獣魔戦争  特攻 2

 鳥獣人の変化の自在さが際立つ一撃を、先行したバレルたちが、盾を構えるコボルト部隊に浴びせる。

 小さな翼を生やして、突進の推進力に加えつつ、攻撃の瞬間に翼で槍の柄尻を押す。部分獣化でも鳥獣人は体重が減るが、それを補ってあまりある、翼の筋力を利用しての一撃に、二重の盾を吹き飛ばす。

 しかし、盾部隊はその奥にも何層にもなっていて、防御陣全体としては微動だにしていない。

 そこに空から矢が降り注ぐ。

 制空権を押さえた効果として、上空から一方的に矢を振らせる事ができる。と言っても、空には4人しかいない。しかし、鳥獣人たちは、一度に4本の矢を放つ事ができる。それで、バレルたちが攻撃したその奥の盾部隊を、集中して攻撃して、隊列に乱れを生じさせるのに成功した。

「よし!ファーン、合図を頼む!!」

「おう!」

 ファーンがすかさず黄色い旗を上空に向けて振る。

 その合図で、飛行部隊が武器を弓から長槍に持ち替えて、急降下しながら、敵をなぎ払う。

 そして、そのまま地上に降りて、再び地上戦に移る。ただし、この時エランザとケイトスが敵の矢を受けてしまう。傷は深くないようで、すぐに戦闘を続行する。


「まだなのか!?」

 もうすぐ敵第一軍を突破できると思ったが、敵の最後尾がいつまで経っても見えてこない事に、カシムが焦る。

 カシムは気付いていなかったが、敵の本陣が、50メートル程後退し、そのスペースを利用して、第一軍の左右両端が、後退して、第一軍の最後尾に合流していた。つまり、敵は横陣から縦深陣に陣形を変えていたのだ。更に、第一軍と本陣の間には、川を渡ってきた敵第二軍が入り込もうとしていた。

「カシム!敵が陣形を変えてやがる!!」

 激しい戦闘の最中にいて、最初に気付いたのはファーンだった。この期に及んで、ファーンは腰の2本のダガーを抜いてもいない。本当に飾りなのかとも思うが、もう今更である。

「まさか!!ゴブリンロードは倒したはずだぞ!!」

 カシムは、第一軍を指揮するゴブリンロードを倒せば、細かい陣形移動は出来なくなると考えていたのだ。しかし、第一軍は敵本陣に近いという事を考えに入れていなかった。

 本陣からの指示が、想定より遥かに迅速で、また、ゴブリンロードより、オゥガロードの支配力の方が遥かに強い事を計算に入れていなかったのである。

「しまった!!」 

 カシムたちの足が、分厚い防御陣によって止められてしまった。

 足が止まったところに、全周からの激しい攻撃が仕掛けられる。

「防御陣!!」

 カシムが溜まらず指示を出す。盾を持った耐久力のある獣人たちで周囲を防御する。

 その間に、敵第二軍が、第一軍の背後に回り込もうとする。




 しかしその時、敵第二軍の左側面から、突如として出現した味方の騎馬部隊が突入する。

 完全に想定外の攻撃に、敵第二軍の動きが止まる。騎馬部隊は、数40騎程だが、騎馬の扱いに慣れているし、集団戦闘にも慣れていた。

 つまり、馬に乗って戦う訓練を受けている集団だった。一部、戦いには慣れていない者も見られるが、騎馬が疾駆すると、敵軍は大いに混乱し、陣形がみるみる崩れていった。

 

 この騎馬部隊はどこから来た援軍なのか?

 それは昨夜のカシムとマイネーの話し合いの中で決まった秘策だった。

 夜襲のどさくさに紛れて、策を施していたのは敵も味方も同じだったが、カシムたちは更にもう一つの策を弄していた。


 カシムたち同様に、たまたま居合わせて巻き込まれた形になる、赤目隊長率いる護衛部隊と、行商人たちである。

 カシムたちの策としては、この赤目隊長と、馬の扱いに慣れた御者に、夜襲のどさくさに紛れて、こっそり裏の水門から敵の包囲を抜けて、町から南の湿原に繋いだままにしてある馬を回収して、戦闘開始と共に、敵の第二軍に奇襲を仕掛けてもらうようにしていたのである。

 今、武装して裏門の防御をしているのは、武装しているように見せかけた商人たちである。無論彼らは、もし東側で戦闘が始まったら戦う術など無い。

 赤目隊長の騎馬部隊の指揮は見事で、彼は話さないが、かつては軍で騎馬隊の隊長をしていたのである。


 この計画を立てた時に、商人たちはこの機に護衛部隊と共に逃げ出す可能性も考えたが、そうなったとしても、元々巻き込まれただけなので、仕方が無いと考えていた。しかし、彼らは自らの危険も顧みず、ちゃんと戻ってきてくれたのだ。

 タイミングも絶妙である。

 騎馬隊は動きを止める事無く、敵の乱れた道を突き進み、敵軍の中を嵐のように駆け巡り、大いに混乱させる事に成功していた。

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