黒き暴君の島  大失態 6

 ファーンが大きくため息をつくと拍手をする。それから、もう一度ジュリアンに向き合うと、疑問をぶつける。

「なあ、ジュリアンちゃん。あんたの説明はすっごくわかりやすかったけど、1個だけ教えてほしいんだよな~」

 ファーンがテーブルに広げられた黒竜島の地図を見ながら頭をひねる。ジュリアンがテーブルの下で足を組み替える。

「なんでしょうか~?」

「このさ、デナトリア山の麓にある黒竜の館って、何?」

 ファーンの質問にジュリアンはにっこり笑いながら「わかりません」と明瞭に答えた。

「この館は、ドランの街よりも古くからあるので、恐らく黒竜が作った物なのでしょう。館自体は、デナトリア山に向かえば見る事が出来ます。とにかく大きな、城のような館です。ただ、黒竜の洞窟に入って、山のように積み上げられた金銀財宝を見たという人間は少なくありませんが、館に入って生きて帰った者は誰もいません。なので、館には近付かない事をお勧めします」

 ファーンがうんざりしたように舌を出す。

「うへ~~~。興味は湧くけど、近寄りたくもないな。誰かが見てきたら教えてもらう事にするよ」

 ジュリアンがファーンの軽口に可笑しそうに笑う。

「フフフフ。安心しました。ファーンちゃんは意外と堅実なのねぇん。無茶しちゃヤァ~~~よぉん」

「ああ。サンキュサンキュ!気を付けて冒険してくるよ」

 ファーンの言葉に、立ち上がったジュリアンがテーブルに手を付けて身を乗り出してくる。

「ねえ~ん、ファーンちゃん?あたしって魅力的ぃ~~ん?」

「ああ。すっげえ色っぽいし可愛いな。おまけに頭が良くって努力家だ。男はほっとかないだろ?カシムなんてさっきからこんな感じだしな。すっかり骨抜きになってるよ」

 ファーンが可笑しそう笑う。

「まあ、ねぇん。でも男ってあたしのそうした努力とかって認めてくれないのよねぇ~ん」

「そうか?・・・・・・いや、そうかもしんないな・・・・・・、。それはジュリアンちゃんがすっげえ武器を、沢山持ちすぎてるせいだよ」

 ファーンに言われると、ジュリアンは頬を染めてファーンを見つめる。

「あたし、本当にファーンちゃんに惚れちゃった。この際一線越えても良いわ!」

 ジュリアンの突然の告白に、ファーンは頬を掻いて苦笑する。

「いや、有り難いんだけどさ、オレも想い人が1人2人いるわけでさ・・・・・・」

「3人目でも良いのよ~ん」

 ジュリアンの熱意にファーンがため息をつく。

「ん~~~~。オレはその一線を越えるつもりはないんだけどさぁ。でもま、取り敢えず生きて帰ってから考えるわ」

 ファーンが、魂が抜けたようになっているカシムの腕を引いて立ち上がらせる。

「必ずまたギルドに顔を出してねぇ~ん」

 ファーンは軽く手を上げると、カシムを引きずるようにして面談室を後にした。





「はあああああああ~~~~」

 ため息しか出ない。

 俺はあんなにもダメダメだったのかと思うと、今すぐ地面に穴を掘って埋まってしまいたい。

「なあ、カシム。元気を出せって」

 ファーンが慰めてくれるが、ファーンの顔がまともに見れない。

「はあああああああ~~~~」

 落ち着く為に、ギルドの食堂で飲み物を飲んでいる。ギルドの食堂は安くてメニューも豊富だが、酒類は提供していない。なぜなら、冒険帰りの冒険者が酒なんか飲んだらトラブルが起きるに決まっているからだ。その為、酒が飲みたい冒険者は外の食堂に流れる。

 俺たちは酒を飲まないので、ギルド内の食堂で充分だ。だが、今は酒を飲みたい気分になっている。

「まあ、でも良いもの見れたじゃないか。ジュリアンちゃんのおっぱい、でかかっただろ?お前、おっぱい大好きじゃんか」

 ファーンが真顔で俺を慰めに来る。だが、俺はおっぱいが大好きだなんて言った事はないぞ。そりゃあ、まあ、嫌いじゃないが・・・・・・。

「何か、済みませんね、俺がむっつりスケベで。ヘタレで」

 すねて俺がブツブツと文句を言う。

「いや、男がスケベなのはしょうがないだろ。それを責めちゃいないけど、お前も、そんな調子じゃ大変じゃないのか?リラの服装とか目に毒だろ?」

「馬鹿にすんなよ!仲間をそんな目で見ちゃいないっての!!」

 とは言え、俺はすっかり意識していた。

 白竜山で竜との戦闘と呪いで、半死半生の所に駆けつけてきたリラさんは、俺の目の前で大胆にしゃがんで来た。その時俺の目には、リラさんのスカートの中身がバッチリ見えていた。

 半死半生だというのに「水色だぁ~」と思ったし、今もその光景は脳裏に焼き付いている。

 やはり俺は最低のむっつりスケベ野郎なんだ・・・・・・。あんな緊迫した場面でこんな事を思っていたなんて、口が裂けても言えない。

「いや、ちょっとはそういう目で見ても良いんだけどさ、困るんなら、俺からリラに注意しておいてやろうか?」

「いや!困ってねーし!!!」

 すかさず言ってやった。俺の密かな楽しみを奪われてたまるか!!

 しかし、そう答えてから頭を抱える。俺って最低だ・・・・・・。

「あのさ、ファーン」

「何だよ、カシム」

「この事リラさんに言わないでね・・・・・・」

 俺が力なく言うと、ファーンが苦笑する。

「言わねーよ。・・・・・・ってか、言えるか。オレでさえちょっと引いたもんな。お前かなり気持ち悪かったぞ」

 ファーンがそう言って「ヒヒヒ」と笑って俺の背中を叩く。そのファーンの態度で、俺は少しだけ気が楽になった。

「気持ち悪くて、悪かったな!」

「ま、ちっとは女に免疫付けた方が良いのは確かだな」

 しかし、この男、何者なんだ?只のハーフエルフじゃないな?

 なぜこんなにも女の人と、しかもあんなにエロっぽいお姉さんと気軽にしゃべれて、話しも盛り上がるんだ?同じ思春期真っ盛りの年齢じゃないか。もう少し異性にドギマギしろよ。

 おまけに最後には惚れられてたし・・・・・・。顔だけじゃないな・・・・・・。かなり悔しいぞ。

「お前は良いよな~。ジュリアンさんに惚れられてさ・・・・・・」

 つい、ボソリとひがみを口に出してしまう。

 するとファーンはきょとんとした顔をした後に、俺を睨みつける。

「カシムってやっぱバカだな。あんなん只のリップサービスじゃんか。いちいち本気にしてたら身が持たねーぞ!!」

 呆れたように盛大にため息までついた。

「お前がしっかりしてたら、ジュリアンちゃんはオレじゃなく、お前に同じ事言ったはずだぜ!何でオレなんだよ。冗談じゃねーぜ!」

 ファーンが結構本気で怒ったように言うので、「わ、悪い」と謝る事しか出来なかった。

 まあ、俺的には醜態を曝したわけだが、それでも美人司書様と面談するという俺の夢は一つ叶った事になる。それはそれで良かったとしよう。


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