獣魔戦争 特攻 3
「よし!ここまでは作戦通りだ!!」
敵の布陣から、行動まで、今のところほぼ作戦通りだった。ここで足を止める事もほぼ想定内だった。なので、防衛陣を敷いた直後から、カシムたちの準備は開始しており、騎馬隊の参戦で出来た混乱が、第一軍にまで波及したこのタイミングで、一気に攻勢に変える。
「行くぞ、レック、アレイスタ!!」
レックは炎、アレイスタは風の魔法が得意だった。リラとセルッカは、今は別の魔法を練っている。
カシムは火炎刀を振りかぶる。
「カウント、5、4、3、2、1。今!!!」
カシムのカウントに合わせて、味方前衛が左右にパッと分かれる。
『エルゼルドッッ!!!!』
アレイスタの風魔法により、大気がうねり1本の竜巻がアレイスタの杖から、敵に向けて吹き荒れていく。昨日のリラの精霊魔法に比べれば規模は小さいと言わざるを得ないが、強力な魔法である。
『プロミネンスッッ!!!』
レックの炎の柱の魔法が、アレイスタの風魔法と合体する。風魔法と火魔法は互いに威力を高め合う効果がある。
炎は巨大化して、敵に真っ直ぐ伸びる竜巻の中を、威力を拡大させながら突き進み、周囲にも炎をまき散らす。
マイネーの火炎や、極大魔法には比べるべくもないが、凄まじい破壊力を持って、コボルトたちの盾の壁を吹き飛ばす。
それによって出来た隙間はそれでも細いし、すぐに埋められてしまうだろう。
そこに、カシムが間髪を入れず、最大に闘気を込めた一撃を放つ。崩れた体勢に、追い打ちを掛けられ、敵の防御陣が乱れる。
「盾部隊、突入。こじ開けろ!!!」
盾を持った、大柄な重戦士たちが開いた隙間に盾ごと体をねじ込んで、強引に隙間を広げて行く。
「全軍!突撃!!」
カシムは叫ぶと、ここぞとばかりに火炎刀に闘気を溜めつつ「圧蹴」を使う。
閃光一線とは行かないが、一気に開いた防御陣にクサビを打ち込むべく、敵の真っ只中に飛び込むと、カシムは火炎刀を大きく横薙ぎにする。
炎で火炎刀の刃が延長して、周囲のコボルトをまとめて10体は切り伏せる。
激しい連続の攻撃によって、突破口が出来上がる。盾部隊が通路を拡大させつつある中、味方もカシムの後に続く。
「スマンが、行くぞ!!」
カシムは盾部隊に告げる。盾部隊は、最後まで、通路の確保に専念する事になる。そして、突撃部隊が敵本陣にたどり着くまで、この第一軍に残り、押しとどめるのが役目だ。下手をすると全滅の恐れもある。
「ご心配なく!!私たちが死ぬ前に、オゥガロードを倒してくれると信じてます!!!」
盾部隊を指揮するクマ獣人のグンバルがカシムに叫び返す。
「おおおおおおおっっ!!」
他の盾部隊も、雄叫びを上げてカシムたちの背を押す。
「抜けるぞぉぉぉ!!」
盾部隊を残し、131名は、敵第一軍を突破した。
敵の本陣は、主構成がオークだが、その中にオゥガもいる。オークが1500にたいして、オゥガが500だ。
そして、オークやオゥガは、ゴブリンや、コボルトとはまるで違う。
知能があり、体が大きく、タフで力強い。集団での行動にも慣れている。
しかも、中には「シャーマン」「メイジ」と呼ばれる魔法が使える個体も存在する。
ゴブリン、コボルトの3000の一軍を突破するのに、すでに死力を尽くしているカシムたちだが、更に本陣にも切り込みを入れなければならない。
敵本陣の奥で、モンスター軍団全軍を掌握する、統率スキルを持つ絶大な支配力を持った個体、オゥガロードまで、こちらの最終兵器であるマイネーを、温存したまま送り届けなければならないのだ。
カシムたちには、もうこれ以上の策も無ければ、援軍も無い。
作戦も、ここまで来たらただひたすら突き進むだけだった。
敵第一軍を突破したカシムたちは、敵本陣までの空白の約100メートル、一瞬息をつく事ができた。
走りながら、息を整え、手にした武器の状態を確認する。
敵の第二部隊は、騎馬隊に寸断され混乱しているが、赤目隊長は流石に引き時を心得ていて、敵第二軍の後方から離脱を始めていた。
騎馬隊は本陣攻略には参戦しない。敵第二軍は、奇襲を仕掛けられた為、大いにかき乱す事ができたが、本陣は騎馬隊に対しての備えは済んでいる上に、騎馬隊には魔法使いがいない。魔法攻撃を受けたら為す術が無いのだ。その為、被害を出さない為にも、本陣への参戦では無く、他の戦場に切り込みを掛けるのだ。進路から見て、恐らく南門に向かうのだろう。
しかも、混乱した敵第二軍を引きずって行き、こっちの本陣突入の時間を稼ぐ事にも成功している。
「流石だな、赤目隊長は。騎馬戦術をよく理解している。俺だってアレは真似出来ないな」
カシムが感心して呟く。
「こっちに援軍に来てくれても良かったんじゃ無いか?」
ファーンが言う。
「そうすると、敵第二軍も殺到してきて、俺たちに勝ち目は無くなるだろうが」
「ああ。そっか。そうだよな」
ファーンはすかさず手帳に記す。
「しかし、大きいな・・・・・・」
ファーンが、敵本陣のオークたちを見て唾を飲み込む。
「俺たちだけだと、本来は1体を全員で戦って倒すレベルだと思うんだけどな」
カシムが苦笑する。オークやオゥガは、本来はレベル10そこいらが戦うべき相手ではないのだ。
「とは言っても、リラさんも、ミルも、多分とっくにレベル15は越えてそうだからな」
「カシム。お前だって多分その位だろ?」
ファーンの言葉にカシムが苦笑をする。
「だから、俺じゃ無くって、火炎刀のおかげだ!なんたって、闘神王を足止めした伝説の武器だぞ!」
「ああ。それは言えるな」
カシムとファーンが笑う。
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