獣魔戦争  モンスター軍襲来 5

 太鼓の音が大きくなってくる。

 さすがに他の連中も気付いた頃だろう。リラさんもファーンも目を覚ます。セルッカも遅れて目を覚ました。

「来ましたね」

 セルッカが、小声で囁き掛けるので、頷く。セルッカが、隣で寝ているレックを起こそうとするので、俺がそれを止める。

「眠れてるなら寝かせてやろう。行動は予定通り、朝の四時だ」

 ゴブリンは夜目が利くが、コボルトや、オーク、オーガは人間とあまり変わらない。陽が昇るまでは戦闘は始まらないと踏んでいる。夜明けまでまだまだかかる。休める内に休んでいた方が良い。

 セルッカが頷いた。

「リラさんたちも眠れるなら寝た方が良い」

 俺がそう言うと、ファーンが笑う。

「それはお前もだろ?替わるぜ」

 ファーンが言うので、俺は頷くと、穴の中で横になる。リラさんとセルッカも再び横になった。

 

 だが、眠れたのは2時間もない。0時にもなると、太鼓の音がいよいよ大きくなり、次いで、ズズン、ズズンと地響きがしだす。

 俺も起きたが、恐らく他の穴でも、全員が目を覚ましている事だろう。誰もが口を閉ざして息を潜める。

 やがて、森の端の方で、草木をかき分けるような音や、ザカザカとやかましく、地面を蹴りつけるように歩く音が、絶えず聞こえる。

 穴とは距離があるが、森の中を進軍してきた1軍もあったようだ。

 足音はしばらく騒々しいぐらいに続いて、やがて遠くに離れていった。町の方へ行ったようだ。

 太鼓の音はいよいよ大きく、周囲一帯に響き渡っている。太鼓の数も一つではない。拍子を合わせて、数張で打ち鳴らしている様で、距離によって音が時差で届くのでやかましくて仕方がない。

 しかも、近付いて来るにしたがって、ゴブリンたちが「オウッ!!!オウッ!!!」と叫んでいる声も聞こえてくる。

 大集団の叫び声だ。騒音と共に、恐ろしさが穴に隠れる兵士を襲っている事だろう。

 太鼓の音が不安をかき立ててくる為、レックが落ち着かない様子だ。だが時間までは穴の中で待機しないといけない。



 予定の時間が来た。

 まずは俺たちとバニラ、バックたちが外に出る手はずとなっている。

 俺たちは、静かに穴を覆い隠している茂みをどけると、周囲を警戒しながら外に出る。

 すでに「無明」を全開にして周囲100メートルほどを探っているので、出会い頭に敵と遭う事はない。訓練のおかげで、一瞬だけなら100メートルの索敵が出来るようになっていた。サボればすぐに元の木阿弥になりそうだが・・・・・・。

 外に出ると、さらに太鼓の音が大きく聞こえる。

 少し離れた所にバニラとバックの姿を認める。互いに目配せをしてから周囲の様子を探る。

 まだ陽が昇っておらず、森の中でもあり真っ暗だ。暗視魔法のおかげで周囲の景色がボンヤリとわかる。無明があれば、周囲の様子は目を閉じていてもわかるが、相手の顔や表情がわかるので、暗視魔法も結構便利だな。

 

 敵の気配はない。

 俺はバニラに合図を送る。バニラは、ドーン、ドーンと断続的に続く太鼓の音の合間に、鳥の声を真似た口笛を短く一吹き鳴らす。

 それを合図に、兵士たちが静かに穴から這い出てくる。

 索敵班でもあるネコ獣人など、夜目が利いて気配察知に長けた兵士が素早く散開する。

 一番その能力に長けているのはハイエルフのミルで間違いないだろうが、ミルには俺の側にいてもらっている。

 他の兵士たちは素早く集結する。と言っても、それぞれに間隔を開けて、小隊長の姿が見える位置に姿を隠している。


 俺が「前進」のハンドサインを送ると、バニラ、バックが、それぞれの小隊長に同じハンドサインを送る。

 俺たちは無言で、極力無音での前進を始める。

 慎重に歩を進めて、朝日が昇る前の薄らと空に色が付きだした頃に、俺達は森の際にたどり着き、その光景を見た。



 エレッサの町の西に広がる田畑一帯に、おびただしい数のモンスターが出現していた。

「こ、これは・・・・・・」

 俺は思わず驚愕のあまり、うめき声を漏らしてしまう。

 モンスターの大軍は、整然と隊列を組んで並んで立っていた。一様に正面のエレッセの町を向いている。

 横に長く広がり、隊列を組んでいる。つまり陣を敷いているのだ。その陣形は、陣形の中でも基本で王道の陣形、すなわち「横陣おうじん」だ。

 モンスターが陣形を組んでいるとは思っても見なかった。

 しかもその数・・・・・・一万では済まないほどの大量のゴブリンやコボルトたちで、手に武器や盾、弓を持ち、太鼓に合わせて、足を踏みならしながら大声で吠え猛っている。

 モンスターの軍団は、ざっと見たところ、二万以上の大軍だった。

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