獣魔戦争  エレッサの町 2

「どういうことだ?」

 確かに俺を鍛えてくれたのは、生ける伝説のジーン・ペンダートンだ。この男の言う通り化け物クラスの強さを持っている。

「これから何年かしたら・・・・・・いや、いつ開花しても可笑しくはねぇが、おめぇを鍛えるに当たって、おめぇの師匠はとんでもなく入念に土台を造り込んで来たって事だ。言い換えるなら、ぬかるんだような土地にそのまま家をおっ立てちまったりしたとする。でもそれだと、雨が降ったり、ちょっとしたことで家は壊れちまうな」

 急な比喩表現に戸惑いつつも頷く。

「だから家を建てるには、まずしっかりとした地ならしやら石を埋めたり、敷いたり、柱を立てる穴を開けたり色々する。土台作りだ」

 世界にはいろんな建築手法があるが、土台をしっかり作るのは基本だ。

「ま、このテントみたいな奴だとそんなに手間は掛からねぇけどな」

 マイネーが笑う。それから急に真剣な表情になる。

「だが、おめぇの師匠は、まるでバカでけぇ城でもおっ立てるかのようにおめぇの体に土台を拵えていやがる」

 はあ?どういうことだ?

「育てばオレ様に比肩するくらいの強さを手に入れるかも知れねぇ。あるいは、それ以上かもしれん。ついでに言えば、開花どころか、ずっと芽吹きすらしないかもしれんがな」

「あんたに何故それがわかる?」

 かなり眉唾な話だ。俺は弱い。周囲に比べて、圧倒的に才能に欠けている。

 だが、マイネーが胸を張って言い切る。

「オレ様が世界で3番目に強い人間だからだ!!」

 そして、豪快に笑う。

「なんで3番目なんだ?」

 ファーンが呆れたように言う。そう言えば、マイネーもすぐにファーンが女だとわかったようだ。それにはショックを覚える。


 マイネーが、「まあ聞け」と手を振ってからニヤリと笑う。

「地上最強は、間違いなく闘神王だ。実際に戦ったからイヤって程わかる。ありゃあ、桁がいくつも違っている。もう一度戦えって言われても二度とごめんだ。生き延びたのは、まあ、手加減してくれてたからに過ぎん。『最強のパーティー』なんて言われているが、実際はそんなもんだ」

 なるほど。この男は傲慢だと自分で言い放っておきつつ、しっかり自分の事を分析しているようだし、他人に対しても同様だ。見た目や振る舞い以上に実は慎重な男のようだ。

「2番目は、これまた間違いなく生ける伝説ジーン・ペンダートンだ。全ての冒険者のあこがれだな。戦った事は無いが、そのくらいはわかる」

 俺の祖父だ。まあ、そう言われると誇らしい気持ちになる。


「で、3番目があんただってのか?」

 ファーンが疑わしそうにマイネーを見る。

「光の皇子や闇の皇子、それにアインや『アカツキ』の連中だっているだろうが。グラーダの十二将や一位の『堅雄』ガルナッシュだっているだろ?!」

 ファーンが言うと、マイネーが鼻で笑う。

「はっ。『アカツキ』は集団では強いが、個人では相手にならねぇよ。あと十二将や、噂の『堅雄』は合った事がねぇ。それに奴らは軍を率いてなんぼだ。俺が言ってるのは一対一のケンカだ」

 そうは言うが、グラーダ十二将も俺の父も、俺から見たら化け物クラスだったりする。

「それでな、3番って奴が微妙なのは後の奴らだ。つまり、クララーとシャナだな。後はもう1人いるんだが、どいつもこいつも、ついでにオレ様もな、条件付きで3番目なのさ」

「条件付き?」

 俺が首をひねる。

「その通りだ。例えばオレ様は獣人化をしなければ他の3人に及ばない。だが、獣人化すればオレ様が1番強い。同じようにクララーもシャナも、あともう1人も、何かを使えば地上で3番目に強いって事になる。ま、それぞれに縛りがあるって事だ。で、アインは縛り云々抜きで、オレ様たちの中では1番弱い」

 その言葉にファーンがうなるが、ため息をついて座り直す。

「わかったよ。で、3番目の旦那。オレたちに町にいろって言ってたけどなぁ」

「お断りします」

「お兄ちゃんと戦うに決まってるじゃん」

 ファーンの言葉に続いて、リラさん、ミルが言う。その言葉を予期していたようにマイネーが肩をすくめる。

「まあ、一応オレ様は止めたぜ。それに、リラさんには出来れば本気で町に残ってもらいたかったんだが・・・・・・。冒険者だもんな。仲間と一緒がいいよな」

 そう言ってから、マイネーが座ったまま仲間たちに頭を下げた。

「すまない。オレ様の態度はあんたらを侮辱していたな」

 真っ直ぐな男だ。最初は腹が立っていたが、いや、今も気にくわないが、思ったよりも良い奴なのかも知れない。

「元々人手が欲しかったんだ。青ランクの冒険者なんて願っても無い戦力だ。大いに期待させてもらうぜ」

 マイネーがそう言うと、後ろの部下に指で合図する。すると、部下が周辺の地図を持ってきた。

 部下の男が囲炉裏に板を置いてテーブルにすると、地図を広げる。

 全員で地図をのぞき込む。



 エレッサの町を中心にした周囲の地図で、南北に大街道が通っている。グラーダに続く「メルロー街道」だ。

 エレッサの町は、町の中央を南北にメルロー街道が貫き、東から西に川が流れ込み、町の中央で街道と川が交差している。

 その交差地点を中心にして、菱形に町壁、つまり町を囲む防壁が張り巡らせてある。


 防壁の長さが一辺が約1キロメートル程度だ。つまり1キロメートル四方の町の広さがある。

 防壁に沿って堀も巡らせてあるようだ。


 東は丘陵で、2つの丘の間から川が流れてきている。

 

 西には田畑があるようで、森まで約2.2キロメートルほどあり、見通しが利く。

 田畑のある西側の平地は、幅約4.4キロメートルと、かなり広い平地が広がっている。畑にする為に、森を切り開いたようだ。

 地図には載っていないが、北西には砂漠がある。

 田畑として切り開いた部分以外は、森林地帯で、沼やら川やらがゴチャゴチャと書き込まれていて、その先に南北に延びた断崖が長く湾曲して伸びている。

 エレッサの町に向かって切れ込んでいる辺りをマイネーが指さす。

 ちょうどエレッサの町を横切る川の終着点だ。恐らく崖のところは滝になっているのだろう。


「昨日の昼には、奴らはこの崖を登って来ている。全員が登り終えるのを待ってから集団でこの町に向かったとしたら、恐らく明日の朝には、町の近くに到着するはずだ」

 マイネーが地図上のエレッサの町の西を指さす。西の田畑の広がる平地に、奴らが集合すると見ているようだ。


「奴らが集団行動を取ると言っても、数千規模なんてのはまず滅多に聞かない話だ。だが、奴らを統率する強大なモンスターがいれば話は別だ。多分今回は、ロード級の厄介なモンスターがいると見て間違いない」

 マイネーが冷静な分析をする。


 ロード級というのは、他個体よりも大きく、克つ知恵も回る、滅多に誕生しない突然変異種のようなものだそうだ。

 何より、ロード級はその種族、または下位の種族を統率する特殊スキルがある。

 知恵の回らないゴブリンや、コボルトも、ロード種の命令は守るという。

 これまでは100年に一度出現すると言われていたが、この所は数年に一度と、出現頻度が高まっている。

 これも聖魔大戦が近いせいなのかも知れない。

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