黒き暴君の島  はぐれ少女・純情派 2

 俺たちは、日が沈むギリギリにドランの街まで帰って来る事が出来た。帰り道には野獣に遭遇する事も無く、スムーズに帰れた。

 道中、話をしていたところ、コッコについて少しだけ知る事が出来た。

 コッコは両親がおらず、家もドランには無いという。

何に困っていたのか聞いたが、首を傾げて返答は無かった。

 どうも物心ついた時には、あの荒れ地にいて、その辺の物を採って食べる事で生きてきたのではと思われる。

 俺たちがコッコを見つけた時にも、多分食べられるものを探していたのかも知れない。

 そうした事から推測して、恐らく幼くして両親に荒れ地に捨てられたのではと思われる。そういった話しは後を絶たない。現にファーンも同様の生い立ちだ。

 感受性の強いリラさんはもちろんだが、俺やミルはコッコにひどく同情していた。ファーンにしても、他人事では無いはずだ。

 俺にしてももう他人事では無い。昨日、ファーンの生い立ちの話を聞いた直後だからだろうか、何としてもコッコを保護しなくてはいけないという思いに駆られている。

 コッコに心配掛けまいと、俺たちは笑顔で、でも内心は深刻で重苦しい空気のまま、ドランに戻って来たのだ。


「よーし!今日は何処の温泉宿に泊まろうか!なんたってオレたちは御大尽だからな!何処だって泊まれるし、豪華な料理だって食べられるぜ!!」

 ファーンが明るい声を出すや、先頭を切って温泉街に向かって歩き出した。コッコも今は背中でごねるのをやめて大人しくしていた。

「ねえ、カシム君」

 リラさんも明るい声を出す。

「どうしました?」

 俺がリラさんに尋ねると、リラさんは「フフフ」と笑ってから、花が咲いたような笑顔で俺と、背中のコッコに声を掛ける。

「宿が決まったら、私ちょっと買い物してきますね」

 ああ。さすがリラさんだ。気が利くな。

「わかりました。よろしくお願いします」

 俺が頷く。リラさんは、裸同然のコッコの為に、下着やら服やら靴やら、必要な物を買いに行ってくれるようだ。

 今のような半裸状態で、ボロをいつまでも身に着けさせる訳にも行かない。

 服を買うならセンスも必要だ。きっとリラさんならコッコに似合う服を買ってきてくれるだろう。今のコッコの汚れきった状態では、どんな服が似合うのか、俺にはさっぱりわからないから助かる。

 全員でアイコンタクトしてうなずき合う。

「ようし。じゃあ、さっさと宿を決めるか!」

 ファーンが張り切って歩く。


 温泉街に着くと、早々に宿が決まった。どうもファーンは昨日か今朝の内に目星を付けていたようだ。

 「~ドラン」という名前の旅館だ。今度もアズマ風の建物だが、グレンネック成分も多く、壁が石造りだったり、円柱が所々立っているので、神殿のようにも見えるが、屋根が瓦屋根なのと、朱塗りの柱もあり、かなりちぐはぐな建物だ。ただし、温泉の成分が良さそうだし、料理も豪勢だ。

 1泊1人240ペルナー。コッコは子ども料金で140ペルナーだ。合計1100ペルナー。一介の冒険者にしてはかなりの高級旅館だ。

 だが、今の俺たちにとってはたいした金額では無い。ファーンが言うように御大臣なのだ。

 今回は大部屋が取れたので、全員が同じ部屋に泊まれる。

 部屋に入ると、全員がすぐに風呂の準備をする。

 冒険者が泊まるにしてはきれいな部屋なので、汚れた服装でいるのに忍びない。しかも、コッコの汚れ具合は、宿の人も眉をひそめるほどだった。女の子なので失礼な話しだが、正直匂いもきつい。

 買い物に行っていたリラさんを待っていたが、案外早く買い物が終了したようで、それほど待たずに全員で風呂に向かう。

 ちなみに今度は完全に男女別の風呂で、混浴は無い。お楽しみも無いが、失態もないのでその点は安心して入れる。


 赤いのれんをくぐるリラさんに、声を掛ける。

「コッコをよろしくお願いしますね」

 コッコはまだ風呂を嫌そうにしていて、顔をしかめている。

「任せて下さい」

 リラさんがニッコリ微笑む。

 それを見送ってから、俺は隣の青いのれんをくぐり、脱衣所に向かう。

 脱衣所には他の客の姿は無い。それもそのはず、今は食事の時間だ。ほとんどの客はこの宿の料理に舌鼓を打っている事だろう。

 俺たちは、宿に入ったのが遅い時間だったので、食事の準備に後1時間は掛かるとの事なので、その前に風呂に入りに来ているのだ。コッコの汚れ具合からすると、他の客がいないのは良かった。

 それにしても2晩続けて温泉宿とは、さすがに贅沢な話しだ。しかも今度は男女別で安心だし、他の客がいない貸し切り状態だ。今度こそ温泉宿を満喫しよう。


 俺は、頭と体を内湯の洗い場で洗う。

 首には巾着袋が掛かっている。この中には黒竜の宝物である「スフィア」が入っている。無くしたり、盗難に遭ったりしないように肌身離さず身につけておくに越した事は無い。巾着の中でスフィアがブルブルと振動しているのが気になるが・・・・・・。

 洗い場の壁一枚隔てて、隣は女湯だ。壁も上の方は開いていて、隣とつながっている。壁をよじ登れば女湯が覗けそうだ。もちろん覗いたりしないけどな。ただ声はまる聞こえだ。

「ヒャッホ~~~~!貸し切りだ!!」

 ファーンの大きな声が響く。他に客がいないからとは言え遠慮無いな・・・・・・。

「今度のお風呂も広いね~~~!!」

 ミルの声も反響して良く聞こえてくる。

「もう、ファーンもミルもはしゃいでないで、体をしっかり洗いなさい」

 リラさんの声がする。

「ファーンはコッコちゃんをきれいにするのを手伝って。ミルはお姉ちゃんなんだから、コッコちゃんのお手本になってね」

「は~~い!コッコちゃん。お姉ちゃんがやって見せるからね~~~。ちゃんと見ててね~~。大丈夫だよ~~~」

「コッコ。体がきれいになると気持ちいいぞ~~。オレたちに任せとけ!」

 なかなか連携が取れているようだな。安心安心。それにしても、女湯からファーンの声が聞こえると、まだちょっとドキッとする。昨日の今日で慣れる訳が無いが、アイツが女の子のは間違いないようだ。

 そんな事を思ったが、コッコの事は女性陣に任せて俺はひとまず露天風呂に向かう。

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