獣魔戦争 初陣・撤退戦 5
その様子を確認すると、マイネーに言う。
「じゃあ、撤退の作戦を話す」
「撤退か?」
マイネーが問いかける。
「この作戦は失敗した。だから、これ以上戦力を減らさないように、速やかに町に撤退した方が良い」
マイネーが不満を言うかと思ったら、平然と笑って認める。
「その通りだ。やっぱりお前に左翼を任せて良かったぜ」
少し拍子抜けしたが、そのまま進路を説明する。
「俺たちは、敵左翼から第一、第二、第三、第四、第五軍団と呼んでいる。今いるのは中央の第三軍団だ」
マイネーが頷く。
「味方の右翼部隊は、今第五軍団と、伏兵の部隊に挟撃されて、恐らく完全に包囲、殲滅されつつある」
「位置はわかるか?」
「問題ない」
位置は大体予測が付いている。困ればきっと上空でファーンが気付いて教えてくれるはずだ。打ち合わせなどしていないが、そう確信している。
「だから、これから、第四軍団の側面・・・・・・と言っても、恐らくこっちに集中しているはずだから、一点集中攻撃で、強行的に突破して、第五軍団の背後から突入する。その後、味方右翼部隊を救出し次第、そのまま北門から町に撤退する。進軍の勢いを殺さないようにすることが重要だ」
「おお。機動戦ね」
マイネーの解釈で間違いない。
「それが俺の考えだが、何か問題はあるか?」
一応総大将のマイネーに問う。マイネーは肩をすくめてみせる。
「問題はねぇな。・・・・・・ただよ」
「ただ、何だ?」
俺が聞き返すと、マイネーが指を上に向ける。
「あいつは本当に役に立つのか?」
ファーンの事だ。確かにファーンのレベルは低いし戦闘にも参加しない。しても弱い。
だが、そう言われると腹が立つので、俺の言い方もキツくなる。元々マイネーに良い印象が無い事もある。
「甘く見るな!あいつは俺の相棒だ!出来れば側にいて欲しいから、貸し出したくは無かったが、空が不甲斐ないんで、しかたがないから貸してやるんだぞ!!」
マイネーが慌てて両手を挙げる。
「わかった、わかった!オレ様が悪かった」
素直にそう言われると、俺も興奮しすぎたと反省する。
「しっかしよぉ。おめえ、あいつの事となるとやたらムキになるが、それほどあいつにぞっこんなのか?」
マイネーの言葉にギョッとする。
「ちが」
「違います!!」
「違うよぉ!!」
俺が反論するよりも先に、リラさんとミルが、2人でマイネーを睨みつけて怒鳴る。凄い剣幕だ・・・・・・。
「あ、ややや。すみません、リラさん。ちょっと口が滑っただけなんすよ~~」
マイネーがリラさんに平謝りする。その後で、俺にボソリと呟く。
「何で、あんなに怒るんだ?怖ぇ~、怖ぇ~」
俺も訳がわからないので肩をすくめる。
っと、無駄話している暇は無いな。
「一応の処置が終わったら、魔法使いたちはマナポーションを補給しておけ。そろそろ行くぞ!!」
「はい!」
「おお!!」
魔法使いや、兵士たちから声が上がる。
「レック!君は攻撃魔法が得意だったな!?」
ピンクのウサギに獣化したレックに声を掛ける。ホワホワの毛に覆われて、長く耳が伸びた小さい姿は、男なのに、やたらかわいい。魔法使いとしても役立っているが、普通に戦士としても強い。
レックは回復魔法や支援魔法がほとんど使えない代わりに、炎の攻撃魔法を得意としていた。マイネーに近付きたいからか、特性も同じく火の魔法が向いていたのも幸運と、炎の攻撃魔法をいくつか習得しているそうだ。
ちなみに、マイシャは万能型、ヤナックは回復特化型だそうだ。
「はい!族長にはまだまだ及びませんが!」
獣化したレックが元気に答える。フワフワの毛並みで撫でたくなる容姿なので、思わず力が抜けそうになる。
「じゃあ、俺とレックで進行方向に風穴を開ける。マイネーは追撃されないように、後ろに一発でかいのを頼む!」
俺がそう言うと、マイネーが首を振る。
「いや。それならオレ様が前に、特大のをお見舞いする。後ろはレック1人で充分だ。カシム。おめぇは、進軍の指揮にだけ集中してくれりゃあ良い」
「いけるのか?・・・・・・いや、バカな事を聞いたな」
言ってからすぐに、自分が間抜けな発言をした事に気付く。
マイネーは最強パーティーの火炎魔獣と呼ばれた男だ。闘神王を足止めしたパーティーでも、もっとも攻撃力のある男だと言われていた。
「おうよ!一息入れたから、いつでも良いぜ!!」
俺は頷いて周囲を確認する。兵士たちの一応の治療は終わっているし、話している最中に、セルッカが俺たちの回復もすませてくれた。回復されると、やはり自分が心身共に疲れていた事に気付く。興奮して視野が狭くなっていた事にも気付く。いまは、頭もスッキリしている。
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