラする。
「で、まあ、俺たちこのまましばらくは一緒にパーティーを組む事にしたんだよ」
ビルが苦笑する。
「そうか」
ランダは無表情で頷く。
「あれだな。ちょっと危なっかしい奴等ばっかりだから、あんた無しじゃ放っておけねぇ」
ビルの言葉に、ランダはイェークとシスを横目で見て苦笑する。珍しいな。
「ア~~~!灰色さん!ひど~~~い!」
そう言いながらも、シスは嬉しそうにクスクス笑う。良く笑う子だ。
「俺たちは、竜騎士探索行だが、またどこかで共に戦う事もあるだろう。その時まで、無事でいろ」
ランダの言葉に、シスとミルがニンマリ笑う。ランダが優しい言葉を掛けたのが嬉しかったのだろう。
「応援していますね、灰色さん!みなさん!」
シスがにっこり笑う。イェークは生真面目に、俺に向かって頭を下げて言う。
「カシムさん。共に戦えて光栄でした!」
そして、それぞれに言葉を交わして、彼らは去って行った。長くパーティーを組めば、いずれパーティー名も付くようになるのかも知れないな。
次に、アカツキのテンマがやってきた。フルフェイスは被っていないが、黄金鎧をビシッと着ている。
「カシム・ペンダートン。君の活躍が正当に評価されなくて残念だ」
いきなりそう言って来る。
「いや。適正な評価だと思います」
俺はそう言う。俺だけの力で何か為せたとは、到底思えない。だから、勲功第5でも評価が高いくらいだ。
「君は殊勝な男だ」
テンマはそう言うと、キッと俺を見る。
「カシム・ペンダートン。・・・・・・いや。冒険者カシム。そして竜の団。俺は君たちをしっかり覚えておくぞ」
それだけ言うと、アズマ人らしく、丁寧に頭を下げて去って行った。
人々がざわめいて道を開けると、その先からザンと、えーと、チャッピー的な可愛い名前の2人組の黒猫メンバーズがやってくる。
よせば良いのに、ミルが嬉しそうに手を振る。
「ザーン!」
怖い物知らずだよな。
ザンは俺たちに気付くと、ゆっくり歩いてくるので、俺は席を立ってあいさつする。
「クエストでは色々助けて頂き、ありがとうございます」
「ああん!?誰だてめぇは!?」
モヒカンが凄んで来る。マジでか?!本当に頭悪いんだな。
それをザンが一睨みで黙らせる。
「おう・・・・・・」
ザンは静かに一言だけ言う。
「お前は怪我無いか?」
ザンが、嬉しそうに笑うミルに声をかける。
「うん!ありがとう!!」
ミルが答えると、身の毛のよだつ様な恐ろしい笑みを浮かべてザンが言う。
「良かったな。子どもは大事だからな」
それだけ言うと、モヒカンとエルフを引き連れて去って行った。
「ザンって優しいよね~」
ミルが言うが、素直には同意できない。でも、俺も変な先入観から、偏見の目で見ていたとは思うし、反省する。
「さて、俺たちは、もうここに用は無い。食うもの食ったら、さっさと出発するか!!」
打ち上げはこれから夜まで、いや、夜を徹して続くだろう。
だけど、俺たちの旅はまだまだ終わらないのだ。
「おうよ!」
「はい!」
「りょうか~い!」
「うむ」
さあ、次の旅だ。
第七巻 -完-
第八巻 「届かぬ願い」へ続く
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