黒き暴君の島  湯煙の2人 4

 この2人は、言わば恋敵同士だ。

 ミルはカシムへの好意をストレートに表現にしていて、常々「お嫁さんになる」と公言している。

 一方、リラは自分の思いを表現できずに隠している。

 それでも恋敵であるにも関わらず、ミルには素直に自分の抱いているカシムへの感情を話す事が出来る。

 ミルも、リラが素直に自分の感情を表現してくれて、カシムの事を、お互いにあれこれ話したり出来る事が嬉しいのだ。時には張り合ったり、応援し合ったりしている、不思議な関係だ。

 更に2人はもう1人、「アクシス王女」という、超強力なライバルがいる事ももう知っている。

 敵か味方かわからないファーンも、2人にとっては不気味な存在だった。なので、せめて2人は暗黙の同盟の様なものを組んでいた。


「お城でね、迷っていた私に声を掛けてくれたの。でも、声を掛けられる前に、その立ち姿、歩いてくる姿に目を奪われちゃったの」

「ああ、わかる!あたしも、助けられる前から、鎧の中で外の様子が見えてて・・・・・・。苦しくって怖いのに、お兄ちゃんが登場したとたんに光が見えた気がしたの。『絶対に助ける』って声を掛けられた時にはもう、大好きになってたの」

 2人でお湯の中で抱き合って「キャー」「キャー」とひとしきり浮かれて騒ぐ。それからリラがまた話し出した。

「あなたを助けた時に再会したんだけど、その後もこの気持ちは変わらないし、旅を続けるウチにどんどん好きになっていくの。かっこいいな~。可愛いな~って」

「うんうん。お兄ちゃん可愛いよね~」

 2人でまた笑う。

「でも、リラはずるいな~。いつもお兄ちゃんはリラの事ばっかり見てるもん」

 ミルが、お湯の中に顔半分を沈めて、ブクブクと口から泡を出す。

「え?そう?カシム君はいつもファーンばっかり見てると思ってた」

「ムッキ~~~~~~~!」

 ミルが勢いよくお湯から飛び出すと、おもむろに、リラの大き過ぎないがたっぷりした柔らかな胸を、鷲掴みにして揉みしだく。

「ちょ、ちょっと!何するのよミル!やめなさい!!」

 リラが抵抗するが、詩人と盗賊ハイエルフとでは身のこなしがまるで違う。おまけにミルの方がレベルが上だ。リラが抵抗しても、スルスルと身を翻しては、お湯の中で胸や太もも、おしりを揉みまくって吠える。

「リラはずるい!こんな凄い武器持ってて!あたしなんか子ども扱いで、ちっともこっち見てもらえてないんだから!お兄ちゃんの事だから、あたしが大人になっても、ずっと妹以下の扱いしかしないんだよ!!リラがエッチなかっこうしてるから、お兄ちゃんリラの事いつもエッチな目でチラチラ見てるの、あたし知ってるんだから!!」

「えええええええ~~~~~?何それ!?」

 リラも叫ぶ。

「あたしだって、すぐに大人になるんだから!おっぱいだってバ~~~~ンってなるんだから!!くっそう!リラのおっぱい柔らかくって凄いな!!」

「ああん!って、そんなに揉まないでよ!」

「やだ!リラのおっぱいはあたしのだ!!」

 ミルは執拗にリラの胸を揉みまくり、その谷間に顔を埋めるとようやく大人しくなる。

「もう・・・・・・」

 ミルが大人しくなって、ようやく一息着けたリラが、胸に顔を埋めるミルの頭を優しくなでる。

「お風呂で暴れたらのぼせちゃうでしょ・・・・・・」

「・・・・・・うん。ごめんなさい」

 ミルは素直だ。自分の気持ちを吐き出す事も、素直に謝る事も出来る。

「ミル。あなたも大概ずるいわよ」

 ミルが顔を上げる。

「あなたはハイエルフだもん。絶対にすごい美人になるし、いつまで経ってもきれいなまま。私がおばあちゃんになってもきれいなままだもん」

「じゃあ、ず~~~と先の話だけど、リラが先に死んじゃったらお兄ちゃんもらうね」

 ミルの話しにリラが吹き出した。

「その時はカシム君もおじいちゃんよ」

 ところが、ミルは意外な真剣さで首を傾げる。

「それの何がいけないの?見た目が変わってもお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ?」

 種族的な感覚の違いのせいなのだろうか?ミルの言う事は素敵な言葉のようだが、リラは暖かい湯に浸かっていて尚、背筋がゾクリとした。

「そ、その前にカシム君が先に死んじゃってるかも知れないわよ?男の人の方が寿命短いって言うし」

 リラの抗弁にも、ミルの真剣な表情は変わらない。そして、真剣な目のままで、薄らと幸せそうに微笑む。

「その時は、お兄ちゃんとの思い出をあたしがもらうね。あたしはそれだけでずっと生きていけるから」

 リラの腕に鳥肌が立つ。敵わない程強く、深く、それでも独占しない愛情をミルは持っている。「愛」の格の違いを見せつけられた思いがした。自分は思い出だけで百年、千年、万年と生きていける気がしない。

『それでも、負けないんだから!』

 リラは、この手強いライバルを力強く抱きしめた。

 強い、そして怖い敵だけど、この子の想いは愛おしく感じた。できれば、思い出だけでは無く、実際に思い人と結ばせてあげたいと思う。思い人が同じじゃ無ければ良かったのにと切実に思う。

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