外伝 短編 4-2 ステイタスのソムリエたち

 グラーダ国の鑑定士たちは、大まかに2派に別れている。

 メルスィン派とアメル派である。

 

 これは、鑑定士たちが4月に一ヶ月掛けて行う研修の会場となっている都市で別れている。

 グラーダ国の鑑定士なら、どっちの会場で研修を受けても良いのだが、特にアメル派は「意識高い系」として、アメルに集まる。

 

 ギルドの鑑定士など、時々他国に異動になる場合もあるので、そうした人や、特に拘らない人はメルスィンの会場を選ぶ傾向にある。


 アメル派が「意識高い系」を自称しているのは、王都であるメルスィンより歴史ある、アメルへの拘りと、対抗意識からである。



 グラーダ国内に、鑑定士は1500人ほどいて、今年も800人ほどがアメルの研修場となっている「王立高等学院」、通称アカデミーに泊まり込みで集まっている。

「過半数を超えた人数が、アメルに集まりましたな」

「やはり、より技能を高めんと欲する者たちは、アメルに集結しますな」

「ここで研修を終えた者たちは、1年間は世界最高水準の鑑定士と名乗る事が出来ますからな」



 私、トーマスは、今年初めてアメルの鑑定士研修に来た。

 会場に入るなり、そんな会話が聞こえてきて、激しく緊張している。

 実は先月に、産休に入った鑑定士に変わって、エッシャの超「ど田舎」の国から、暇だろうからと派遣されたのだ。派遣された町からアメルが近かったし、アカデミーでただで宿泊出来ると聞いたので、アメルの研修場に来てしまった。

 ああ。初日なのに、胃が痛い。


 エッシャほどの田舎だと、鑑定士の人数が集まらないので、バルタ共和国か、グレンネックまで行く必要があるが、流石グラーダである。一会場で800人。圧巻である。


 20人ほどで1グループを作り、1人の人間をそれぞれ鑑定して、その結果を擦り合わせていく作業が1工程。

 次にグループで擦り合わせた結果を、今度は800人全員で確認して、更に擦り合わせていく。

 この作業を、1日で50~60人行っていく。

 気が遠くなりそうな作業を、これから30日毎日行う。休みは3日だけである。考えただけで気が滅入る。



 広い会場には、グループ毎に、中央を空ける形で円形に椅子が並べられている。

 その中央に、まだ鑑定を受けた経験の無い人(バイト代がもらえる)が立ち、各々が持つチェックシートにステイタスを記入して、発表していく事となる。


 流れとしては、グループ会で5人見た後に、全体会。

 全体会が終わると、また5人ほどグループ会で検討する。

 その繰り返しだ。


 

 最初に立ったのは、やや逞しい体つきの男性だ。外見で印象を操作されないように、着る服は同じで、ゆったりとしたスモッグだ。


 ふむふむ。生まれ持った鑑定眼によって、彼のオーラが見える。この感じだと・・・・・・。

 「力」、140。

 「体力」、154。

 「俊敏性」、105。

 「器用さ」、88。

 「魔力」、0。当然「魔力適性」、空欄だな。

 「潜在性」、「スキル」も空欄・・・・・・と。


 記入が終わったので、20人全員が同時にチェックシートを上に掲げ持つ。そして、互いの数値を確認し合う。

「401番さん。あたなは何故、『力』を145にしたんですか?」

「はい。彼の力を示すオーラが、カラーチャート83に酷似していました。そして、肩の辺りに僅かに尖って見えるところがあった為、その尖りの高さから、この数値を出しました」

 ん?カラーチャート83?

「おお。確かによく見たら82よりは83の色に見えますな」

「しかし、肩の所の突出は、2センチ程度。であれば、『力』は143辺りが妥当では?」

 くっ!!俺はカラーチャート85だと思っていた。かなりずれがある。マズイマズイ。


 そんな感じで話し合う。


 次は女の人だ。

 よし、カラーチャートもしっかり見るぞ。

 「力」、65。

 「体力」・・・・・・うーん。カラーチャートだと21番の淡いオレンジ色に近い。だがオーラの形からすると、97か。

 「俊敏性」、54。

 「器用さ」、118。

 「魔力」、0。「魔力適性」も空白。

 ふう。ただの主婦か。

 !!??

 いや、よく見ろ!!

 あの光の感じ!「潜在性D」だ。

 危ない危ない。見逃すところだった。




 グループ検討の後の全体会は、荒れに荒れる。


「何故、32番の男性の『力』が212なんだ!?210だろうが!!」

「馬鹿を言うな!!彼の『力』は我がグループで鑑定したところ、212だった!!」

「根拠を述べろと言っているんだ!!」

「ふうむ。根拠ですか。彼の纏うオーラは、春風にそよぐ若葉の様にみずみずしく、その色は、アール海の様に煌めく明るい青。そして、その形は絶えなく生まれいずる英雄たちの様であった」

「何?!あれは『歌う鑑定士ゼッツマン』様か!?」

「しかし、だからといって、結果が212となる訳では無い!!32番の男性は色はグバーーーーッとしているが、形はジュジュジュ・・・・・・・ズンッ!!としている!!『力』はやはり210で間違いない!!それに、今のゼッツマンの詩は、先日王宮で歌った詩人の歌詞のパクリじゃないか!!」

「感覚的な発言は控えなさい、ロイボーン!!」



 初日から、こんな感じに、夜中まで話し合いが続いた。

 ああ、研修が終わるまで、あと32日もあるのか・・・・・・。

 憂鬱だ。


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