獣魔戦争  モンスター軍襲来 4

 モンスター軍もまだ現れていない。全員で集合して支援魔法をかけ直す。

 今度は遮音魔法は使わない。何故なら、今度はこっちが音を聞き逃さない様にしなければならないからだ。

 物音がすれば、モンスターの軍かその斥候が来たという事になる。

 使う魔法は、監視魔法阻害魔法、精神異常耐性魔法、魔法探知魔法。アラーム魔法は使わない。アラームを仕掛ける時に敵と鉢合わせる可能性がある。

 それと暗視魔法。今回は俺も暗視魔法を掛けてもらう。スキル「無明」で周囲を把握出来るが、100名の部隊を指揮しなければいけないので、見える必要がある。

 その他いくつかの支援魔法を、またリラさんとファーンとで割り振って、兵士たちに順番に掛けていく。

 

 一通り準備が出来たら、茂みに隠れた穴を見つけ出して、それぞれその中に潜んで待つ事になる。

 穴の大きさによって3人~6人で潜り込み、穴の上に茂みを戻して塞ぎ、カモフラージュする。

 茂みをかき分けなければ、俺たちの姿は外からは見えないはずだ。


 穴の中で食事にする。といっても、ナッツと乾パンだ。匂いがするものは持ってきていない。

 素っ気ない食事だが、獣人の戦士たちはもちろんだが、俺も慣れているので、文句はない。リラさんは、最近食べ過ぎたからちょうど良いとなぜか嬉しそうだったし、ミルは食べなきゃ食べなくてもちっとも困らない。ブツブツと文句を言ってたのは、たぶんファーンだけじゃないかな。ファーンは味には文句は言わないが、少ないとメソメソ泣き出すから哀れだ。


 俺たちは6人で穴に潜り込んでいた。俺とファーンとリラさんとミル。それから、リラさんにべったりなセルッカと、もう1人魔法使いの男で、攻撃魔法に特化しているという、少年の様な見た目をした魔法使いだ。

 名前をレックというウサギ獣人だ。ピンク色の髪で、くりくりとした目をしていた。野生のウサギだと、弱々しいイメージがあるが、獣人のウサギはかなり強い種族だ。全体数も多いので、集団のウサギ獣人は、恐ろしい戦力なのだ。

 それだけに魔法使いなのが意外だった。

 だが、穴の中で小声で話を聞くと、レックはマイネーに憧れているそうで、魔法を習得しつつ、戦士としても戦えるようになりたいそうだ。

 いずれ冒険者になるのかな?少年のような顔で、マイネーの事を話していた。

 


 時間感覚は「無明の行」でバッチリ身に付いている。

 現在は5月22日、22時30分だ。

 俺の隣では、リラさんとファーンが寝ている。セルッカもレックも寝ている。俺はミルと2人で見張りで起きている。

 ミルは眠る必要が無いので、今夜はずっと起きて、周囲の気配に気を配ってくれるという。ハイエルフって本当に凄いな。

 ただ、それじゃ悪いので、俺たちは交代でミルと見張りをする事になった。まあ、俺はそれでなくても今夜は眠れそうもない。

 初の実戦が、100名の部下を指揮して戦う事となり、それに町の人々の命もかかっているのだ。

 祖父は7歳で1軍を率いて武勲を積み重ねていったそうだが、それがどれほどとんでもない事か、改めて実感する。


「お兄ちゃん」

 そんな事を考えていたら、ミルが俺の肩を揺する。

「どうした?」

 小声でミルに尋ねる。ミルの表情が緊張している。

「なんか聞こえる。太鼓の音みたい・・・・・・」

 ミルの言葉に耳を澄ますが、俺には何も聞こえない。だが、ミルが聞こえるというなら、それは本当なのだろう。

 しばらくジッと耳を澄ます。すると、確かにかすかに太鼓のような音が聞こえてきた。

 ドーーーーン。

 ドーーーーン。

 規則正しく太鼓の音が聞こえる。

「これは・・・・・・。進軍の太鼓か」

 モンスター軍の進軍の合図の太鼓だ。と、言う事は、ある程度歩調を合わせてやって来るという事になる。思ったよりもモンスター軍は統率が取れているようだ。

 


 再確認だが、「モンスター」は、人間や地上の住人にたいして、激しいまでの嗜虐心を持っている。地上人の男は食い物。女は犯すし食う。いたぶり、残虐に殺す事、奪う事が至上の喜びとなっている、地上人にとっての敵対勢力である。

 言語を解する様だが、意思疎通は無意味である。自分が奪う側だと信じて疑わず、同族であれ、殺したり食ったりする事に何も思わないのだ。

 そうした敵対種族をまとめて「モンスター」と呼んでいる。

 同じように、地獄の魔物も、完全に地上人にとって看過できない敵対勢力で、同じく「モンスター」と呼んでいる。


 代表的なモンスターはゴブリン、コボルトである。

 ゴブリンは身長は小さく、人間に比べて非力で知能も幼児並みである。だが、狡猾で残忍だ。恐れを知らず、強欲だ。

 コボルトは、犬のような頭を持ち、人間のような体を持つ種族で、ゴブリンよりも知能が低い為、力はゴブリンより強いが、ゴブリンに飼われている。もっとも、飼い主にも平気で噛みつくが・・・・・・。

 さらに、オーク、トロル、オゥガ、ハーピー等がいる。

 こうしたモンスターは、地獄の勢力との関連性があるのではと、最近は考えられるようになっている。

 彼らの生態の異質さに加えて、地獄勢力が活発に活動し出すと、地上でモンスターの被害が増える事も報告されている事が根拠になっているが、確証は得られていない。


 また、ゴブリン、オーク、オーガには雌がいない。いるのは雄だけである。逆にハーピーには雌しかいない。

 コボルトのみが雄と雌がいる事が確認されている。

 ゴブリンやオーク、オーガは人間の女性を襲うし、ハーピーに掠われるのは決まって男である。

 掠った女性を妊娠させるのだとしても、モンスターの出現数と掠われた女性の数とでは、大きく隔たりがある。つまり、どこからか湧いて出て来ているとしか思えないのだ。

 さらに、トロルに至っては性別がない。

 それらの事から、地獄の魔王が地上を混乱させる為に作り出した尖兵などと言われ始めている。


 かつては「特化人スピニアン」もモンスターとまとめて「亜人」と呼ばれていたが、全く別物である事がこれで説明できる。

 特化人は人間と変わらない社会性を持ち、感覚を持っている。成り立ちも明らかで、特化人は遥か昔に魔神たちが神が創った獣人に対抗する為に創り出した種族である。リザードマンやドラゴニアン、マーメイド、セイレーンなどがそうである。



 今、俺が驚いているのは、そうした利己的で知能の低いモンスターが、ひとまとまりの軍として行動している事だ。太鼓の音に合わせて、歩調を合わせて歩くゴブリンなんて、あまりに不気味だ。

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