獣魔戦争  初陣・撤退戦 6

 味方兵士の防御の円陣も良く保っているが、ここに敵の兵力が集中すると、身動きが取れなくなる。その前に行動を開始しなければいけない。

「よし!行くぞ!!」

 俺の声に、マイネーが応える。

「おう!!」

 そして、魔法の詠唱を始める。


『インダルト・グレディオル・バイ・レダイトス・エギュトノース。インダルト・グレディオル・バイ・ノイエスタル・ガライシャス・ディ・オール!黒貌たる深淵を照らす、黄金の星が如き、熾天してんの炎よ。輝く大蛇となりて、惰弱なる土塊つちくれを飲み込み、焼き尽くし賜え!!魔界の王たるルシファーの名において我が命ずる!!』


 うお!!始めて聞く超高位魔法だ。レベル9か?もしかして最上位のレベル10か?詠唱が長い。しかも上位の魔法は、魔法名の前に「結句」がある。


『リヒタル・アーレアス・アモン・ゾルダック。ゼンダ・ギヒャウル・ヴィダール・・・・・・』


 マイネーは、極度の集中がいるはずの超高位魔法を、スタスタ歩きながら唱える。そして、俺が進路と定めた方向を向いたまま、目で合図を送る。

 俺は振り返りレックの魔法の完成を確認する。円陣で防御しながら戦う兵士たちも、俺の合図を待っている。


「魔法行くぞ!!!左右別れぇぇい!!!」

 俺の声に合わせて、マイネーの前で戦う兵士と、後方のレックの前で戦う兵士たちが、サッと左右に分かれて道を開ける。その瞬間にマイネーの超高位魔法と、レックの火炎魔法が放たれる。


『ア・ローガンスッ!!!!』


『プロミネンス!!』


 レックの魔法「プロミネンス」は、炎が一直線に伸びて行く魔法だ。炎魔法ではよく見る魔法で、魔法レベルは確か4だったか。後方のモンスターを20体以上を焼き尽くし、その周囲にも被害を及ぼす強力な魔法だ。


 だが、マイネーの魔法はとんでもなかった。「ア・ローガンス」だったか?

 魔方陣のような輝く模様がマイネーの前に3つ展開して、その先から、眩しいくらいの白く輝く炎が前方に放出される。炎は先に行くほど広がりながら、一瞬でモンスターの大軍を飲み込んでいった。

 マイネーの展開した魔方陣のおかげか、こっちにまで熱は伝わらないが、凄まじい風が巻き起こる。

「きゃあああ~~~!!」

「やああ~~~~~!!」

 リラさんとミルが悲鳴を上げて俺にしがみついてきた。俺もかなり驚いている。とんでもないものを見せられた。


 炎が収まると、俺たちの前方には、敵の姿は無い。

 密集していたとは言え、数百のモンスターが、たったの一撃で消滅してしまったようだ。

「おらよ。これでいいかい?」

 振り向くマイネーは涼しい顔だ。

 俺は未だ驚きから冷め止まないままに、ぎこちなく頷くと、頭を振って意識を切り替える。リラさんもミルも、俺から手を離すと俺に頷く。


「よーーーし!全軍!!突撃ィィィーーーーーーー!!!」

 俺が火炎刀を振り降ろす。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 兵士たちが一斉に雄叫びを上げる。

「おおし!!オレ様も、いよいよ本気を出すか!!」

 マイネーがそう言うと、ただでさえ2メートルを超える巨体が、更に一気に膨らむ。

 背中が盛り上がり、腕も足も更に太くなる。ゆったりしていたズボンが、はち切れそうに筋肉で盛り上がる。

 むき出しの腕が黄色と黒の縞の毛皮になり、長い金髪が短い黄色と黒の模様になる。ズボンの後ろからは長いしっぽも出てくる。

 鋭い爪と牙を持つ、虎の獣化だ。

 マイネーが虎獣人だとは知ってはいたが、虎の獣人は希少種なので初めて目にする。圧倒的な存在感に畏怖を覚える程だ。

 そして、凄まじい速度で先頭を走り出した。

 俺と仲間たちも、驚きの連続だったが、慌てて後を追いかける。

「先走りすぎるなよ!!」

 俺が、遥か前方を行くマイネーに声を掛ける。

「なぁに!オレ様は露払いよ!!カシムは部隊を指揮してくれ!!」

 そう言いながら、マイネーは、敵の第四軍団に突っ込んでいった。

「やれやれ。でも、確かにあの勢いには並の兵士じゃ足手まといになるな・・・・・・」

 英雄の実力に、改めて驚かされた。

「俺たちは密集して、マイネーの空けた道を突き進むぞ!!」




◇     ◇




 マイネーによって、空に放り投げられたファーンは、バレルにキャッチしてもらい、上空に連れて行かれる。

「ギャアアアアアアア~~~!!」

 ひとしきり叫んだが、ファーンもようやく観念したように叫ぶのをやめた。

「・・・・・・まあ、オレも空は初めてじゃ無いから良いけど、ちょっと扱いが雑じゃね?」

 ファーンがぼやく。

 バレルはファーンを抱えたまま飛び、短く「ピィィー」と鳴き声を出す。すると、飛行部隊がハーピーと戦いつつ、次第にバレルのいる空域にやってくる。

 バレルたちは何度か「ピィー、ピィー」と鳴き交わすと、すぐに2人1組の編隊を組む。バレルの側にも、もう1人の鳥人が来る。

「さあ、指示を頼むぞ。・・・・・・確か?」

「ファーンだ」

 どうせ覚えてないだろうと、ファーンが名乗る。

「そうだ、ファーンだ」

「いいぜ!やる事は下にいる時と変わらねぇしな。ただ、一つ言っとくけどよ、バレルさん!」

「なんだ?」

 ファーンを抱えるバレルに対して、ファーンがビシッと言う。

「忘れないで欲しいんだけど、オレは落ちたら死ぬんだからな!!!」

「心得た」


 ファーンは今、地上の戦闘の全貌が見て取れるくらいの上空にいる。

「じゃあ、早速だけど、あいつ狙え!」

 ファーンが1体だけ少し離れたハーピーを指さす。すぐにバレルが「ピィー」と鳴く。すぐに一番近くの1組が、その一体のハーピーの向かって飛ぶ。

「いいか!基本はまとまって戦え!で、今みたいに、離れた一体に、近くの1組が向かって行く形だ!敵の数が減るまで防御と回避に専念するんだ!!」

 ファーンが指示を与える。

 カシムに、白銀の騎士の初陣話から、他にも様々な冒険譚を、ねだって聞きまくった甲斐がある。自然と戦術が多少覚えられたようだと、ファーンは自分に感心した。

「オレもカシムの相棒だからな!信頼には応えなきゃいかん訳よ」

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