獣魔戦争 初陣・撤退戦 2
俺は一瞬呆気にとられて、その光景を見たが、炎は一瞬で消え、その代わり、味方の雄叫びが、新たな爆炎を生み出したかの様に、戦場に
「お兄ちゃん、前!!」
ミルの言葉に、俺は我に返り、正面で狼狽えているモンスターの群れに突撃し、間を縫うように切り倒しながら、ひたすら走った。
敵を切りながら、火炎刀の扱いに慣れるべく、必死に刀を振る。
もしうっかり、味方のいる方に、さっきの様な炎の刃を飛ばしては大変だ。そう考えると、思うように刀を振れない。
「カシム!今ならオッケーだ!!思いっきりいけ!!」
後ろからファーンの声が掛かる。とにかくファーンを信じて、無我夢中で気迫を込めて、火炎刀を横一線する。
すると、さっきのように炎の刃が、横一文字に飛び、かなり広範囲の敵を、まとめて爆炎に巻き込んでいった。胴体が真っ二つにされたゴブリンやコボルトたちや、炎で焼かれたモンスターたちが転げ回る。一振りで20体以上のモンスターを倒す。
なんて威力だ!
俺はゾッとする。しかも切れ味も凄まじい。ゴブリンの手にした盾や剣を、まるでバターのように切り裂いていく。敵の血脂も、火炎刀は瞬時に蒸発させて、切れ味に全く影響しない。
振る度に手に馴染んでいくようだ。気迫を込めると炎が吹き出し、その強さも調節が出来るようになる。
魔剣を持つ事で、俺が残虐な殺戮者になったような気がして、俺はこの刀が恐ろしくなった。
そうか。なんとなく理解した。
俺の家には魔剣や聖剣が沢山あった。竜騎士探索行に出るに際して、俺はそれらの剣を持っていく事は全く考えなかった。もちろん、この旅は、良くて白竜に対面して殺されるだけだと思っていた事もあり、装備に全く気が回らなかったと言う事もある。
だが、俺は訓練でも、それらを手にして振る事はしなかった。
俺は、魔剣や聖剣を持つ事で、誰かを傷つける事が平気な人間になってしまうのではと畏れていたんだ。
人を傷つけたくない。野生の生き物たちも、出来れば傷つけたくない。それは今も同じだ。
だが、大切な者を守る為には、力がいる。安物のロングソードでは仲間の命すら助けられない。
そして、今はこの火炎刀の、魔剣の力が必要だ。
魔剣に溺れず、聖剣に奢らず、己の心を保つ。魔剣だろうが、聖剣だろうが、結局は武器である。使う者が間違えないように心を律すればいい。
「うおおおおおおおおおおっっっ!!」
俺は刹那によぎった葛藤やら、問答やらを吹き飛ばすように、闘気を込めた刃を振り降ろす。爆炎が5000の敵の中心に、道を作る。
「ここだぁ!!行けええぇぇぇぇ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
俺を先頭に、味方が一本の矢のように、敵を押しのけて突き進む。
ミルは時々先行し、後ろ、左右に走り、敵を撹乱する。
リラさんは疲労回復魔法や、風の護りの魔法で、敵の矢を防いだりして支援してくれる。攻撃魔法も使えるが、支援に徹してくれている。
走りながら詠唱するなんて、実は中々凄い事だ。レベル11で出来る事ではないはずだ。相当無理しているのだろう、疲労が見え始めている。
「ファーン、リラさんに回復とフォローを!!」
「よしきた!!」
俺がファーンに指示を出すと、すぐにマナポーションを取り出し、リラさんに振りかける。ポーションのたぐいは、飲んでも良いが、振りかけても同等の効果がある。ただし、かけるともれなく濡れてしまうのが難点だが、今のように飲んでいる暇が無い時には頭からかけるのがいい。
さらに、疲労回復のポーションもかける。
「もう!びっしょびしょじゃない!!」
リラさんが文句を言うが、ファーンもファーンで必死だ。さすがに今は手帳もペンも持っていない。ただし、装備している2本のダガーも手にしていない。
周囲の様子を見ては俺に伝えるのに集中している。
「カシム!左後ろが遅れている!!」
左はバニラの部隊だ。
「バニラ!!あまり周囲のモンスターにかまい過ぎずに、前に進め!!密集するようにしろ!!」
俺の左を進む、獣化したバニラに指示を出す。バニラの部隊には、ネコ獣人が多い。興奮すると、目の前の敵に集中してしまう傾向があるようだ。
「後ろ~~~~!遅れたら飯抜きにするぞ!!」
部隊の統率自体は部隊長に任せるのが一番だ。バニラの指示に、横の敵に飛びかかりそうになっていた後続の兵士たちが、一瞬で前を向いて、隊列を組み直す。
獣人たちの戦闘は凄まじかった。クマ獣人は足が遅いが、盾を持ち、側面に展開して、中の味方を守りつつ、凄まじい力で、大きな戦斧や、大剣、槍を振り回す。ゴブリンの放つ矢ぐらいであれば、厚い毛皮が弾いてしまう。足が遅いと言っても、流石は獣人で、人間に比べれば速度は上だ。
ネコ獣人は素早く、かつ柔軟で、一撃離脱・・・・・・いや五撃離脱といった感じだ。
そして、ウサギ獣人はやっぱり強い。手にした武器はかなり反った切れ味を追求した刀なのだが、それを2本持って、敵の集団に飛び込んで、稲妻のように駆け抜けながら、周囲の敵を切り裂いていく。彼らの蹴りを食らった敵は、鋭く尖った巨大な杭を打ち込まれたように、体に大穴を空けて吹き飛んでいく。頭なんかに喰らったら、粉々に砕けてしまう。見た目は可愛いのに、その戦闘力の高さには戦慄を覚える。
イヌ獣人は、集団でまとまり、俺の左右に位置して、俺たちを守るように連携して動いている。彼らが、敵に一撃を加えて間隙が出来ると、俺は大技の炎の刃を敵に放ちつつ、味方に進路を伝える。
他の獣人たちも、それぞれの特技を活かしつつ、隊列を崩さずに、敵第二軍団を引き裂いていく。
「カシム、右前だ!!」
ファーンの声に、右前方を見ると、少し高い台の上に、大きな太鼓が見えた。敵が号令に使っている太鼓だ。
恐らく、あそこが数5000の敵第二軍団の中心だ。
「リラさん!!魔法用意!!」
「はい!!」
リラさんが風魔法の詠唱を始める。俺は、太鼓の方に若干寄りながら進路を取る。敵中央の後方を駆け抜ける進路だ。
太鼓が右に来た瞬間、俺はリラさんに魔法に集中する時間を与える為、一瞬足を止める。
その瞬間に、リラさんも集中を高めて魔法名を発する。
『エアリセント!!!』
風の刃が飛び、敵の太鼓を真っ二つにする。
「さすがです!!」
俺がリラさんに賞賛の声を掛けると、リラさんが微笑む。
「ほら!行かないとおいてっちゃうよ!!」
ミルがプンプンしながら俺の手を引く。そうだな。俺が走らないと、みんなが進路を失ってしまう。
「敵は混乱している!!一気に切り裂け!!」
俺の号令に、味方が雄叫びを上げて応える。
仲間たちとうなずき合い、俺はまた前に向かって前進を始める。
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